“地味な”ロボット競技会を“スポ根で”ドラマティックに、WRSが見せた工夫
産業競争力につながる技術課題を競技化した開催中の国際ロボット競演会「ワールド・ロボット・サミット(WRS)2020」は構想当初から大きな課題を抱えていた。競技内容自体が決して派手とはいえず、どちらかと言えば“地味”なのだ。テレビ放送を前提に設計された既存のロボット・コンテストなどの競技会と比べ、一般の人たちにロボットのすごさを伝える力が比較的弱い。
だがロボットへの期待を過剰にあおることがWRSの本来の目的ではない。現在のロボット技術の実力を正しく見極め、課題と未来を社会ともに考えていく場をつくることが趣旨になる。まじめなのに面白い-。この矛盾が競技を対戦形式にすることで解決した。同時に技術評価の標準化やロボットの信頼性向上にもつながった。
「なぜ対戦する必要があるのか、という疑問もあった。だが競技は盛り上がった」と九州工業大学の大橋健教授は目を細める。サービス部門のパートナーロボット競技で競技委員を務める。同競技では散らかった部屋を片付ける。何がどこに散っているかわからない状況でロボットは雑貨を認識し、把持点を求め、拾う動作を生成して、運んで引き出しなどに入れる。この一つひとつの過程に技術開発が必要だが、一般の人には何が難しいのかわからない。雑貨の認識や動作生成に時間がかかり、立ち止まる姿にもどかしささえ感じてしまう。
だが2チームの対戦とすることでロボットが立ち止まる間が〝ハラハラ感〟へと変貌した。止まっている間に、もう片方のチームが得点を重ね、大接戦のシーソーゲームも生まれた。従来は1チームごとにテストし、評価点を競ってきたが、ロボコンのような対戦形式にに回帰することで、まじめさと面白さを両立することに成功した。
同時に対戦環境は完全に同一にした。運営側が雑多に散らかった部屋を、そっくりそのまま二つ用意する。ランダムに雑貨をばらまくと転がり方次第で不公平が生まれるためだ。この手間が技術評価の標準化につながった。雑貨の配置を記録し、雑多さを評価できるようにした。
競技委員長の岡田浩之玉川大学教授は「技術の進歩を定量的に追跡できるようになる。勝敗や順位よりも重要だ」と説明する。
さらにコロナ禍で海外チームの参加がなくなり、チーム数が減った。そのため総当たり戦が可能になった。ロボットは何回もお片付けを実践させられる。そのため各チームは複数のアプローチを開発した上で、バグの少ないロバスト(頑健)な技術を選ぶ。九工大の田向権教授は「一発勝負で勝っても意味がない。反対に失敗してもリカバリーできる。技術の信頼性を評価できる」と説明する。
ライバルたちと何度も戦う。〝スポ根〟がロボットを鍛えている。