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今度は「合板」高騰…ウッドショック長期化、尽きぬ不安要素

今度は「合板」高騰…ウッドショック長期化、尽きぬ不安要素

国産丸太をめぐって激しい争奪戦が続いている(イメージ)

今度は“合板ショック”―。木材の価格高騰「ウッドショック」が長期化し、本来直接的な影響が少ないはずの合板まで品不足や価格高騰が生じている。コロナ禍によるマレーシアやインドネシアのロックダウン(都市封鎖)などで輸入合板の入荷が減少し、国産の合板も製材会社との丸太の取り合いが続いている。度重なる自然災害に加えて新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」まん延の懸念もあり、年末になっても気をもむ関係者が多い。(成田麻珠)

建設現場、工期遅れも

「合板が足りない」。関係者から悲鳴に近い声が上がる。「今年の春以降ずっと値上がりが続いている。合板メーカーは“作っては出し”を繰り返している状況」と話すある業界関係者は、「在庫量も減っている。到着した製品が5日前の作りたてのこともあるくらいだ」と厳しい現状を訴える。

合板は丸太をかつらむきのように薄切りにした単板を、繊維が交差するように接着材で重ね合わせて耐久性を高めた木材製品。コンクリート型枠や、住宅など木造建築物の壁や床の下地材、内装用の化粧板などさまざまな用途がある。1920年頃から東南アジアのラワン材による輸入合板が主力だったが、熱帯雨林保護などの観点から国産杉の間伐材などへ原材料転換が進み、現在では国産合板が使用量の約半数を占めている。

この合板の価格が高騰している。品物自体も不足し、一部では工期の遅れなどの声も上がっている。林野庁によれば2021年10月の合板輸入平均単価(1立方メートル当たり)は、前年同月比約3割増の7万1670円。21年1―10月の輸入量はコロナ禍以前の19年と比べて少ない状況にある。

国産合板も4月以降徐々に値を上げており、東京木材問屋協同組合によれば、11月の国産針葉樹構造用合板特類(2級C―D、1・82メートル×12ミリメートル×91センチメートル)の価格は1枚当たり1700円。前年同月比約5割増で推移している。

価格高騰の理由は複数あるが、主因は21年春から日本でも大きな影響が生じた国際的な木材の価格高騰「ウッドショック」だ。発端はコロナ禍からいち早く経済活動を再開した米国や中国の木材需要の増加だが、日本では主に角材や板材など製材が影響を受けた。

輸入材不足、国産に殺到

合板の国産材比率が50%以上であることを踏まえれば、影響は軽微に収まりそうにも思える。しかし、コロナ禍で合板の主要輸入国であるマレーシアとインドネシアがロックダウンを実施し、輸入材の不足から国産合板の需要が増加。これにウッドショックによる輸入製材不足が、国産材への代替需要に拍車をかけた格好だ。このため、国産丸太の争奪戦が生じ、現在もその状況が続いている。

国内で供給量を増やすことが難しい丸太は急激な需要増に対応できず、価格がつり上がっていった。林野庁によれば、11月の「すぎ中丸太」の価格は1万7500円と、前年同月比3割増で推移している。

また、合板特有の要因として、北米でのキャンピングカーを含むRV(レクリエーショナル・ビークル)市場の拡大も背景にある。キャンピングカーの床材として合板を使用するため、「東南アジアの国で、米国への合板の輸出を増やしている」(関係者)という。印モルドールインテリジェンスの資料によれば、20年に267億ドル(約3兆300億円)と評価した北米RV車市場は、21―26年に年平均成長率が約5%となり、26年までに357億ドルに達すると予測している。

豪雨・熱波、産地を直撃

自然災害の影響もウッドショックの長期化を助長している。輸入製材の産地であるカナダ西部など北米では、7月に記録的熱波に見舞われ、入山規制や物流の混乱が生じた。同地は11月中旬にも記録的な豪雨が生じ、伐採困難や輸送遅延が起きている。

さらに、この豪雨以降米シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の木材先物価格は上昇。ウッドショック時には5月に最高1670ドル、8月に最低456ドルと大きな振れ幅で推移してきたが、現在は再び1000ドルを超えている状況だ。

豪雨の影響は12月2週目以降収束に向かっているようだが、カナダの木材を取り扱うT&Hフォレストの谷貝(やがい)東彦社長は「22年の市場と輸送状況は今年同様、不安定な状況が続くのでは」と不安を隠さない。

国際的なコンテナ船の輸送停滞も継続している。日本向けコンテナ運賃はウッドショックが沈静化したとみられた21年8月以降、さらに急騰している。日本海事センターによると、20年11月に1470ドル(40フィート、1個当たり)だった主要航路コンテナ運賃(ロサンゼルス発―横浜着)は、21年10月には2520ドル(同)まで上昇した。

合板の在庫は減り続けている(イメージ)

では合板ショックの解消はいつ頃になるのか。木材専門商社の物林(東京都江東区)の淡中克己社長は、「年末・年始は輸送用トラックが不足する上に、労働の制限や丸太不足もあるため21年度中の収束は難しいのでは」とみる。特に住宅や建築物の完工は3月の年度末までに集中する。22年4月以降の需要期が過ぎるまでは、争奪戦が続くことになりそうだ。

同様に年度内の混乱解消を難しいとみる別の関係者は、原油高などの問題も危惧する。「『T1(タイプワン)』という耐水性の高い合板を製造する際に用いる接着材には、原油を材料とするメラミン樹脂が含まれる。この調達難が年明けには顕在化する懸念がある」とし、T1の不足状態はさらに長引く可能性を指摘する。新型コロナのオミクロン株による感染再拡大の可能性もあり、不安要素は尽きることがない。

日刊工業新聞2021年12月22日

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