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難解な物理・数学を解説。博士課程からYouTuberへの転身を聞く

【連載】転換点 #4 YouTuber・ヨビノリたくみ氏

登録者84万人、物理や数学などを解説する教育系ユーチューバーとして有名なたくみさん。「予備校のノリで学ぶ『大学の数学・物理』」(ヨビノリ)のチャンネルで活動している。研究者を目指した博士課程からの転身のきっかけと、今後について聞いた。

―YouTubeを始めた経緯を教えてください。

「元々は物理学の研究者になるため、博士課程に進んだ。その際、運良く日本学術振興会の特別研究員に採用された。ただ、副業が禁止で、それまで続けていた予備校のアルバイトをやめざるを得なかった。そこで、経験を生かした大学生向けの授業動画を作り始めた。研究者になれるのかという不安もあったので、保険の意味合いもあった」

ー大学生向けにした理由は。

「理系の授業は分かりやすくなく、自分自身も苦労したからだ。大学受験の際には塾や予備校など分かりやすい授業があるのに、大学に入った途端、なくなってしまう。授業が難しいと大学をやめてしまう『理系離れ』が起きてしまうと考えた」

ー2018年からは博士課程を中退し、YouTubeでの活動を本格化しました。

「想定よりもチャンネルの反響があったので切り替えた。当時はまだ教育系ユーチューバーの数が少なかったが、YouTube自体の市場は大きくなっていたので、時代の流れがあると思い決めた。授業動画とYouTubeの相性の良さも感じた。予備校の教室であれば、多くても50人ほどの生徒にしか授業ができない。YouTubeであれば、何万人という人に向けて授業ができる」

ーただ、ユーチューバーという不安定な道に進むことへの不安や周囲の反対などはなかったのでしょうか。

「研究者を目指すことは安定した道ではない。任期のないポストに就けるのが30歳を超えてからということも珍しくない。自分の中では研究者かユーチューバーという分岐があった感覚ではなく、連続性の進路を進んだ結果が今だと感じている。大学に所属していないだけで、何も変わらないというのが本音だ。周囲の人も『(YouTubeを)やりそうだよね』といった受け止めだった。また、研究というのは大学にいなくてもできるのではないか」

―今後の活動について教えてください。

現役の大学教授が出演する動画も(青山学院大学理工学部の松川宏教授)

「大学の環境を良くしていきたい。そのための活動やコンテンツを出していきたい。目標の一つは大学教授の授業の負担感を減らすこと。大学教授は研究のプロではあるが、授業をすることのプロではない。また、大学生の学力レベルはまちまちで、授業を成立させるためにはかなり初歩的な段階から始めないといけない。そうするとシラバスの内容を消化できない。そういった課題を補完する形で授業動画を使ってもらいたい。もう一つは研究について広く知ってもらうためのコンテンツを出していく。最近であれば、現役の大学教授に出演してもらい、自分の研究について話してもらっている。難易度は高くなるが、教授の本気を感じてもらい、研究へのリスペクトが高まればと思う」

【略歴】たくみ。教育系のYouTubeチャンネル「予備校のノリで学ぶ『大学の数学・物理』」(ヨビノリ)で講師を担当。主に大学の数学や物理の解説動画を配信。28歳。
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小林健人
小林健人 KobayashiKento 経済部 記者
昔から動画を拝見していますが、わかりやすいだけでなく、飽きさせない工夫も感じます。たくみさん曰く「編集には相当工夫している」とのこと。ただ、「不自然なカットはせず、長回しで撮っている」とポイントを話してくださいました。個人的には多層ニューラルネットワークの解説動画が面白いと思います。

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