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ソフトバンクは「全固体」実証、通信大手が二次電池の開発に注力するワケ

ソフトバンクは「全固体」実証、通信大手が二次電池の開発に注力するワケ

無人航空機「サングライダー」で成層圏から通信(ソフトバンク提供)

通信大手各社が二次電池の開発に力を注ぐ。ソフトバンクは2日、質量エネルギー密度を向上したリチウム金属電池や、全固体電池用正極材料の実証に成功したと発表した。電池を高性能化することで機器や設備の競争力を高め、革新的な通信サービスの普及にもつなげる狙いがある。NTTも“透けて曲がる二次電池”の研究を続けている。各社は安全性を確保した上で、どれだけ早期に実用化できるか試される。

「我々はHAPS(成層圏通信プラットフォーム)を含めて、空飛ぶデバイスを視野に入れている。自信を持って(二次電池の)高密度化を狙う」―。ソフトバンク先端マテリアル研究室の西山浩司室長は力を込める。

同社が2027年度頃の商用化を見込むHAPSは、高度20キロメートルの成層圏から電波を提供。山岳地帯や島しょ部でも携帯通信を利用しやすくする。傘下のHAPSモバイル(東京都港区)が20年、無人航空機「サングライダー」を用いて成層圏からの通信に成功した。同機にはリチウムイオン電池を搭載したが、より高性能な二次電池が実用化されれば飛行時間を長くできる。

そこでソフトバンクは、米エンパワー・グリーンテックと協業。質量エネルギー密度が1キログラム当たり520ワット時のセルのリチウム金属電池の試作実証に成功した。3月時点では1キログラム当たり450ワット時だったが、リチウム金属の界面制御技術や電解液技術の改良などにより密度を高めた。住友化学や東京工業大学と共同で全固体電池用正極材料も開発し、高い安定性と高容量化の両方を達成できる見込みを得た。

ただ、革新的な電池も安全性が低ければ実用化に至らない。ソフトバンクはこれを踏まえ、環境試験器を手がけるエスペックの協力のもとで、次世代電池の評価・検証施設「ソフトバンク次世代電池Lab.(ラボ)」を6月に設立した。エスペックの浜野寿之取締役は、車載用電池では大容量化などに伴って発煙や発火のリスクが増大したと指摘し「バッテリーを商品化する(前の)段階で安全性に貢献していきたい」と気を引き締める。

他方、NTTは透けて曲がる二次電池の研究に取り組む。一般的な電池は、金属の集電層を用いるため、黒色で光を透過しない構造だ。そこで、光の吸収を抑制しやすい材料を電極に採用。電極を導電性フィルム上に成膜し、電解質をゲル化することで、透けて曲がるようにした。

19年には、従来はサングラス程度だった平均透過率を窓ガラス並みに引き上げた。今後の適用領域は模索中だが、20年代半ばをめどに太陽光発電ができる窓ガラスや、皮膚や肌に貼って生体情報を取得する機器などへの応用を見込んでいる。

IoT(モノのインターネット)拡大の潮流も踏まえると、電池性能の向上を主導する通信各社の戦略に妥当性はあるが、研究も商用化も自社だけではおぼつかない。他機関との協業を深め、信頼性の高い製品を早く世に出せるかが問われる。

日刊工業新聞2021年11月3日

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