量子の性質を生かした計算能力を持つアルゴリズムとは?
グリッド(東京都港区、曽我部完社長)は、電気通信大学の協力を得て、量子アルゴリズムに着想を得た機械学習アルゴリズム「量子インスパイア型分類アルゴリズム」を開発し、シミュレーションと理論によって、有用性を実証した。これにより、量子の性質を生かした計算能力を持つアルゴリズムを実用課題に適用する可能性を開いた。(編集委員・斉藤実)
開発したアルゴリズムは、世界最古の量子アルゴリズムである「Deutsch―Jozsa(DJ)アルゴリズム」から着想を得て、その原理と古典的なクラスタリングアルゴリズム「DBSCAN」を融合した、分類問題を解く新たな機械学習アルゴリズムとなる。
従来の機械学習アルゴリズムは、データを分類する際に、分類の決め手となるデータを一つ一つ吟味して判定していた。新しいアルゴリズムでは多数のデータから決め手となるデータを少ない回数で判断するDJアルゴリズムの特徴を生かして、効率的に学習できる。
機械学習分野で使われる分類問題に対して、アルゴリズムの有用性を実証しており、同じ性質の古典的アルゴリズムである「Kernel SVM」と比較して、モデルの学習にかかる計算速度について理論的に優位性があることを確認した。
加えて、モデルの複雑性の指標である「VC次元」の上限値を導き出すことにより、アルゴリズムの学習可能性を理論的に証明した。
新開発のアルゴリズムはアルゴリズム自体に量子の特性の一部を再現させているため、既存の古典コンピューター上でも同アルゴリズムを導入することで、量子コンピューターの特性を再現することが可能。量子コンピューターという実機がなくても、古典コンピューター上でも量子的特性を再現して計算できる。
近年、量子コンピューターの実機開発のみならず、アルゴリズム開発の関心が高まっている。中でも量子の特性によって、従来の古典コンピューターにおける機械学習よりも高性能のモデルを構築できる可能性が高いとされる「量子機械学習アルゴリズム」の開発に注目が集まっているという。
一方で、「NISQ」と呼ばれる、誤り訂正機能を持たない現在の量子コンピューターでは、量子ビット数の制限やハードウエアのノイズによって計算能力が制限されており、現状の実機性能では量子アルゴリズムを開発しても実現的な問題に適用することは難しい。
量子インスパイア型分類アルゴリズムは古典コンピューター上でも量子の特性を生かした計算を行えるため、古典コンピューターと量子コンピューターの両方を使うハイブリッド方式での利用も可能。アルゴリズムの中でも量子の特性を生かせる計算部分のみを量子コンピューターで行い、残りを古典コンピューターで計算させることで、計算のさらなる高速化が期待できる。