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九州新幹線のダンパーの塗装を担うロボット「コぺル」の正体

九州新幹線のダンパーの塗装を担うロボット「コぺル」の正体

コペルのワーク搬送用台車。人手による作業はブースへのワークのセットと乾燥室からの取り出しのみ

JR九州エンジニアリング(福岡市博多区、師村博社長)は、鉄道車両の整備現場でのロボット導入を積極的に進める。九州新幹線の整備を手がける熊本市内の事業所では、ロボットアームによる塗装システム「コペル」が活躍する。ダンパーなど小物部品を自動塗装するもので「鉄道会社初」を掲げる。自社開発し年1800時間の省力化を実現した。ロボットと縁遠いとされる鉄道整備の現場に新風を吹き込む。(西部・三苫能徳)

JR九州エンジニアリングは、JR九州グループ内外の車両設計や製作、整備を主力とする。2020年7月、新幹線熊本車両事業所(熊本市南区)に導入したのがコペルだ。車両の定期検査で部品を取り外し、防錆塗料を塗り直して組み付ける中でダンパーと軸箱の塗装を担う。

所長の田辺努執行役員は「現場で使う前提で現場を中心に開発したシステム」と胸を張る。安川電機のロボットアーム2台で構成し、JR九州エンジニアリングもシステム開発に加わった。

コペルでは1台が加工対象物(ワーク)を把持し、もう1台による塗料吹き付けの動きに合わせて角度を変えながら均一に塗装していく。専用の搬送台車に複数のワークをセットした後は乾燥工程まで自動で終える。人手による作業は、台車のセットと乾燥室からの取り出しに限られる。

コペルでは1台のロボットアームでワークを把持し、もう1台が塗料を均一に吹き付ける

コペルの特徴は形状の異なるワークにシステム1構成で対応する点。九州新幹線を走る車両は1編成当たり100―126本のダンパーがある。種類は14あり、重量10キロ―70キログラム、長さ500ミリ―1600ミリメートルと多様だ。そこで簡単なティーチングでさまざまな形状に適応できるように設計。導入後に対象部品を広げながら効率化を進めてきた。

ロボット導入で、年2400時間かかっていた塗装作業の75%を削減。塗りムラを低減し品質も高まった。搬送台車や治具は自作した。ワークをアームカバーでマスキングするなど素早く作業できる工夫も作業時間短縮に貢献した。

これまでも大物である車両台車の塗装にはロボットを運用してきた。だがダンパーなど小物部品はクレーンで吊り、人手によりブラシで塗装していた。重量物を扱う上に塗料で汚れる、いわゆる3K作業。団塊世代の大量退職と採用難の中、省人化と作業環境の改善を両立できるロボットによる解決を図った。

導入当初は手作業の方が早いとの雰囲気も現場にあったが、調整でロボットの運用を一時止めた際には「早く現場に戻して」と声が上がるまでになった。

コペルの名は、地動説を唱えた天文学者コペルニクスにちなんだ。名付け親でもある田辺所長は「常識を覆すことをイメージした」と説明する。

部品塗装は全国の鉄道会社で実施しており、課題も共通する。省スペース性や作業ピットの掘削工事が不要な点、レイアウト変更が容易な点など導入によるコスト削減などの利点を訴えて外販も狙う。鉄道業界の常識をコペルで塗り替える構えだ。

日刊工業新聞2021年12月16日

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