機能性化学品の競争力維持へ大注目、「精密重合」技術による新素材開発の世界

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建築用シーリング材としての利用シーン(カネカ)

医療やバイオ、エネルギーなど多様な分野の技術革新に向けて、「精密重合」技術による新素材開発が注目されている。特許出願数は2000年以降増加傾向で推移。この中核技術を開発した澤本光男中部大学教授は、ノーベル賞級の研究者を選ぶ21年のクラリベイト引用栄誉賞化学部門を受賞した。日本が強みを持つ機能性化学品の競争力を維持するため、同分野の研究が発展することが期待される。(梶原洵子)

澤本教授が1990年代半ばに開発した「リビングラジカル重合」は、思い通りの性質を持つ高機能高分子(ポリマー)の工業生産に道を開いた。ラジカル重合は工業製品によく使われる重要な重合方法だが、反応性の高さゆえに制御が難しい。リビングラジカル重合は多様な原料を使えるラジカル重合の良さを残しつつ、ポリマーの長さや末端構造を制御し、新たな機能を付与できる。

同分野を専門とする上垣外正己名古屋大学教授は、「ラジカル重合は水分を気にする必要がなく、工業生産で使いやすい。ラジカル重合でリビング重合を実現した意味は大きい」と説明する。

いち早く精密重合に着目したカネカは、同重合の一つの原子移動ラジカル重合を開発したクリストフ・マテャシェフスキー教授の下で学び、工業化のアイデアを蓄積した。同社は構造制御の難しかったポリアクリレートに同重合方法を適用し、精密に工業制御した製品の工業化に世界で初めて成功した。

同技術で製造した素材「カネカ XMAP」は、空気中の湿分や紫外線(UV)に反応して硬化し、高性能のゴムとなる素材で、既存材料に比べ耐熱性や耐候性、疲労耐久性、耐油性に優れる。例えば、超高耐久建築シーラントに使った場合、長く使用できるため、シーラント打ち替えに必要な足場設置や作業などを省ける。「持続可能な社会に貢献できる」(同社担当者)。

このほかに精密重合はエラストマーやコーティング剤、粘接着剤、インキ、トナー、表面改質剤などで利用され、高性能材料の基盤技術となりつつある。

2020年に特許庁がまとめた制御ラジカル重合関連技術の特許出願技術動向調査によると、00年以降、出願された特許のファミリー件数は増加傾向で推移。特に13年以降の伸びが大きく、中国からの出願が全体を引っ張る。

上垣外名大教授は、「精密重合はまだまだ伸び代がある技術だ」と話す。新規触媒の開発に伴い重合技術も進歩している。また精密重合が得意とする「ブロックポリマー」の展開が期待されている。

同ポリマーは、硬い部分・柔らかい部分や水に溶ける部分・溶けない部分のように相反する特徴を持つ領域を内包できる。この特徴を活用し、患部に薬剤を届けるドラッグデリバリーシステムなどが研究されている。

また特許庁調査資料では特許動向から、医療・バイオやエネルギー、資源・鉱山、環境・処理分野で実用化が進むと分析している。

多様な高機能材料を扱う国内化学最大手の三菱ケミカルは、「精密ラジカル重合は、派生技術が多く考案されており、当社としても重要な技術基盤として位置付けている」(担当者)と話す。

国内化学業界は高機能材料へのシフトを進めており、精密重合技術の利用は一層広がっていきそうだ。

日刊工業新聞2021年11月4日

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特許庁 カネカ

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