JAXAが開発、航空機タイヤの水跳ねを高精度に予測するシステムの効能
【必須の評価項目】
雨が降り滑走路に水がたまった状態で航空機が離着陸する際、タイヤによって水が周囲に跳ね上げられる光景を目にしたことがあるだろうか。そのような状況でも多くの航空機が運航されているが、エンジンに過剰な量の水しぶきが流入するとエンジンの不具合が引き起こされる可能性がある。また、離陸時には水の抵抗によって機体の速度が十分に上がらずオーバーランに至る可能性がある。
そのため、水跳ねの影響は航空機開発における型式証明の取得において必須の評価項目に挙げられている。開発初期に評価されることが望ましいが、高い精度で水跳ねの影響を予測できる技術は存在せず、その評価は開発後期に実施される大掛かりな実機試験に頼らざるを得ないのが現状である。
【粒子法で解析】
そのような状況を改善するため、宇宙航空研究開発機構(JAXA)では航空機タイヤによる水跳ねの影響予測に向けて粒子法を用いた流体解析ソルバP―Flow(Particle Flow simulator)を開発している。粒子法は流体を粒子の集合で近似し、個々の粒子を流体の支配方程式に従って動かすことで流体挙動を追跡する比較的新しい手法であり、水跳ね現象のように大規模な液体の変形を含む問題を得意とする。
本研究に適用するにあたり、タイヤにより水が押しつぶされることで生じる高い圧力を適切に評価するためのモデルや、複雑に変形する液滴が周囲の気流から受ける力のモデルの開発に取り組んできた。
また、類似の研究事例や参照可能なデータが少ないので、独自に解析結果の検証用データを取得する試験も並行して行っている。試験ではスポーツ中継などで使用されるレール走行台車にタイヤを取り付けて滞水区間を通過させ、生じた水しぶきを高速度カメラで捉えている。
加えて、あらかじめ水に蛍光剤を混ぜておき、シート状に照射したレーザー内を水しぶきが通過する際に発する光の分布画像を処理することで、水しぶきの断面構造を取得することも可能となった。試験結果およびP―Flowの解析結果から算出した水跳ね角度を比較すると、他機関の結果を上回る精度で一致することが確認されている。
【多分野へ応用】
P―Flowは水跳ねの影響評価だけでなく液体燃料の微粒化やスロッシング(タンク内での揺動)、潤滑分野などへの応用も期待できる。今後も改良を進め、航空機や宇宙機の開発の効率化に貢献していきたい。
航空技術部門 数値解析技術研究ユニット 研究開発員 窪田健一
2009年東京工業大学大学院博士後期課程修了後、日本学術振興会特別研究員を経て、10年にJAXA入所。電気推進機のプラズマ解析、粒子法による流体解析の研究に従事。