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「原発力」でインドの新幹線を射止めた

「原発力」でインドの新幹線を射止めた

右はウエスチングハウスが建設した中国の三門原子力発電所1号機

 日本とインドは新幹線方式導入と原子力協力で合意した。インドネシアへの新幹線輸出に失敗した日本。一方、電力不足が深刻で日本との原子力協定締結を急ぎたいインド。双方の思惑が一致した。

 インドのモディ首相は2050年までに総電力の25%を原発で賄う目標を打ち出している。しかしその実現には日印原子力協定の締結が不可欠。インドは今年1月にようやく米国との原子力協定が最終合意に達し、米原発メーカーによるインド進出に道が開けた。

 ただ、米ウェスチングハウスは東芝傘下で、同ゼネラル・エレクトリック(GE)は日立製作所と合弁を組む。原発建設には日本企業だけが持つ技術や部品もあり、日印の協定が締結されない限り米企業もインドで原発建設ができない。

 一方、安倍政権も、核拡散防止条約(NPT)に加盟していないインドとの協定締結には世論の動向を慎重に見極める必要がある。新幹線輸出の実績は追い風になることは間違いない。

JR東日本を中心に企業連合


 安倍晋三首相とインドのモディ首相が12日の首脳会談で、同国西部の高速鉄道計画への日本の新幹線方式の採用で合意したのを受け、JR東日本や関連メーカーなどは企業連合をつくり、車両からレール、運行制御システムまで全てを日本仕様でそろえる一括受注を目指す。

 新幹線方式の海外輸出は07年に開業した台湾に次ぎ2例目。台湾では通信や軌道の一部に欧州方式が用いられた結果、「統一性に欠け、開業準備に必要以上の時間を要した」(国交省幹部)という。日本の関係者はインドの受注を日本式で統一できれば安全性と効率的運用の両立が容易になるとみている。

 受注を担う企業連合の組成はこれからだが、JR東日本、新幹線の運行制御通信システムを手がけてきた日立製作所、専用レールの製造実績がある新日鉄住金、JFEスチールなどは一様に「合意を歓迎する」と参加に前向きだ。
 
日刊工業新聞2015年12月15日3面記事を加筆・修正
永里善彦
永里善彦 Nagasato Yoshihiko
日本製鋼所室蘭製作所は、原子炉容器の中核部を単一の鋼塊をくり抜いて放射能漏れの恐れが少ない形で製造することができる世界で唯一のメーカーである。日製鋼は、自国で鍛鋼製品を生産するロシア以外の世界の全ての原子炉にこの製品を供給している。インドは米英仏豪などと原子力協定を結んでいるが、原子力発電所建設には日本企業だけが有する技術・製品を使う必要があり、日精鋼の製品なしにはできない。経済成長を加速するため、エネルギーのインフラ建設に余念がないインドは、日本の原発技術の導入に積極的である。インドネシアで新幹線技術の売込みに失敗した日本としては、この原発技術の強みを武器に、セットで売込みを図り、実績を積み重ねる必要がある。

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