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厳しい状況続くJAL・ANA、反転攻勢への道筋は?

厳しい状況続くJAL・ANA、反転攻勢への道筋は?

コロナ後に備えて、国内2社は“攻め”の戦略を進めていく

コロナ禍で大打撃を受けた航空業界。国際航空運送協会(IATA)によると、国際線の早期需要回復は依然として厳しいとの見立てだ。一方、国内では、新型コロナウイルスの新規感染者数が減少し、ワクチン接種率も上昇してきた。日本航空(JAL)、ANAホールディングス(HD)の大手2社はアフターコロナを見据え、格安航空会社(LCC)との関係強化や環境対応など、対策を急いでいる。(浅海宏規)

【“攻め”の公募投資】コロナ後へ設備投資の余力確保

IATAは航空需要見通しで2021年は19年の40%、22年は同61%の水準にとどまるとの見方を示した。地域別で厳しいのが日本を含むアジア太平洋地域の航空会社で、22年後半まで国際線の大幅な改善を見込むのは難しいと予想する。

実際に21年4―6月期決算ではアメリカン航空やデルタ航空といった米航空大手が最終黒字に転換した一方、JALの当期損益(国際会計基準)は579億円の赤字(前年同期は937億円の赤字)、ANAHDの当期損益は511億円の赤字(同1088億円の赤字)だった。ただ、両社ともこれまでに公募増資などを通じて財務体質の強化を進めており、6月末時点の自己資本比率はJALが42・4%、ANAHDが26・6%と海外の航空大手と比べても高い。

それでも公募増資に踏み切った背景には、急激な資金の流出がある。航空会社は機材の減価償却費や人件費といった固定費負担が大きく、ひとたび需要が減少すればたちまち財務に響く。今回の増資は財務の悪化を最小限にとどめつつ、コロナ後の需要回復時にスタートダッシュを切れるよう機材購入などの設備投資余力の確保のためとも見て取れる。

コロナ禍の動向は依然として不透明だが、世界の新規感染者数は減少に転じ、感染力の高いデルタ株の猛威も落ち着きをみせつつある。これに伴い米政府は15日(現地時間)、20年から実施してきた渡航制限を11月8日に解除する方針を公表。国際民間航空機関(ICAO)によると、国際空港の出発便数はコロナ前の19年10月と比べ、欧州や北米で6割まで回復しているという。東南アジアでも渡航制限を緩和する動きが出始めており、国際便の回復にも薄日が差しつつある。

国内需要はどうか。足元では緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の全面解除や、新型コロナワクチンの接種率が向上していることもあり、今後はレジャー需要の取り込みでフルサービスキャリア(FSC)とLCCをどう両立させるかがポイントになりそうだ。

「ウェブ会議の浸透などでビジネス需要が元に戻らない一方、観光や訪問需要は今後も着実に成長していくと考えられる」―。JALの赤坂祐二社長は、6月の株主総会でこう説明した。

当面、FSCは早期の回復が難しいと判断。航空機の数を減らす一方、フラッグシップを最新鋭のエアバスA350に更新し、競争力を高める。

LCCでは6月末に少額出資していた中国特化型LCCの春秋航空日本への出資比率を高めて子会社化し、インバウンド(訪日外国人)需要の取り込みに備える。

また、豪カンタス・グループとの合弁会社であるジェットスター・ジャパンへの追加出資も実施した。完全子会社であるジップエア・トーキョーの3社で「成田をハブとする国際、国内LCCのネットワーク」(赤坂社長)の早期完成を目指す。

一方、ANAHDも事業構造改革の一環として中型機であるボーイング787の導入を進めるなどし、国内線を中心に需給への対応を強化していく。

ANAHD傘下の全日本空輸(ANA)とLCCのピーチ・アビエーションは、ピーチの運航便の一部路線でANAとのコードシェア(共同運航)を8月から開始。ANA便名で搭乗した場合、「マイル」の積算を可能にするなど融合を図っていく。

また、ANAHDはANA、ピーチに続く「第3ブランド」を立ち上げ、東南アジアや豪州路線を中心に22年度をめどに就航する方針を掲げる。子会社のエアージャパンを母体とすることで、速やかな事業の立ち上げにつなげる。

【脱炭素に対応】SAF「日本大きく遅れ」

世界的な脱炭素の潮流は、航空業界にも押し寄せている。IATAは4日、50年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする方針を発表した。世界では二酸化炭素(CO2)排出量の多さから航空機利用を避ける「フライト・シェイム(飛び恥)」という言葉が生まれるなど、航空各社は厳しい情勢下でも環境への取り組みが求められている。

JALとANAは8日、持続可能な航空燃料(SAF)の認知拡大や、理解促進を目的に共同リポート「2050年航空輸送におけるCO2排出実質ゼロへ向けて」をまとめた。両社でSAFの量産と活用について幅広く発信し、SAFの普及に取り組む。

SAFについて共同レポートをまとめた平子ANA社長(左)と赤坂JAL社長(ANA提供)

SAFはバイオマスの活用などで、収集・生産から燃焼までの循環過程でCO2排出量を従来燃料より約80%削減できる。一方、現在の世界のSAF生産量は需要の0・03%未満にとどまり、量産と普及が急務という。

こうした中、ANAは14日、航空機を利用する企業と共同でCO2削減に取り組むプログラム「SAFフライトイニシアチブ」を始めると発表した。企業の理解を深めながら、産業横断的にSAFの利用を促進する。

プログラムはSAFを使ったANAの航空機を利用することで、第三者機関の認証を受けたCO2削減証書を発行する。平子裕志社長は「SAFの具体的な取り組みは欧米で先行している。残念ながら日本は大きく遅れている」と指摘する。

日本ではSAFの多くを輸入に頼り、世界の航空会社がSAFの採用を進めると、供給不足になる可能性もはらむ。こうした取り組みで環境意識を高めてもらい、既存燃料に比べて高額なSAFの量産・普及につなげたい考えだ。

【JALのエアモビリティー】遠隔運航の人材育成

次世代技術の積極的な導入で、長期的な展望も描く。JALはエアモビリティー領域での新規事業の創造を狙いに「エアモビリティ創造部」を発足。23年度にも飛行ロボット(ドローン)を使った物流や、25年度にも「空飛ぶクルマ」の事業化を目指す。

実証実験では都内のJAL本社から無人ヘリを遠隔操作

昨秋には長崎・五島列島での実証実験を実施し、東京都内のJAL本社から無人ヘリを遠隔で操作した。

また、昨秋から新規事業としてドローンなどの無人航空機を安全に管理・運航できる人材を育成する講座「JAMOA(ジャモア)」を始めた。

デジタルイノベーション本部エアモビリティ創造部の高田淳一マネジャーは、「実際にJALのパイロットの訓練に取り入れている(安全飛行のために必要な知識や能力)ノンテクニカルスキルを学んでもらうなど、JALが培ってきた安全運航のノウハウを生かしていきたい」と意欲を見せる。

次世代サービスの創出を通じて災害対応や医療分野など、地域で抱える課題解決にもつなげていく考えだ。

日刊工業新聞2021年10月20日

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