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UberやAirbnbと違うシェアリングエコノミーの可能性

ひずみを縮小するソリューションになるのか
 2020年までに訪日外国人観光客数2,000万人を達成するという政府目標は、年内に達成する見込みが立ったことから、いま政府では2020年の目標を3,000万人超に引き上げる議論が行われている。

 そんななか、最近注目を集めているのが「民泊」。ホテル不足解決策として、一般家庭やマンションの空き部屋などを宿泊施設として提供・利用する「民泊」は、個人が所有する車や住居といった資産から、スキルや時間に至るまで様々な価値提供を仲介するシェアリング・エコノミー(共有型経済)のひとつの形態。2000年代にアメリカで生まれ、ソーシャルネットワークサービス(SNS)の浸透と共に急速な成長を遂げてきた。

 日本でも、2014年に配車アプリ大手のウーバー・テクノロジーズをはじめ、海外で成功を収めたサービスが国内参入したことで環境が整い始め、2015年には日本生まれのサービスも様々にスタート。今後はいわゆる“インバウンド”、訪日外国人観光客効果なども相まって、ますます拡大・成長が見込まれると考えられてる。

労働力の搾取か。世界で増える訴訟


 しかし、こうした急速な成長の陰に、世界各地で“ひずみ”が見えはじめているのも事実。たとえばフランスでは今年6月、ウーバーに反対するパリのタクシー運転手らが起こした暴動の写真が新聞を飾ると、その数日後、同社の幹部2人がフランスの警察当局によって逮捕さた。

 また、エアビーアンドビー社は米国、欧州、インド、ラテンアメリカで訴訟を抱え、一部は今も係争中。日本でも、このところ「民泊」が騒音や環境悪化といった問題を巻き起こしているという報道が目立つ。急速に注目を集めたシェアリング・エコノミーは、本当に成長を続けられるのか。

 シリコンバレーでは、今やシェアリング・エコノミー企業は「ユニコーン(企業価値が10億ドルを上回るスタートアップ企業)」の主流として位置づけられている。たとえば、6年前に創設されたウーバーは、シリコンバレー史上最速の成長を誇るスタートアップ企業で、直近の資金調達で企業価値は500億ドルに。フェイスブックよりも1年早くこの数字に到達している。

 そして、そこで働く人たちも、週40時間を超えて日常的に勤務するようになり、ニューヨーク市のような都市では年間9万ドル以上も稼ぐ人まで出てきている。

 しかし、これらの企業の多くは、労働者に対して医療保険や退職金制度のような手当を支給しない。そのため、急騰する企業価値への評価額に対しては、契約労働者を中心とする労働力の搾取によるものではないかという疑念も生まれ始めている。

 「企業価値はアプリから生まれるものではない。それに参加する人たち、そしてその人たちの資産や時間から生み出されている」とシェアリング・エコノミーの戦略コンサルタントのチェルシー・ラストラム氏は言う。

 シェアリング・エコノミーに参加するドライバーの権利を擁護する非営利組織、California app-based Drivers Association(カリフォルニア・アプリベースド・ドライバーズ協会)は、権利擁護の立場を明確にしており、実際にこうした組織の支持者が訴訟で勝利している。

 例えば年6月、カリフォルニアの女性ドライバーがウーバーに勝訴。この判決では、彼女を独立した請負業者ではなく社員とみなすべきだとする判決が下された。この判決は今後、自家用車を使って乗客を運ぶ「ライドシェア」事業を営む何百万人ものドライバーに影響を与え、広くシェアリング・エコノミーを利用する労働者に影響する可能性を秘めている。

労働者組合型は大手の価値に対抗できるか


 こうしたなか、異なる経営手法を打ち出す企業も出てきた。それが労働者組合型ビジネスモデルだ。これは、がむしゃらに成長を追及するのではなく、よりシェアリング・エコノミーのルーツに近い形をとっている。

 仕事のたびに賃金を支払うのではなく企業が生み出した利益を労働者間で分配する、というもの。たとえば、2015年に設立されたデンバーのグリーン・タクシー社は、組合型組織としてウーバーと同様の配車サービスを提供している。

 シェアリング・エコノミー企業に関する労働者組合の数や成長率に関するデータはまだ多くないが、ウィスコンシン大学の研究者によると、米国だけでも約300~400の労働者組合が設立され、雇用者数は3,500人以上、年間売上高は4億ドルを超えると予想されている。

 組合型組織の多くは地域的で、平均的規模は従業員50人とまだまだ小規模なため(たとえば、エアビーアンドビーは3千人)、短期的にみれば、ウーバーやエアビーアンドビーのような大手グローバル企業にとっては大きな脅威ではないかもしれないが、組合型シェアリング・エコノミー企業の訴求力ある価値提案で規模拡大を果たすのも時間の問題かもしれない。

 こうした状況に、労働者や一般市民の要求を重ね合わせてみると、シェアリング・エコノミーを利用する巨大企業自身は進化するしかなく、そのためには以下の4つの戦略が求められる、とラストラム氏は指摘している。
(1)ビジネスを構成する価値創出者に価値を分配する
(2)意思決定においては、人々の利益を重視する
(3)少なくとも持続性のある、地域の生活賃金に見合った報酬を支払う
(4)顧客であるサプライヤー、労働者のニーズに耳を傾けて行動する


 つまりは、シェアリング・エコノミーのルーツに立ち戻るということ。そうすれば、単に生み出された富を広く分配するだけでなく、継続的な拡大も可能になるかもしれない。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
先日、日立の中西CEOと会う機会があった。中西さんは「いずれCSRという言葉はなくなっていく」と話していた。そもそも社会課題を解決していく事業をしていかないと企業は存続できないという。その過程で従来の「労働者」の定義や組合のあり方も変わっていくだろう。

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