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コロナワクチン「3回目接種」開始、政府方針の全容と残る多くの課題

コロナワクチン「3回目接種」開始、政府方針の全容と残る多くの課題

オミクロン株の発見でコロナとの戦いは長引きそうだ(ダイキン工業の職域接種開始=6月)

新型コロナウイルスワクチンの3回目接種(追加接種)が1日に始まった。医療従事者を皮切りに、65歳以上の高齢者、職域接種、64歳以下の人と順次進める。新たな変異株「オミクロン株」は現時点で現行ワクチンの有効性など不明な点は多いものの、政府はオミクロン株への効果とは切り離して追加接種を実施する方針。追加接種に向けて自治体の準備も進むが、適正な供給量の確保やオミクロン株への対応など流動的な部分も多い。全世界からの外国人の入国停止などを含め、新型コロナに対する守備固めを盤石にする。(幕井梅芳、石川雅基)

【まだ危機のさなか】ワクチン効果高める

オミクロン株の発生を受けて、岸田文雄首相(自民党総裁)は11月30日の党役員会で「我々はまだ危機のさなかにある」と発言。外国人の入国を原則停止にする臨時の水際措置について報告した。合わせて「具体的な行動によって国民の安心を取り戻したい」と強調。3回目のワクチン接種を無料検査の充実や飲み薬の普及などに並ぶコロナ対策の柱に据える。

ワクチンの追加接種はなぜ必要なのか。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は、「ワクチンの効果には限界がある。血中に含まれる抗体量(抗体価)が時間の経過で低下し、ブレークスルー感染が起きることもある」と指摘する。追加接種で抗体価が増えるほか、イスラエルでは高齢者が接種後、2回接種者に比べ感染・重症予防効果が10倍以上になったとの研究結果もある。

こうした中、世界ではワクチンの効果を高めようと2回接種が完了した人を対象に、追加接種の動きが加速している。イスラエルが8月に高齢者を対象に始めたのを皮切りに、英国、フランス、米国、ドイツ、シンガポールが相次いで踏み切った。日本も11月、厚生労働省の専門分科会で追加接種を了承。米ファイザーや米モデルナ製についてはメーカーが異なるワクチンを組み合わせる混合接種も認められた。

日本ではワクチンの2回接種が終了した18歳以上の人が追加接種の対象となり、2回目からの間隔は原則として8カ月以上とする。医療従事者は12月から、高齢者は2022年1月めどに開始する計画だ。

ただ、接種間隔をめぐって混乱が生じている。厚労省は当初、地域の感染状況などを考慮し、6カ月に前倒しする可能性も示唆していた。6カ月に早める方針とも受け止められ、自治体からの問い合わせが相次いだ。

これを受けて後藤茂之厚労相は「あくまで8カ月が原則。感染拡大などの緊急時に限り、厚労省と相談して6カ月の場合もあるということだ」と火消しに奔走。その後も全国知事会から「6カ月とする場合の基準を明確にしてほしい」との要望が寄せられ、厚労省が例外の基準づくりを余儀なくされた。後藤厚労相は11月30日、「(3回目の)接種時期を前倒しせず原則8カ月後とする」考えを改めて示した。

オミクロン株の脅威もある。仮にオミクロン株に現行ワクチンが効かないと、新たなワクチン調達が必要になり、追加接種の日程に影響を及ぼしかねない。専門家の中には「3回目接種で果たして終わるのか。毎年必要になる可能性もある」との指摘もある。コロナが継続的に変異を続けており、更なるワクチン確保が必要になる。ワクチン接種を希望する国民にワクチンを供給するには、膨大な費用がかかる。依然として残された課題は多い。

【自治体の準備】一番のネック「供給量」

3回目のワクチン接種に向け自治体の準備も進む。多くの自治体では、医療従事者への12月からのワクチン接種に向け、11月中旬頃から接種券の発送を開始。12月から65歳以上の高齢者などへの接種券の発送を順次始める予定だ。

接種券の発送で課題となるのが、2回接種後に他の自治体から転入してきた住民への対応だ。3回目の接種券は、2回目の接種者データを基に発送するが、ワクチン接種の情報は転居先の自治体には引き継がれない仕組みになっている。そのため転居者は、転入先の自治体への申請手続きが必要になる。手続きは自治体によって異なるが、インターネットや電話などで受け付けている。広島市の担当者は「(市と住民ともに)一手間かかっているが、接種するために確実に申請してほしい」と訴える。

1回目の接種では予約の際、電話による問い合わせやインターネットへのアクセス、窓口への相談などが集中し、混乱があった。そのため3回目接種では、接種の日時と会場を指定する自治体もある。

新宿区は高齢者を対象に、区が指定した日時、会場で接種する方法に変更した。区が指定した日時に接種できない場合は、インターネットや電話で変更を受け付ける。区の担当者は「1回目接種の予約時に生じたような混乱を防ぐことが目的」と狙いを話す。

神戸市では、接種者が「集団接種を希望するが、日時と会場の希望はない」場合、市が接種日時と会場を決める「おまかせ予約」を導入する。市が接種券と併せておまかせチケットを郵送し、接種者がそれを返信して申し込む。市が集団接種の予約を取り、郵送で知らせる。市の担当者は「どれくらい申し込みがあるかは読めないが、1回目接種の予約の際、市に日時と会場を決めてほしいという声は多かった」と振り返る。

東京都は主に医療従事者の3回目接種を対象に、大規模接種会場を開設する。まず12月中旬に1日1700人程度が接種できる会場を都庁第1本庁舎の展望室に設け、その後4カ所程度を増設する。期間は22年2月までの予定だ。都の担当者は「引き続き高齢者への接種も対象にするかはワクチンの供給量にもよるため、まだはっきりしたことは言えない」と説明。「3回目接種に向け、一番のネックはワクチンの供給量」(都担当者)と不安も漏らす。

ワクチン接種率は高まったが、効果持続には3回目接種が必要になる(東京都の大規模接種会場=11月30日、都庁内)

都と同じく多くの自治体がワクチンの供給量を懸念している。政府から予定の量が届かず、7―8月頃に自治体が接種の中止や新規の予約を停止するケースが相次いだためだ。神戸市では7月上旬に一時受付を制限。市の担当者は「10万人程度に影響が出た。接種計画が遅れたため、3回目接種ではそうしたことがないよう国にしっかり要望を出したい」という。同じく予定した供給量を受けることができなかった新宿区は「国や都から情報が届くのが遅かった。混乱が生じないよう早めに情報がほしい」(担当者)と訴える。

日刊工業新聞2021年12月1日

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