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【COP21開幕直前】異常気象に負けない 適応ビジネス始動!

土砂災害検知、砂漠でも農業、新たなタイヤゴム材料開発
【COP21開幕直前】異常気象に負けない 適応ビジネス始動!

現在の天然ゴムの主要な供給源であるパラゴムノキ。生産量の約9割が東南アジアに集中している

 国連の気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)が30日、フランス・パリで開幕する。二酸化炭素(CO2)の排出を減らす温暖化対策だけでなく、気候変動が引き起こす異常気象から人命やインフラ、そしてビジネスを守る「適応策」も重要な課題として話し合われる。異常気象の影響を受けやすい途上国は適応策でも支援を求めており、企業も商機を見いだしている。

 「緩和と適応」が気候変動問題解決のキーワードとなっている。緩和はCO2の排出を減らして温暖化を防ぐ対策。世界中で省エネルギー化や再生可能エネルギーの導入による緩和策が取り組まれているが、豪雨や台風などの自然災害は強大化して各地に大きな被害をもたらしている。すでに気候変動が進行していると考えられることから被害を回避したり、最小化したりする備えとなる適応策の緊急度が高まった。

「8つのリスク」顕在化 対策急ぐ


 国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)は2014年、最新の科学的知見を基に気候変動の八つのリスクをまとめた。海面上昇による高潮、豪雨による都市部の洪水、極端な異常気象によるインフラ機能の停止、熱波による健康被害など、どのリスクともすでに顕在化している。IPCCはCO2を劇的に削減してもリスクが残るとし、適応策を急ぐように警鐘を鳴らした。

 途上国の多くはCOP21に向けて提出した温暖化対策の目標に適応策を盛り込んだ。COP16の合意で日米などが資金を拠出して設立したばかりの「緑の気候基金」は、100億ドルの資金を緩和と適応に半分ずつ配分して途上国を支援する。COP21後、適応策ビジネスが拡大しそうだ。

ICT駆使し危険度判断


 NECはICTを駆使した適応ソリューションを自治体向けに提案している。13年に豪雨被害が出た島根県津和野町で、土砂崩れが起きる危険度を遠隔から判断するシステムの検証を始めた。土砂災害の恐れがある斜面にセンサーを設置。計測した地中の水分量データを無線で収集して計算し、崩壊の危険度を判定する。常時監視なので雨が降り出してから危険度が上昇していく状況がわかる。

 現状のシステムでは予兆がわかっても崩壊までの時間が短く、監視範囲も広かった。NECのシステムは早くから崩壊が起きる場所と予兆を検知できる。消防・防災ソリューション事業部の平井清宗シニアエキスパートは「自治体は土砂崩れの危険地区を把握している。特定の場所の予兆を知りたいニーズがあるはずだ」という。

 実用化した適応ソリューションもある。東京都豊島区に災害発生時の人の混雑を回避する防災システムを納入し、6月から本格稼働している。

 台風や豪雨、豪雪で鉄道の運行が止まると区内の主要ターミナルである池袋駅は人であふれ、事故の危険性が高まる。システムは51台の防犯カメラが捉えた街の画像を解析し、異常な混雑があると警報を出す。区職員は画像を常に見なくても異常に気づき、危険な状況になる前に誘導などの対策を打てる。

 適応ソリューションは、NECグループの温暖化対策をとりまとめている環境推進部の発案で14年から始めた。堀ノ内力部長は「既存技術でも組み合わせると適応策になる。事業部でも適応への意識が広がっている」と話す。交通・都市基盤事業部の岸田温シニアエキスパートも「自然災害が多い日本の対策に関心を持つ途上国から問い合わせが来ている」と手応えを話す。

砂漠、農地に


 東レは筒型の編み物「ロールプランター」を砂漠化への適応商品として提案している。土を詰めると編み物が農作物を栽培する鉢となり、地面に並べると砂漠を農地にできる。農作物に水を直接与える点滴灌漑(かんがい)装置を組み合わせると、砂漠で貴重な水の使用を抑えられる。自然界で分解されるポリ乳酸製なので土壌も汚染しない。

 東レは編み物メーカーのミツカワ(福井県越前市)と連携し、経済産業省、国連開発計画の支援で南アフリカ共和国の荒廃地でピーマンとホウレンソウを育て、14年に収穫に成功した。

 降雨の減少で砂漠化や土壌の劣化が進むと、人口が増加している新興国では食糧不足に拍車がかかり、紛争や難民が増えると予想される。東レなどは南アでロールプランターの生産も始めた。雇用にも貢献することでロールプランターを使った農法を普及させ、砂漠化への適応策として根付かせる。

タイヤ原料、多様化研究


 自動車用をはじめとした各種タイヤの原材料として欠かせない天然ゴム。現在は樹木の「パラゴムノキ」から生産しており、その約9割が東南アジアの熱帯地域で栽培されている。気候変動により、生産量や栽培の適地の減少、病害発生などが想定される中、タイヤ各社は天然ゴム供給源の多様化に向けた研究開発を進めている。

 ブリヂストンは、米国やメキシコの乾燥地域原産の低木「グアユール」由来の天然ゴムを使ったタイヤの試作品を15年10月に完成した。米アリゾナ州にグアユールの試験農場と加工研究所を保有。今後、生産性の向上など研究開発を進め、20年代前半の実用化を目指す。

 パラゴムノキが樹液中にゴムを含むのに対し、グアユールは植物体全体にゴムを含有する。パラゴムノキは植林から4―6年で樹液の採取が始まり、25―30年で再植林となるが、グアユールは苗の栽培から収穫まで3年と周期が早い。

 住友ゴム工業は温帯で栽培可能な多年草「ロシアタンポポ」に着目。米ベンチャー企業のカルテヴァット(ミズーリ州)と実用化に向けた共同研究を始めた。カルテヴァットはバイオ燃料などの原料を植物から生成する技術の評価が高く、ロシアタンポポの早期の実用化を目指す。
(文=松木喬、斉藤陽一)
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
日本政府も「適応計画案」を発表するなど、このところ適応に関心が高まっている印象です。国レベルでもそうですが自治体単位も地域性があり、さまざまな適応策があると思います。海が近くて台風の通り道の町なら高潮対策、都市部なら水没対策、農村部なら天候不順に強い農作物など。さまざまな業種の企業に貢献するチャンスがありそうです。

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