三菱電機、空調事業は売上高5兆円への成長エンジンになるか
2年前の山西社長(現会長)の言葉はジョークではなかった!2020年に1兆円目指す
三菱電機は24日、海外事業の強化を柱にした空調冷熱システム事業の戦略を発表した。欧州市場ではイタリアの業務用空調メーカー「デルクリマ」を年内にも買収し、大型施設の領域を深耕。米州では製品や販路を拡充するほか、アジアでは専用モデルを投入し顧客ニーズに応じる。2020年度に15年度予想比約4割増の1兆円の売り上げを目指す。
24日、杉山武史常務執行役リビング・デジタルメディア事業本部長が都内で会見し「協業やM&A(合併・買収)で事業領域の拡大を加速させ、海外をしっかり伸ばす」と語った。売上高1兆円に達すると、世界シェアは現在の6位から5位に浮上するという。
欧州ではチラー空調に強みを持つデルクリマを活用する。チラー空調は欧州のビルや工場などで普及しており、デルクリマの販路を活用して市場を開拓し欧州市場でトップのシェアを目指す。
米州では既存機種のダクトレス空調に加え、ダクト空調の領域にも本格参入し深掘りする。これにより20年度の米州の売上高を14年度に比べ倍増する。
また中国・アジア周辺市場では高付加価値の機種や省エネの普及機種を投入し強化する。これによって、同市場の20年度売上高を14年度比1・7倍にする。
空調業界で合従連衡が進む中、需要が旺盛な米州や欧州、アジアで競争力を強めて事業規模の拡大を急ぐ。これにより、20年度の海外売上高比率を現在の6割から7割に引き上げる方針だ。
三菱電機は25日、イタリアの業務用空調メーカーであるデルクリマを買収すると発表した。11月30日までに全株式を取得する計画で、買収総額は約6億6400万ユーロ(約902億円)の見込み。ビルや工場など大型施設で使われるチラー空調に本格参入し、欧州事業を拡大する狙い。三菱電機が空調メーカーを買収するのは初めて。
同日会見した柵山正樹三菱電機社長は「今回の買収は売上高5兆円、営業利益率8%以上という2020年までの目標を実現する確度を高めるとともに、その後の中長期的な成長の布石。必要な場合は次の一手、二手を打っていきたい」と語った。
デルクリマの売上高は約500億円。三菱電機は大株主のデロンギインダストリアルからデルクリマの株式74・97%を取得。またTOB(株式公開買い付け)を実施し、残り25・03%を取得する。
三菱電機の空調冷熱システム事業の2016年3月期の売上高は、7200億円の見通し。現状では家庭用など中小型空調が中心。デルクリマを買収し、欧州で広く普及する大型のチラー空調の需要を取り込む。デルクリマの拠点を活用しアジアでの販売強化も狙う。また欧州の環境規制への対応力も高める。
「全社売上高が5兆円になった時、空調は1兆円だからな」―。社長の山西健一郎は家電部門の幹部に向かって、たまに本気なのかジョークなのか分からない言葉を投げつける。空調は単一ビジネスでは三菱電機の中で最大。現在の売り上げ規模は約5000億円。2015年度に7200億円にする目標はあるが、山西の期待がそれだけ大きいということだ。
業務用の腕利き営業マンだった植村雅記が、タイの空調販売会社社長になったのは09年。当時、家庭用は「ミツ」の愛称でシェアは高かったが、業務用は3%と低迷していた。翌年、日本からタイの空調製造会社に業務用機種が移管されてきたが、タイは世界の輸出拠点で国内向けだけを作っているわけではない。形だけの地産地消を危惧した植村は、部下20人を引き連れ毎月工場に押しかけ、徹底的な議論を持ちかけた。
「工場は保守的で説得力のある販売データがそろわないと動かない。それを整理して繰り返し言うと点が線、そして面になる」(植村)。昨年発売した省エネ型の天つり式は工販連携から生まれ、今年の業務用シェアは15%まで伸びるという。
7月に英国で開いた欧州各国の家電販売担当者の幹部会議。欧州代表で統括販社社長の漆間啓は「欧州は空調事業の成長エンジン。今後はロシアやトルコを攻める」とハッパをかけた。同じ時期にスコットランドの工場内に温度変化の実証ハウスを作ったのも、欧州人の嗜好(しこう)をより深く知るため。
漆間と会議に同席していた常務でリビング・デジタルメディア事業本部長の梅村博之は「(エンジンは)米国もだ」という。米国は配管を通じ建物全体に空気を送るダクト式が主流だが、今後、部屋ごとに室外機と室内機を置く日本式の普及が見込める。ダイキン工業は昨年、米メーカーの大型買収で一気に攻勢に出た。
三菱電機はアトランタに技術センターと倉庫を新設、当面はメキシコから輸出する。「サムスン(韓国)や格力(中国)と一線を画し高機能品でトップをとる」と梅村。確かに高級機の収益は高いが、それだけでシェアは伸びない。地産地消は生産を起点とする発想だが、消費ニーズを出発点とする“地消地産”が1兆円のカギを握る。(敬称略)
※山西健一郎氏は現会長
