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スーパーコンピューター「京」安定稼働の先にあるもの

ポスト「京」へつなげられるか
 理化学研究所計算科学研究機構( AICS)と富士通が共同開発したスーパーコンピューター「京」は、約8万の計算ノード、約1.3ペタバイトのメモリを搭載する超大規模システム。「京」は地球科学や防災、医療、ものづくりなど幅広い分野で、通常のスーパーコンピュータでは実現できない高度なシミュレーションに利用されており、様々な研究機関や企業などで共同利用されている。

  AICSは、共用施設である「京」を止めることなく動かし続けることに加え、より多くの人に利用してもらうことが、「京」にとっての安定稼働であると考えている。

「京」を止めず稼働率を維持する取り組み

 ディスクやCPUなど、コンピューターを構成する部品はある一定の割合で壊れるものであり、特に使用頻度や負荷が高いものほど故障する。「京」は大規模システムであり膨大な数の部品から構成されているため、毎月、大量のディスクやCPUなどの部品を交換している。

 AICSでは、頻繁に発生する部品交換に備え、部品庫を設けて必要な交換部品を迅速に用意できるようにしているという。さらに、部品故障の予兆を検知し、予防交換をすることで部品故障によるシステムダウンを未然に防止している。

 また、空調など「京」を取り巻く環境についても工夫。空調の設定温度と部品の故障頻度の関係を調査したところ、冷気の吹き出し温度を数度下げると、故障頻度が下がることが分かった。様々な工夫により「京」の安定稼働を実現し高い稼働率を維持しているのだ。

より多くの人に使ってもらうために

 現在、「京」の利用申請は非常に多く、より多くの企業や研究機関に利用してもらうため、計算ノードに空きを作らないように運用する必要がある。

 利用者から投入される大小さまざまな計算処理を、うまくスケジューリングし、計算ノードを無駄なく使えるように工夫しているという。スケジューリングの改善やツールの活用などにより、高い充填率(稼働している時間のうち、実際に計算処理をした時間)を目指している。また、運用状況を公開し、混んでいる時期と比較的余裕のある時期を利用者に周知し、利用者の待ち時間が減るような工夫もしている。

データ同化でゲリラ豪雨に挑む


理研計算科学研究機構データ同化研究チームリーダー・三好建正氏


日刊工業新聞2014年6月25日付「拓く・研究人」より


 天気予報に革命をもたらす―。三好建正チームリーダーは、自らの研究の成果をそう確信する。2020年ごろまでに、「30秒ごとに更新し、30分先の詳細な予報を出す、画期的な天気予報システムを開発する」のが目標だ。

 研究分野は、ビッグデータ(大量データ)時代の気象予測研究。スーパーコンピューターが打ち出す気象のシミュレーション結果と、世界中から集めた気象観測データを結びつける「データ同化」によって天気予報の精度向上を目指す。13年度には科学技術振興機構(JST)のプロジェクトに採択され、「ゲリラ豪雨を30分前に予測する」という難題に挑む。

 現在の天気予報システムは約6時間ごとに10日先まで予報する。地域気象観測システム「アメダス」なら、1時間ごとに数時間先の予報が行える。これに対し、開発するシステムは「現在の120倍の頻度で予報できる」。天気予報の概念を根底から覆すものだ。

 1秒間に1京(けい)回の計算能力を持つ日本一のスパコン、理化学研究所の「京」。20年に、現在比約100倍の能力を持つエクサスケールスパコンに増強される見通しだ。このポスト「京」と、次世代の気象レーダーや気象衛星ひまわりが生み出すビッグデータを融合させ、「新たな価値を創出する」ことを狙う。

 ゲリラ豪雨は予測できないから恐ろしい。だが、30分単位で予報を出せれば「“ゲリラ”ではなくなり、市民が事前に対策を立てられる。災害の軽減に役立てたい」と意気込む。

 京都大学で物理学を学び、気象庁に入庁。気象予報士の資格を取得した。3年後、海外の大学院に職員を派遣する長期在外研究員制度を使って米メリーランド大学へ留学した。修士課程のみの修学が規定だったが、「研究が楽しく、博士課程まで進んだ」ことが転機になった。

 博士号取得後、同庁数値予報課の技術専門官となるも、08年に退職。本格的に研究者の道を歩み始めた。大学時代と異なる研究分野に進んだのも、気象庁で気象学の魅力に取りつかれたからだ。09年にメリーランド大の助教授になったが、「京」に魅せられて13年に帰国し、「京」を運用する理研計算科学研究機構の職に就いた。

 システムの実証を目指す20年は、東京オリンピックの開催年だ。開催地の詳細な天気予報はオリンピックの運営にも役立つ。「日本の知恵が結集した最先端のシステムを、オリンピック期間中に世界へ披露したい」との夢も描く。
(文=藤木信穂)
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
スパコン「京」の後継機開発に国費1100億円投入する予定だが河野太郎行政改革相は「投資に見合った成果を上げられるのか検証したい」という。「使える」スパコンへ、 AICSと富士通にはさまざまなベンチマークの情報を正確に発信してもらいたい。

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