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進化する企業の生物多様性保全、NECの取り組みに専門家が注目するワケ

進化する企業の生物多様性保全、NECの取り組みに専門家が注目するワケ

都市部でありながら紅葉も楽しめる森ビル・六本木ヒルズの緑地

企業による生物多様性保全が進化してきた。NECは事業所内で外来種駆除に取り組み、専門家からも注目されるようになった。森ビルは人の心身を健康にする緑地づくりを始めた。政府は2023年度から企業緑地を国の生物多様性保全の目標達成に組み込む認定制度を始める。生物多様性と言えば生き物を守る活動というイメージがあったが、今後は“質”の向上にも力が入りそうだ。

敷地内で外来種駆除

NECの我孫子事業所(千葉県我孫子市)には湧き水でできた「四ツ池」がある。09年の調査でオオモノサシトンボの貴重な生息地と分かった。オオモノサシトンボは関東などで見られるだけで、環境省指定の絶滅危惧種となっている。

四ツ池には外来種のアメリカザリガニ、ブルーギル、オオクチバスも生息する。事業所内なので人が持ち込んだとは考えにくいが、繁殖力が強くオオモノサシトンボの生息地が奪われていた。

そこで同社は専門家とともに定期的に駆除してきた。すると「生態系のつながりがみえてきた」(サステナビリティ推進本部の石本さや香主任)という。ブルーギルとオオクチバスが減るとアメリカザリガニが増え、水草が減少。水草はオオモノサシトンボの産卵場と考えられる。そこでアメリカザリガニの稚児を食べるウナギを投入するとアメリカザリガニが減少し、水草が復活した。また、これまでの駆除記録からブルーギルを年5000匹取り除くと、オオモノサシトンボが増えることも分かってきた。

企業の敷地内での外来種駆除は珍しく、「研究者の間で四ツ池は有名。公開日には遠方からも視察が来る」(同)という。天敵が侵入しない環境を生かし、事業所内で絶滅危惧種のゼニタナゴ(コイ科)を育てて四ツ池に放流した。石本主任は「何年もかけて成果が出る」と生態系保護の極意を語る。

森ビル 心身の健康に貢献

森ビルの複合施設「アークヒルズ」(東京都港区)は1986年の開業後から緑地が広がった。90年、敷地面積に占める緑地は23%だったが、18年は43%まで拡大。樹木が育った証拠だ。

同社はアークヒルズ以降に建設した複合施設でも草木を育て、都内に10ヘクタールの緑地を増やした。環境推進部の浅野裕氏は「量だけでなく質にもこだわる」と強調する。どの施設にもチョウや鳥が飛来しており、生物に住みやすい“質の高い”緑地を整備した。

いま、人の心身にも好影響をもたらす緑づくりにも着手した。東京の虎ノ門・麻布台地区で建設中の施設は2・4ヘクタールの広大な緑地を有し、人が歩行を楽しめる広場も設けて健康増進に貢献する。米国の団体から心身への影響を評価する「WELL」の予備認証を取得済みだ。社員の健康にも気を配る企業が増えており、心身を癒やす緑地はオフィス選びの基準となりそうだ。

22年春の国連の会議で、陸域と海域とも30%を保護する世界目標が採択される見通し。政府は企業が保全する緑地も加えて達成を目指しており、基準を作って100カ所を認定する。希少種の生息地や都市における健全な生態系も認定基準となる見込みで、多くの企業緑地が候補となりそうだ。

松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
個人的に生き物や植物を育てているわけではありませんが、生物多様性保全の話を聞くのが好きです。普段、接している企業が広大な森を持っていたり、敷地内に希少種が生息していたりする驚き、担当者の熱意や苦労話は興味深いです。今回もNECの敷地内で「池の水抜きます」をやったと聞きました。森ビルの森が広がっているのもすごいです。ちなみに国の制度は「OECM」と言います。最近、アルファベット4文字が多いです。

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