漆間啓氏は現常務執行役FAシステム事業本部長
植村雅記氏は現リビング・デジタルメディア事業本部・ブランド戦略推進、販路担当
梅村博之氏は現顧問>
24日、杉山武史常務執行役リビング・デジタルメディア事業本部長が都内で会見し「協業やM&A(合併・買収)で事業領域の拡大を加速させ、海外をしっかり伸ばす」と語った。売上高1兆円に達すると、世界シェアは現在の6位から5位に浮上するという。
欧州ではチラー空調に強みを持つデルクリマを活用する。チラー空調は欧州のビルや工場などで普及しており、デルクリマの販路を活用して市場を開拓し欧州市場でトップのシェアを目指す。
米州では既存機種のダクトレス空調に加え、ダクト空調の領域にも本格参入し深掘りする。これにより20年度の米州の売上高を14年度に比べ倍増する。
また中国・アジア周辺市場では高付加価値の機種や省エネの普及機種を投入し強化する。これによって、同市場の20年度売上高を14年度比1・7倍にする。
空調業界で合従連衡が進む中、需要が旺盛な米州や欧州、アジアで競争力を強めて事業規模の拡大を急ぐ。これにより、20年度の海外売上高比率を現在の6割から7割に引き上げる方針だ。
伊メーカー買収で大型チラー需要取り込む
2015年8月26日
三菱電機は25日、イタリアの業務用空調メーカーであるデルクリマを買収すると発表した。11月30日までに全株式を取得する計画で、買収総額は約6億6400万ユーロ(約902億円)の見込み。ビルや工場など大型施設で使われるチラー空調に本格参入し、欧州事業を拡大する狙い。三菱電機が空調メーカーを買収するのは初めて。
同日会見した柵山正樹三菱電機社長は「今回の買収は売上高5兆円、営業利益率8%以上という2020年までの目標を実現する確度を高めるとともに、その後の中長期的な成長の布石。必要な場合は次の一手、二手を打っていきたい」と語った。
デルクリマの売上高は約500億円。三菱電機は大株主のデロンギインダストリアルからデルクリマの株式74・97%を取得。またTOB(株式公開買い付け)を実施し、残り25・03%を取得する。
三菱電機の空調冷熱システム事業の2016年3月期の売上高は、7200億円の見通し。現状では家庭用など中小型空調が中心。デルクリマを買収し、欧州で広く普及する大型のチラー空調の需要を取り込む。デルクリマの拠点を活用しアジアでの販売強化も狙う。また欧州の環境規制への対応力も高める。
“地消地産”が1兆円のカギを握る
日刊工業新聞2013年10月16日連載「挑戦する企業」より
「全社売上高が5兆円になった時、空調は1兆円だからな」―。社長の山西健一郎は家電部門の幹部に向かって、たまに本気なのかジョークなのか分からない言葉を投げつける。空調は単一ビジネスでは三菱電機の中で最大。現在の売り上げ規模は約5000億円。2015年度に7200億円にする目標はあるが、山西の期待がそれだけ大きいということだ。
業務用の腕利き営業マンだった植村雅記が、タイの空調販売会社社長になったのは09年。当時、家庭用は「ミツ」の愛称でシェアは高かったが、業務用は3%と低迷していた。翌年、日本からタイの空調製造会社に業務用機種が移管されてきたが、タイは世界の輸出拠点で国内向けだけを作っているわけではない。形だけの地産地消を危惧した植村は、部下20人を引き連れ毎月工場に押しかけ、徹底的な議論を持ちかけた。
「工場は保守的で説得力のある販売データがそろわないと動かない。それを整理して繰り返し言うと点が線、そして面になる」(植村)。昨年発売した省エネ型の天つり式は工販連携から生まれ、今年の業務用シェアは15%まで伸びるという。
7月に英国で開いた欧州各国の家電販売担当者の幹部会議。欧州代表で統括販社社長の漆間啓は「欧州は空調事業の成長エンジン。今後はロシアやトルコを攻める」とハッパをかけた。同じ時期にスコットランドの工場内に温度変化の実証ハウスを作ったのも、欧州人の嗜好(しこう)をより深く知るため。
漆間と会議に同席していた常務でリビング・デジタルメディア事業本部長の梅村博之は「(エンジンは)米国もだ」という。米国は配管を通じ建物全体に空気を送るダクト式が主流だが、今後、部屋ごとに室外機と室内機を置く日本式の普及が見込める。ダイキン工業は昨年、米メーカーの大型買収で一気に攻勢に出た。
三菱電機はアトランタに技術センターと倉庫を新設、当面はメキシコから輸出する。「サムスン(韓国)や格力(中国)と一線を画し高機能品でトップをとる」と梅村。確かに高級機の収益は高いが、それだけでシェアは伸びない。地産地消は生産を起点とする発想だが、消費ニーズを出発点とする“地消地産”が1兆円のカギを握る。(敬称略)
漆間啓氏は現常務執行役FAシステム事業本部長
植村雅記氏は現リビング・デジタルメディア事業本部・ブランド戦略推進、販路担当
梅村博之氏は現顧問>
日刊工業新聞2015年11月25日 電機・電子部品面