日本の製造業が輝き続けるために必要な「高収益化」と「事業承継」とは

日本M&Aセンターの太田隼平業種特化事業部上席課長に聞く

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太田隼平業種特化事業部上席課長

中小企業にとってM&A(合併・買収)は事業承継にとどまらず、時代の変化に対応するための手段になり得る。自社の長所と短所を見つめることで、高付加価値化や競争力強化にもつなげられる。

M&A仲介会社として今年30周年を迎える日本M&Aセンターでは蓄積されたノウハウと国内最大級の情報ネットワークを活用し、中小企業が抱える課題に向き合っている。同社で製造業専門コンサルタントとして、売り手や買い手を問わずさまざまな中小企業に関わってきた太田隼平業種特化事業部上席課長に中小企業がより良いモノづくりを追求し、今後生き残っていくためには何が必要かを聞いた。

―より良いモノづくり企業とは。
 企業価値の高いモノづくり企業の特徴は三つあると考えています。 まず「脱依存」です。ピラミッド型となっている製造業界において、中小企業は下請け体質で、これまでは待っていれば注文が来るという環境でした。しかし、時代の変化とともにそれだけでは対応しきれなくなってきています。能動的な企業体質が中小企業に求められています。

自動車業界を例とした国内製造業の産業構造。強い信頼と実績が競争力となっている側面もあるが、特定の企業に依存し振り回されやすい

次に「一貫生産」です。近年は個別企業に個別注文するケースが減っています。例えばある企業が工場を新設する際、加工機はA社、組み立て機はB社、検査機はC社のように個別注文していました。しかし、近年はIoT(モノのインターネット)化で各センサー類が同一システムで連携しやすいラインを一括で注文することが増えるなど、個別受注する企業よりも、オールインワンの提案ができる会社の企業価値が高まっています。

産業用機械メーカーの事例。かつては装置・工場ごとに個別のメーカーが受注していたが、ライン一括受注・システム提案まで求められるケースが一般的になってきた

そして「人への投資」です。製造業では従業員の給与増額などを後回しにする傾向があります。熟練の技術を若い世代に伝えるために従業員の給料を上げて売上を伸ばし、さらにいい人材を確保できる好循環が必要です。

―モノづくり企業を取り巻く環境はどのように変化していますか。
 これまでは求められた品質で必ず納期を守るのが日本の製造業であり、世界で信頼と実績を得てきました。しかしその一方で、納品先が常に一定で業界で硬直してしまう傾向にあり、産業界や顧客の経営方針により絶えず振り回されるリスクもあります。品質と納期は海外企業も強化してきていますので、それだけでは競争できない状況になっています。

業界や技術の垣根も低くなってきています。電気自動車(EV)の開発でも「この部品の重さを従来比で3分の1にしてほしい」と注文がきます。金属と樹脂を組み合わせた新しい部品を求めているなら、金属加工のみの企業は不利です。総合力が求められる傾向はこれからもますます加速していくと考えます。

―モノづくり企業が変化するための第一歩として、何をすべきでしょうか。
 まずは「標準化」です。
 熟練の従業員の高齢化により長年培われた技術が人材不足により失われることは大変な損失です。技術をマニュアル化し共有するしくみを社内に構築することがモノづくり企業として事業を発展させるために必要です。

次に「他力の活用」です。
 オールインワンの提案をするためには、これまでは独立独歩だった経営資源を見直し、他社のリソースを積極的に活用していくことが求められます。

新型コロナウィルス流行下においても業績が悪化している中で経営戦略や経営方針を変化させることができている企業は多くないと思います。年単位の時間をかけ投資をしていては、変化の激しい時代で取り残されてしまいますが今後、製造業は変化していかなければいけない時代に来ています。

―戦略的M&Aとは。
 「脱依存」「一貫生産」「人への投資」を満たし、なおかつ後継者育成ができている企業は必ずしもM&Aが必要ということではありません。しかしこれらのどれかが欠けていることによって黒字廃業してしまう中小企業は多く、経営者にとっても従業員にとっても不幸な事です。例えば大手企業の傘下に入ること大手企業が持つ販路、設備、拠点、システム等を活用することができます。そうしたM&Aによって売り手と買い手の相乗効果を生み出すこともできます。 当社では品質とネットワークを強みに、どんなトラブルでも30年の蓄積があるデータベースを活用し早急に解決できるノウハウがあります。工場見学や決算書の精査により、企業の長短を見極めるとともに将来のトラブルを回避し短期間に精度の高いマッチングができると自負しています。

これからのモノづくり企業には自社の企業価値を見直し変化を恐れない体制づくりが必要です。M&Aをその選択肢の一つとして考えていただくことで技術を次世代に伝え、従業員の雇用を守ることにつながると思います。結果的にM&Aをしないと決断しても、専門家に相談し自社の強みと弱みを知っておくことがこれから中小企業が生き残るために必要です。

昨今のコロナ禍において、国際輸送便の停止や半導体のひっ迫、素材価格の高騰など従来は想定できなかったことが現実となり、日本 M&A センターの寄せられる相談件数は増え続けている。

12月に同社が日刊工業新聞社と開催する「事業継承&高収益化戦略セミナー」では中小製造業が直面する、技術革新の壁、職人技術の継承、経営者の高齢化等、多くの課題に対してどう取り組むべきかを「高収益化」「事業承継」を軸に、その方策を伝える。

日刊工業新聞社・日本 M&A センター共催「事業承継&高収益化戦略セミナー」

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