パナソニックが8事業部門に再編、重点領域を区分しない理由
パナソニックが2022年4月の持ち株会社制移行を見据えた組織再編を実施した。13年4月導入の社内カンパニー制を廃止し、“バーチャル”な8事業部門ごとに経営戦略や人事などの権限を委譲。22年4月には持ち株会社の傘下となる8事業会社自身が意思決定し、各領域で競争力を磨き、楠見雄規社長が繰り返し強調する「専鋭化」を目指す。早期に成長軌道へ乗せるためにも、加速力をつける半年間になる。(編集委員・林武志)
22年4月に「パナソニックホールディングス(HD)」傘下となる家電や電池などの8事業会社は「10年先に実現すべき姿」(楠見社長)を目指し、事業ごとの社会・環境課題を解決するための経営を意識する。津賀一宏前社長(現会長)は売上高営業利益率5%を掲げていたが利益目標は示していない。前任者否定ではないと前置きしつつ“線引き”のようになるため「打つべき手が打てない」と楠見社長は指摘する。
20年11月には電池など4事業会社を重点事業に据えていたが、今後、重点領域とコア事業などの区分は設けない方針だ。楠見社長は「重点でないと言われた社員のモチベーションが下がり、顧客側からの指摘もある」とマイナスの側面を示す。10年先をにらむ事業会社を「長期にわたってそれぞれの事業が隆々と発展していけるように、その基礎をつくりたい」(楠見社長)とHDが支えて、成長を目指す考えだ。
楠見社長は4月の最高経営責任者(CEO)就任後、緊急事態宣言が出ていない期間に国内約10拠点を訪問したという。従業員と直接対話し、幹部とも討論を重ねた。パナソニックが「あらゆる領域で大きな可能性を持つ集団」(楠見社長)と実感する一方、「どの事業も改善の余地がある」と認識する。
こうした点を踏まえ創業者の松下幸之助が約60年前に確立した経営基本方針を大幅改訂した。当時の難しい文章などを現代に即した内容にした。幸之助が目指した「物心一如」を「物と心が共に豊かな理想の社会の実現を目指す」と分かりやすく示すなど、あらためて社員に浸透させる。
CEO就任後からも米ソフトウエア大手、ブルーヨンダーの大型買収や、30年までに全事業会社で二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロの実現表明など、矢継ぎ早に“見える動き”を鮮明とした楠見社長。「事業会社が主役」と力を込めるだけに各社の自主経営を尊重しつつ、さらに先を見据えた“決断”がパナソニック全体の経営基盤強化に結びつく。