CFRPで「播州織」を再興-技術で日本の”へそ”に!?
兵庫県西脇市にある伝統的織物「播州織」。古来の技術を生かした独自のCFRP開発が進む
【耐久性2倍の板バネ開発】
兵庫県西脇市で地場産業の播州織を生かした独自の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)開発が進んでいる。兵庫県立工業技術センター繊維工業技術支援センター(西脇市)と同市内の織布、縫製業者が連携。研究開始から10年がたち、実用化まであと一歩のところまできた。地場産業の衰退を補う新たな産業へと成長するか。現地の取り組みを追った。
西脇市で開発中のCFRPは連続した長い炭素繊維(CF)と熱可塑性樹脂を複合化したもの。長繊維で強度を担保しつつ、熱硬化性樹脂の代わりに熱可塑性樹脂を使うことで生産性とコストに優れたCFRPを実現するのが狙いだ。しかし、そのためには含浸性が低く、CFとの接着力が弱い熱可塑性樹脂の欠点を補う必要があった。
突破口を開いたのは、宮田布帛<ふはく>(西脇市)が開発したCFと熱可塑性樹脂の複合糸だった。「巻き縫い」と呼ばれる縫製技術を用いて芯材のCFを樹脂繊維でカバーした糸で、織物にして加熱圧縮することで高い樹脂含浸が得られる。複合糸は工業用ミシンで加工でき、播州織の織機で製織可能なため特殊な設備が不要という利点もある。
2006年に繊維工業技術支援センター(同)が主導し、複合糸のCFRPへの応用が本格化。具体的な用途として同志社大学の藤井透教授の提案で、食品工場などで使われる振動フィーダー用の板バネ製作を目指した。既存の熱硬化性CFRPでできた板バネは樹脂の吸湿特性から耐久性に課題があり、代替の余地があると考えた。
10年近い実験の末、市販品の中から最適な樹脂を選定し、剛性と耐久性を最大限に引き出す構造や冷却条件の最適化に成功。従来品比で剛性は同等、耐久性は2倍程度の板バネを開発した。現在は振動フィーダーメーカーによる実証実験中で、早ければ4月後半に結果が出る見込みだ。
採用が決まれば現在製織を担う藤邦織物(同)がプレス機を導入して量産に乗り出す計画。外注によるコスト上昇を防ぐとともに品質管理の徹底を図る。
10年を費やした開発成果が実るまであと少し。工業分野への進出で播州織が息を吹き返す日はそう遠くないかもしれない。
【事例/宮田布帛・藤邦織物、織布・縫製が連携―実用化へあと一歩】
西脇市を中心に生産される播州織は豊かな色彩と自然な風合いを特徴とする綿の先染め織物で、主にシャツ地などに使われている。近年は産学連携による商品開発やデザイナーの育成などで需要開拓に取り組んでいるが、生産量はピーク時の10分の1に落ち込んだまま。ここ数年は後継者問題も深刻化している。
そこで10年前に宮田布帛と藤邦織物の2社が立ち上がり、摩擦に弱いCFを播州織の織機で織る技術の開発に挑んだ。そのため当初、樹脂は単にCFをカバーする目的で使い、製織後に取り除けるよう水溶性を採用していた。その後、繊維工業技術支援センターの提案でCFRPへの応用にかじを切り、3者による開発が続いている。
こうした中、3月に三井住友銀行が主催し、兵庫県と西脇市が後援するシンポジウム「西脇市における炭素繊維の未来」が同市内で開かれた。当日は播州織関連の地元中小企業を中心に約190人が参加し、補助いすを出して対応する盛況ぶりだった。
シンポの成功は地元企業の危機感と関心の表れと言える。宮田布帛の宮田泰次社長は「CFRPで播州織を活性化し、小さい頃から聞いて育った機織りの音を途絶えないようにしたい」、藤邦織物の藤井国男専務は「技術をほかの機屋(はたや)に伝え、広めたい」と話し、地域への貢献を誓った。
【兵庫県立工業技術センター繊維工業技術支援センター主席研究員兼技術課長・藤田浩行氏/車・家電部品への応用視野】
兵庫県立工業技術センター繊維工業技術支援センターの藤田浩行主席研究員兼技術課長は播州織産地に適したCFRPの実用化に道を開き、10年近く開発を率いてきた。課題や展望を聞いた。
―CFRPの開発に乗り出した理由は。
「06年にCFと熱可塑性樹脂の複合糸が持ち込まれた際にCFRPに応用できると直感した。当時はちょうど熱可塑性CFRPが注目され始めた時期だった。ただ、熱可塑性樹脂は種類が多く、冷却方法や速度によって強度などの特性が大きく変わるため、ここまでかなり苦労した」
―板バネ以外の用途開発は進んでいますか。
「織り技術に加え、編み技術も活用することで成形しやすい材料ができる。この特徴を生かし、自動車や家電部品への応用も進めている。既に特定企業と共同開発しているほか、新たな開発案件も複数ある。共同開発については企業から引く手あまたの状態だ」
―今後の課題は。
「兵庫県や西脇市、より多くの地元企業を巻き込んでCFRPを西脇市の一大産業に育てたい。幸い実用化が近いため、今後は積極的な参画が得られるだろう」
