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【連載】アジアの見えないリスク#01 急に牙をむくパートナー

文=越純一郎(せおん代表取締役)苦しむ日系企業へ。まず何よりも「実態把握」
【連載】アジアの見えないリスク#01 急に牙をむくパートナー

顕在化してきた「アジアのリスク」の一例

 インドネシアのある日系企業の社長が悲痛な声をあげる。「景気低迷が長引き、カネに困った政府は各役所に税金、罰金の徴収に精を出すよう強く指示。いわれもない税関関連のペナルティーや、税務関係の否認、追加税が横行。国民年金の負担率のアップや支払い開始年の延期など、露骨な施策がある」。

 景気の悪化は、行政当局、徴税当局のこうした動きを招く。同時に好景気のころには友好的だった地元パートナー企業が手のひらを返したように、牙をむく。それは「手ごわい」「悪質」といった生易しいレベルをはるかに超えて深刻である。

 これらの動きの中で今後、最も懸念されることに外資規制がある。各国で多くの日系企業は、現地の企業を使うなどの「工夫」で外資規制をかいくぐっていたはずだ。

 だが今後、「利用先」であった地元企業が自分こそ「本来の株主」だと主張し始める。表沙汰にできないような「契約」内容を公表すると日本企業を脅す、地元当局は刑事罰まで動員する―。そうした懸念を専門家たちが指摘している。

 これは、今後に予想される「時限爆弾」のほんの一例である。アジアの成功を取り込もうという声とともに、アジアは「リスクの海」となった。

 このリレー連載では最初に、日系企業が直面しているリスクの顕在化、事業の撤退・変更、環境の変化を扱う。対象国は、まず中国。アジアがリスクの海となったことは、中国経済の失速と深く関連している。撤退に伴う「激闘」を実務家が描く。インドネシア、タイなどにも重点を置く。連載の後半では「最後のフロンティアはどこか。それは本当にあるのか」というテーマにも触れる。
 
 執筆者は十数人の実務家で、主に国際弁護士や経営コンサルタントである。なぜならば、この連載で扱うリスクや失敗事例、損失や撤退は、当事者本人よりも弁護士などの外部専門家のほうが発言しやすい。成功例や自慢話は表に出るが、失敗例や教訓はむしろ隠されてきたので、発言しやすい立場のプロに実態を語ってもらう。

 苦しむ日系企業が対策を考えるには、まず何よりも「実態把握」が重要である。病気の真の原因や実態の「診断」をせずに、「処方箋」を考えるのはオカシイのと同じである。

 この連載がリスクの海で戦う戦士たちの海図に、また、できれば武器になればと願っている。

<毎週月曜日に連載予定>
<略歴>
越 純一郎(こし・じゅんいちろう)せおん代表取締役。メガバンクで国際金融、投資銀行業務に従事したのち、アジアの政府系金融機関の顧問、法務省・日弁連の外国弁護士制度研究会委員等を歴任。著書に「アジアの見えないリスク」(日刊工業新聞社)など。
日刊工業新聞2015年12月11日 総合4/国際面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
経済が失速し、これまで見えてこなかった「アジアのリスク」。事業撤退がうまくいかず現地で社会問題化したケースなども、今年話題となった。失敗例を学ぶことは今後の良い教材となる。

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