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揺れる東芝 原子力のキーマンは何を語ったか

ウエスチングハウスのCEOも務めた志賀副社長が会見の場に
揺れる東芝 原子力のキーマンは何を語ったか

減損などの状況を説明する志賀副社長

 27日に原子力関連の減損リスクを公表した東芝。室町正志社長は「適切なタイミングで積極的な情報開示をすべきだったと反省している。これまでの姿勢を改め、私自身が先頭に立ち情報開示を進めていく」と陳謝した。ただ具体的な数字などを説明したのは、社会インフラ部門を担当する志賀重範副社長だった。志賀氏こそ米ウエスチングハウス(WH)のトップを務めたこともある原子力事業のキーマン。不正会計問題が発覚後、公の前で話すことはほとんどなかった。

 志賀氏は、これまで連結での減損損失の計上を見送った理由について「原子力事業全体としてはビジネスが順調に進んでいる。WH全体の時価も簿価を上回っている」と話した。今後の見通しについても「中国や米国でプラント建設が進む。廃炉などの新しいビジネスなども見込まれ、ビジネスは順調に拡大する」とした。

 WHは15-29年度までの15年間で原発64基の受注などを目標に設定していることを明らかにし、これに基づき14年度の減損テスト(連結ベース)を実施したが、事業全体の価値は毀損されていないとした。

 WHの買収以降、東芝とWHの経営陣の足並みがそろわないことが多く、WHの最高経営責任者が何度か交代。志賀氏はWH会長として長く米国に在住、一時、最高経営責任者(CEO)を兼務していた。CEOだった3年前のインタビューでも、WHの経営と原子力事業に自信を示していた。

「(WHの)経営がうまくいっていると自信を持って断言できる」


日刊工業新聞2012年8月1日


 東芝の原子力子会社、米ウエスチングハウス(WH)が揺れている。4月に社長兼最高経営責任者(CEO)に就任予定だったジム・ファーランド氏が3月末で退任。急きょ、志賀重範会長(東芝執行役上席常務)が暫定的に社長兼CEOを兼務した。原子力の名門企業で起きた異例の事態。次期社長兼CEOについて「9月をめどに人選を進める」と話す志賀会長兼社長兼CEOに今後の展望を聞いた。

 ―4月に社長兼CEOの就任予定者が退職しました。WHのかじ取りはうまくいっていますか。
 「CEOに選んだ人間が他社に行っただけの話で業務への影響はない。予想もしなかった事態で会長である私が兼務した。次期社長兼CEOを探すのは私の役割。9月をめどに人選を進める」

 「東芝がWH出資の際に米政府が求めたのは原子力へのコミットメントだ。原子力発電所完成については16―17年までの使命だが、着工までに多くの投資をし、人員も8000人から1万3000人超に増やした。経営がうまくいっていると自信を持って断言できる」

 ―欧米や中国など原発新設計画は継続中です。
 「日本ではかなり厳しいが、米国では34年ぶりに原発新設の認可が通り建設が始まった。30年以上新設がない“空白の時間”を乗り越え、米国の原子力業界は活気がある。欧州もチェコやイギリスなどで新設を準備していて、アジアでは中国が旺盛で建設中の4基も順調だ。年内に追加の案件が出るだろう。トルコやベトナムは東芝が中心に動いており、WHとして協力していく」

 ―今後の事業計画をどう描いていきますか。
 「WHはサービス、燃料、新規建設、オートメーションの四つの製品ラインがある。東芝が買収した06年当時と比べて、売上高、利益とも2倍近く伸びた。ゼロだった新規建設も大きくなった。今後のけん引役も新規建設で、新規を獲得することでサービス、オートメーションも伸びる」

 「福島の原発事故の影響で、20%程度で伸びてきた売上高平均成長率は鈍化するだろう。その分、業務効率を高め、利益率を上げることに注力する。利益は今までの成長軌道をさらに高くしたい。再び新規建設が伸びるので、その時に高収益・高成長を目指す」

 ―WHに20%出資する米エンジニアリング大手のショー・グループがWH株の買い戻しを求めています。今後の資本構成をどう検討しますか。
 「戦略パートナーで株主を構成するのがポリシーで、投資ファンドなどに声をかける考えはない。電力会社など顧客が入れば競合に売れなくなり混乱が生じる。(中立のパートナー以外の)選択肢は考えられない」
(聞き手=村上毅)

 ※インタビュー後、12年9月25日付で米GE日立ニュークリア・エナジー上級副社長だったダニエル・ロデリック氏をCEOとして招聘。志賀氏は再び会長職専任になった。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
振り返ると、不正会計の大きなトリガーになったのはWHの買収だったと考える。もし原発事業が順調だったら、志賀氏は佐々木氏の後の社長の本命候補の一人だった。今回の情報開示はかなり詳細なものだったが、今後の新設見通しについては疑問を持たざるを得ない。経営再建の中で「WH売却」という選択肢があってもいい。

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