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どうなるルネサス株の売却先。「日の丸」維持かグローバル再編か

官民ファンドが既存株主などに追加出資打診?シャープ救済へ「成功体験」アピール?
 半導体大手ルネサスエレクトロニクスの「出口戦略」がにわかに騒がしくなってきた。経営危機にあった2013年、官民ファンドの産業革新機構やトヨタ自動車など国内主要取引先8社が1500億円を出資し再建を進めてきた。2015年3月期連結決算で10年の会社発足以来、初めて当期黒字を達成。株式を一定期間売却できない「ロックアップ」契約が今年9月末に解除され、革新機構は出資比率を69%超から50未満に引き下げる意向だ。

 売却先候補として一部報道で、トヨタやパナソニックなど既存株主が挙がっているというが、ルネサスがグローバルで生き残っていくためには、大手の外資半導体メーカーとの提携が必要、という意見も革新機構やルネサス内部にある。

 ルネサスの出口戦略を考える上で、同じく革新機構主導で再建を果たしたフォークリフトメーカー、ユニキャリアホールディングスの例をまず参考にしていみたい。

なぜキオンではなく三菱重工だったのか


 「非常に美しい案件だった」。革新機構の勝又幹英社長はユニキャリアホールディングスを巡る一連の流れをそう自画自賛した。7月末に三菱重工業グループへの株式譲渡を決め、約300億円の売却益を得た。もちろん革新機構は政府系であり、金額のみで出口戦略の成否は判断できない。

 日立建機日産自動車のフォークリフト事業を統合したユニキャリアは誕生後、一度も人員削減を行わずに現在に至る。その一方で、業界再編は進み、この3年で国内フォークリフトメーカー4社が1社に集約されて世界3位の日本メーカーが誕生することになる。

 ユニキャリアの業績が改善して“売れる会社”になったポイントは「経営陣と従業員の頑張りに尽きる」と革新機構の豊田哲朗専務は強調する。具体的には調達資金により海外でM&A(合併・買収)を繰り返したほか、リベートなどの悪しき商慣習と決別することで収益を向上させたと言われる。たしかに業界再編のお手本と呼ぶべき成功事例だろう。

 ただ、将来への懸念がないわけではない。ユニキャリア買収を巡っては三菱重工グループ以外に、世界2位の独キオングループが参戦していた。むしろ先に手を挙げていたのはキオンだったと見られる。現在でもキオンとの“結婚”の方が地域などの補完性が高く、よりシナジーを発揮できるはずだとの声は業界内で根強い。

 革新機構がユニキャリア売却を検討しだした14年初頭以降、所管する経済産業省や産業界の一部から、キオンに中国資本が入っていることなどから「外資へ売却するな」と注文がついた。もちろん、それが革新機構などの判断にどれほど影響を与えたかは不明だ。豊田専務は「価格、契約条件、ユニキャリアにとってどうか、我々の特殊な(半官半民の)背景の4要素を基にフェアにやると言い続けた」と振り返った。
 

革新機構、ルネサスともに新体制がスタート


 今年6月、革新機構は会長兼最高経営責任者(CEO)に日産自動車の志賀俊之副会長、社長兼最高執行責任者(COO)にファンド運営経験の豊富な勝又氏を招聘(しょうへい)した。ユニキャリアは前経営体制が手がけた案件で、現体制が必ずしも「国内」にこだわるとは限らない。

 勝又社長は就任直後、ルネサスの出口戦略について「時限性のある官民ファンドなので、役割を考えながら、どこかでイグジットしていかないといけない。ただ、具体的にどうするかは検討中だ。一般論として、半導体産業は世界的に合従連衡の流れであり、ルネサスの成長戦略と我々のミッションに合う話が来れば検討する」と話している。

 一方、志賀会長は、自身が所属する日産がルネサスの民間出資者に名を連ねるため、「利益相反」の観点から直接議論に加わっていない。

 一方、ルネサスも元オムロン出身で再生請負人として招聘された作田久男会長兼CEOが6月末で退任、日本IBM常務執行役員や日本オラクル社長を務めた遠藤隆雄氏が後任に収まった。遠藤氏はグローバル展開を急いでおり、M&Aにも積極的といわれている。「弱い技術や市場を補完する足し算ができる会社がターゲット。プレーヤーが少なくなっているので焦りはあるが、慎重かつ大胆に提携戦略を進める」(遠藤氏)という。

 ルネサスは16年3月期も前期並みの当期利益を確保する見通しだが、成長戦略は簡単ではない。半導体業界では、市場の成熟化が進んだ結果、世界的な再編が加速している。ルネサスと車向け半導体でしのぎを削るオランダ・NXPセミコンダクターズが米フリースケールセミコンダクタを買収するなど、ライバルが規模拡大によって存在感を高めている。
 
 またスマートカー(近未来自動車)や、モノのインターネット(IoT)といった新領域では、半導体からアプリまでシステム構成が幅広いため、半導体だけを提供しても顧客ニーズには十分に応えられない。このためアプリケーション(応用ソフト)やサービスまで含めて提供するソリューション展開という新たな競争が始まっている。

 特に注目されるのは、インターネットに常時接続される“つながる車”や先進運転支援システム、自動運転を巡ってビジネスチャンスが急拡大する車分野だ。ルネサスは車向けマイコンで世界首位にあり、車関連企業への販路拡大を目指す企業を巻き込んでいける可能性はある。
 
 調査会社ガートナージャパンの山地正恒半導体/エレクトロニクス・グループ主席アナリストは、「ルネサスが自社の製品ラインアップを補完する目的で、自動運転の頭脳となる高機能プロセッサーや、センサー関連メーカーと組むメリットは大きいのではないか」と指摘する。
 
 「外資・内資という分け方で議論するのはナンセンス」(革新機構元幹部)ではあるものの、ルネサスが外資系と提携する場合、一筋縄でいかない可能性もある。革新機構には政府が出資しているほか、日系自動車向けエンジン用マイコンの最大サプライヤーであり、技術流出や調達の不安定化を懸念する声も根強い。

 最後はいつもの「日の丸」に落ち着くのだろうか。
日刊工業新聞2015年06月26日/2015年9月3日付の記事を加筆・再編集
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
革新機構がトヨタやパナソニックなど既存株主に打診するという報道は、さまざまなステークホルダー、提携を検討している外資の半導体メーカーなどの反応をみようという革新機構や経産省の観測気球の意味合いが強い。革新機構はシャープの液晶事業の再建に乗り出す検討も進めており、「成功体験」をアピールする材料が欲しいという事情もある。

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