兵庫県西脇市で地場産業の播州織を生かした独自の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)開発が進んでいる。兵庫県立工業技術センター繊維工業技術支援センター(西脇市)と同市内の織布、縫製業者が連携。研究開始から10年がたち、実用化まであと一歩のところまできた。地場産業の衰退を補う新たな産業へと成長するか。現地の取り組みを追った。
西脇市で開発中のCFRPは連続した長い炭素繊維(CF)と熱可塑性樹脂を複合化したもの。長繊維で強度を担保しつつ、熱硬化性樹脂の代わりに熱可塑性樹脂を使うことで生産性とコストに優れたCFRPを実現するのが狙いだ。しかし、そのためには含浸性が低く、CFとの接着力が弱い熱可塑性樹脂の欠点を補う必要があった。
突破口を開いたのは、宮田布帛<ふはく>(西脇市)が開発したCFと熱可塑性樹脂の複合糸だった。「巻き縫い」と呼ばれる縫製技術を用いて芯材のCFを樹脂繊維でカバーした糸で、織物にして加熱圧縮することで高い樹脂含浸が得られる。複合糸は工業用ミシンで加工でき、播州織の織機で製織可能なため特殊な設備が不要という利点もある。
2006年に繊維工業技術支援センター(同)が主導し、複合糸のCFRPへの応用が本格化。具体的な用途として同志社大学の藤井透教授の提案で、食品工場などで使われる振動フィーダー用の板バネ製作を目指した。既存の熱硬化性CFRPでできた板バネは樹脂の吸湿特性から耐久性に課題があり、代替の余地があると考えた。
10年近い実験の末、市販品の中から最適な樹脂を選定し、剛性と耐久性を最大限に引き出す構造や冷却条件の最適化に成功。従来品比で剛性は同等、耐久性は2倍程度の板バネを開発した。現在は振動フィーダーメーカーによる実証実験中で、早ければ4月後半に結果が出る見込みだ。
採用が決まれば現在製織を担う藤邦織物(同)がプレス機を導入して量産に乗り出す計画。外注によるコスト上昇を防ぐとともに品質管理の徹底を図る。
10年を費やした開発成果が実るまであと少し。工業分野への進出で播州織が息を吹き返す日はそう遠くないかもしれない。
【事例/宮田布帛・藤邦織物、織布・縫製が連携―実用化へあと一歩】
西脇市を中心に生産される播州織は豊かな色彩と自然な風合いを特徴とする綿の先染め織物で、主にシャツ地などに使われている。近年は産学連携による商品開発やデザイナーの育成などで需要開拓に取り組んでいるが、生産量はピーク時の10分の1に落ち込んだまま。ここ数年は後継者問題も深刻化している。
そこで10年前に宮田布帛と藤邦織物の2社が立ち上がり、摩擦に弱いCFを播州織の織機で織る技術の開発に挑んだ。そのため当初、樹脂は単にCFをカバーする目的で使い、製織後に取り除けるよう水溶性を採用していた。その後、繊維工業技術支援センターの提案でCFRPへの応用にかじを切り、3者による開発が続いている。
こうした中、3月に三井住友銀行が主催し、兵庫県と西脇市が後援するシンポジウム「西脇市における炭素繊維の未来」が同市内で開かれた。当日は播州織関連の地元中小企業を中心に約190人が参加し、補助いすを出して対応する盛況ぶりだった。
シンポの成功は地元企業の危機感と関心の表れと言える。宮田布帛の宮田泰次社長は「CFRPで播州織を活性化し、小さい頃から聞いて育った機織りの音を途絶えないようにしたい」、藤邦織物の藤井国男専務は「技術をほかの機屋(はたや)に伝え、広めたい」と話し、地域への貢献を誓った。
【兵庫県立工業技術センター繊維工業技術支援センター主席研究員兼技術課長・藤田浩行氏/車・家電部品への応用視野】
兵庫県立工業技術センター繊維工業技術支援センターの藤田浩行主席研究員兼技術課長は播州織産地に適したCFRPの実用化に道を開き、10年近く開発を率いてきた。課題や展望を聞いた。
―CFRPの開発に乗り出した理由は。
「06年にCFと熱可塑性樹脂の複合糸が持ち込まれた際にCFRPに応用できると直感した。当時はちょうど熱可塑性CFRPが注目され始めた時期だった。ただ、熱可塑性樹脂は種類が多く、冷却方法や速度によって強度などの特性が大きく変わるため、ここまでかなり苦労した」
―板バネ以外の用途開発は進んでいますか。
「織り技術に加え、編み技術も活用することで成形しやすい材料ができる。この特徴を生かし、自動車や家電部品への応用も進めている。既に特定企業と共同開発しているほか、新たな開発案件も複数ある。共同開発については企業から引く手あまたの状態だ」
―今後の課題は。
「兵庫県や西脇市、より多くの地元企業を巻き込んでCFRPを西脇市の一大産業に育てたい。幸い実用化が近いため、今後は積極的な参画が得られるだろう」
日刊工業新聞2015年04月15日 中小・ベンチャー・中小政策面