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パンもポテチも値上げ、食卓に忍び寄る“悪い”物価上昇の理由

パンもポテチも値上げ、食卓に忍び寄る“悪い”物価上昇の理由

小麦は政府売り渡し価格が19%上昇。製品値上げは避けられない

食料品の価格高騰が食卓に忍び寄っている―。2020年から大豆や小麦の国際相場の上昇で食用油や小麦粉など原材料の値上げが続いていたが、ここに来て、パンやポテトチップスなど、最終製品の価格に波及。食用油メーカーなどは高騰分を値上げで補いきれず、価格転嫁が追いついていない。食料品価格の高騰は国内の需給ではなく、国際相場の影響が色濃い。農作物の収量減少など気候変動も一因とみられ、一過性のものではなさそうだ。(高屋優理)

中長期的な警戒が必要 「穀物→バイオ燃料」争奪戦に

食料品の価格高騰の背景には大豆や小麦、トウモロコシなど、原料となる穀物価格の国際相場の上昇がある。シカゴの大豆相場は20年5月に1ブッシェル=約8ドル(約880円)だったが、21年4月には同15ドルと約2倍に高騰。直近では同12ドル前後で推移し、ピーク時に比べやや下がったものの、ここ5年は高値水準が続く。

これは中国やインドなどの輸入拡大や主要産地である北米の天候不順が主因だ。また、菜種は収量が歴史的な低水準となり、食用油を高騰させている。菜種だけでなく、果実類やコーヒー豆などの収量も減少。一過性の天候不順とも言いがたく、中長期的に警戒する必要がありそうだ。

大豆は期初想定と比べ落ち着いているが、為替の円安ドル高進行で輸入原料価格が上昇し、大豆などを輸送するドライバルク船の海運市況も高騰。日清オイリオの小林新常務執行役員が「原料価格は高止まり」と話すように、コストの複合的な上昇が収益を圧迫する。

一方、小麦は年初から価格高騰が続く。米国小麦相場は11月に同8ドルとなるなど、19年4月の約2倍の値をつけた。これを受け、農林水産省は10月期の輸入小麦の政府売り渡し価格を、4月に20年10月期比5・5%、10月に4月期比19%引き上げた。09年以来の高値水準となる。小麦はここ5年、上下を繰り返してきたが、足元の1年は右肩上がりだ。

穀物は食用の需要だけでなく、脱炭素の流れの中でバイオ燃料としての需要も高まり、今後も世界的な需給バランスは強含む見通しだ。

食用油〈年4回値上げ、14年ぶり〉

日清オイリオグループ、J―オイルミルズ、昭和産業の大手3社は11月納入分から、家庭用食用油を1キログラム当たり30円以上引き上げた。業務用食用油では1斗缶当たり500円以上、1キログラム当たり30円以上となった。加工用食用油バルクも1キログラム当たり30円以上引き上げる。3社は21年に4月、6月、8月、11月と4回値上げし、1年で4回となるのは07年以来14年ぶり。家庭用の1キログラム当たりの価格は、年初に比べて100円以上上がっている。

調味料〈天候不順も要因の1つ〉

食用油の値上げですぐに影響が出たのは、マヨネーズやドレッシングなどの調味料だ。キユーピーと味の素は7月出荷分から、業務用、家庭用のマヨネーズとマヨネーズ関連商品の価格を引き上げた。値上げ幅はキユーピーが2―10%、味の素が1―10%。両社ともに値上げは13年以来、8年ぶり。キユーピーは20年12月―21年8月の営業利益で約24億円の減益要因となった。味の素の西井孝明社長は「食用油や卵など下期の原材料費は上期に比べ4倍くらいになる。今後も上がる可能性があり、注意深くみている」としている。

マーガリンも油脂価格の影響を受けて値上げ。明治と雪印メグミルクは10月出荷分から、市販用マーガリン類などの価格を3―13%引き上げた。マーガリンは世界的な需要拡大と合わせて、原料となるパーム油の主要産地の天候不順も要因の一つだ。

カルビーもジャガイモの収量減や食用油の価格高騰でポテトチップスなどを値上げする

キッコーマンは大豆の価格高騰を受け、22年2月16日納品分から、しょうゆ、豆乳など216品目を値上げする。値上げ幅はしょうゆで4―10%、豆乳で5―6%。大豆をはじめとした原材料価格に加え、物流費も高騰しており、21年4―9月期の事業利益では13億円の減益要因となった。キッコーマンがしょうゆと豆乳を値上げするのは08年以来14年ぶりとなる。

ポテトチップス〈一部商品は中身減らす〉

カルビーは22年1月24日出荷分から順次、ポテトチップスなど17品目の価格を7―10%引き上げる。また、15品目は内容量を減らす。カルビーの値上げは19年6月以来、2年半ぶり。湖池屋も22年1月31日出荷分から30品目を順次、6―11%値上げする。一部商品はカルビーと同様に内容量を減らす。食用油など原材料費の高騰が主因だが、高温、干ばつによる北海道産ジャガイモの減収も痛手となった。北海道地方の高温、干ばつは気候変動も少なからず影響しているとみられ、今後も収量の減少は課題となりそうだ。

カルビーもジャガイモの収量減や食用油の価格高騰でポテトチップスなどを値上げする

小麦粉〈家庭用も来春値上げ〉

日清製粉グループ本社、ニップン、昭和産業の製粉大手3社は、政府売り渡し価格の引き上げに伴い、業務用小麦粉の価格を6月納品分から引き上げ、12月納品分も値上げする予定。家庭用小麦粉についても22年1月から価格を上げる。値上げ幅は1―10%で、麺類やパスタなどの食品類も2月に値上げする計画だ。

パン〈製品値上げ、今後も続く〉

小麦粉の価格引き上げを受け、製パン各社は11月に22年1月からの値上げを発表した。山崎製パンは食パンや菓子パンなど247品目を平均7・3%値上げする。食パンは平均9%、菓子パン類が平均6・8%の値上がりとなる。山崎製パンの値上げは18年7月以来3年半ぶり。

敷島製パンも242品目を平均6・7%値上げ。また、フジパンも254品目を平均8%引き上げる。

小麦粉は政府の売り渡し価格によってメーカーの仕入れ値が決まるため、製品価格への転嫁には時差がある。足元の国際相場の価格は上がり続けており、今後も製品価格が上昇しそうだ。

即席麺〈高付加価値で高騰分を吸収〉

日清食品ホールディングスは即席麺について、ブラジルや米国では値上げしたものの国内市場では現状、価格改定はしていない。矢野崇最高財務責任者(CFO)は「付加価値の高い商品を出すことで原材料価格の高騰を吸収できた。値上げもオプションの一つだが、まずはコストの削減と高付加価値商品の開発に力を入れる」とした。

私はこう見る/第一生命経済研究所首席エコノミスト・永浜利広氏

食料品の価格はここ10年、海外の経済成長に伴い上昇しており、今後も続く。日本にとって今の食料品価格の高騰は、輸入品の値上げによって起きていることで、国内の需給ではない。日本はデフレの中にあり、輸入品の原材料やエネルギーの高騰による値上げでは、賃金の上昇につながらない「悪い物価上昇」となってしまう。

第一生命経済研究所首席エコノミスト・永浜利広氏

対策としては食料の自給率を上げ、農業に参入しやすい仕組みを作るといったことも考えられる。いずれにせよ、国際市場で原材料やエネルギーの買い負けを避け、日本の購買力を高めるためには、必要な政策を施し、日本経済を強くするしかない。

日刊工業新聞2021年11月24日

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