「百貨店と粗鋼生産」中国で明暗
日本の産業界の縮図か!?そして中国は「中進国の罠(わな)」を自覚
「中国」の動向が産業界の行方を左右している。全国百貨店売上高は中国「国慶節」の追い風で7カ月連続プラスと好調を維持。一方、中国の供給過剰問題の余波で粗鋼生産量は14カ月連続マイナスと、明暗が分かれた。
日本百貨店協会が19日に発表した10月の全国百貨店売上高は4974億円で、既存店売上高は前年同月比4・2%増と7カ月連続でプラスだった。前年と比べて天候が穏やかで、土曜日が1日多い点も寄与した。中国の「国慶節」を中心とした訪日外国人(インバウンド)による免税売上高は同1・9倍の172億円と、33カ月連続で前年同月を超えた。
昨年10月に免税制度が消耗品にも拡大されて効果は一巡したが、訪日外国人の増加などで依然大きく伸びた。免税品のうち、化粧品や食料品などの消耗品の売上高は同3・5倍の38億円で、免税金額の2割を超えた。
地域別では主要10都市が同5・7%増だったのに対し、それ以外の地区は同1・2%増だった。井出陽一郎専務理事は「地方にお客さまを誘導し、良い商材やサービスを提供する努力が必要。街全体との連携も重要になる」と述べた。
商品別は化粧品が同22・5%増、美術・宝飾・貴金属が同16・2%増。衣料品や食料品などの主要5品目すべての売り上げが5カ月ぶりに前年を上回り、高額品以外についても消費が堅調だった。
日本鉄鋼連盟が19日に発表した10月の粗鋼生産量(速報)は、前年同月比3・8%減の900万2900トンと、14カ月連続で前年同月割れになったと発表した。国内の需要減に加え、中国の鋼材供給過剰を背景に市況も低迷。経済産業省は10―12月期の粗鋼生産計画が前年同期比3・4%減少すると公表しており、出足の実績としてそれを裏付ける数字となった。業界内でも年内は前年割れが続くとの見通しが大勢を占めている。
10月は自動車の新車効果や造船業界への供給増、”秋需“と呼ばれる建設向けの需要などが盛り上がり、粗鋼生産量もプラスに転じると見られていた。ところが、一部を除いてほとんどが空振りに。中国の鋼材輸出の増加の勢いが衰えず、国際的な鋼材市況は低迷。生産水準の回復にも力がなく、10月の1日当たり生産量は29万400トンと、9月比1・6%増にとどまった。
業界では下期からの反転攻勢を描いていただけに、その落差は数字以上に大きい。鉄鋼大手各社は少なくとも10―12月期での回復は織り込んでいない。プラスに転じるのは、早くても16年1月以降になりそうだ。
―中国経済を明確にとらえるポイントは。
「重要なのが、中国共産党にとって経済はどのような意味があるかをしっかり押さえることだ。経済が順調に発展しないと、中国共産党の統治が難しくなる。分かりやすく説明すれば、『経済の成長』+『社会の安定』=『中国共産党の統治・維持』という方程式が成立している。経済政策の帰趨(きすう)が、政権の命脈を左右しかねない正念場に中国共産党は立たされていると言えるだろう」
「経済を発展させることで、課題を解決していくのが中国のやり方だ。大きな課題になっている社会保障や教育、環境問題などに対応するためには、経済が成長して歳入が確実に増えることで初めて担保される。中国共産党が経済を最優先せざるを得ない理由はここにあるし、必死だ」
―中国は「ニューノーマル」という中速成長を模索しています。
「これは『経済構造の転換』を意味する。これまで中国は安価な労働力を武器に高度成長を実現した経済モデルから、労働生産性を高め、消費中心の内需型モデルへの移行を模索している。これを実現しないと中国の成長は難しい」
「『ルイスの転換点』という法則があるが、まさに中国は構造転換を進めないと、先進国入りする前に成長が停滞する『中進国の罠(わな)』にはまり込んでしまう。中国はそれを十分自覚しており、意図的に経済成長率を下げて、経済に対する負担を軽減している。これが『新常態』と言われる経済政策が意味するところであり、今後も段階的に成長率を引き下げていく可能性が高い」
―中国は今後、どのような産業構造転換を図っていきますか。
「既存の産業の労働生産性を高める、または生産性が高い新たな産業を育成することになるが、すべての根幹は科学技術力だ。科学技術力を高め、産業水準の引き上げに必死になっているが、ハードルはかつてに比べ高くなっている」
「留意しなければならないのは、中国は科学技術の高度化を『外資』を使って実現しようとしている点だ。海外の技術や人材を積極的に受け入れている。上海の自由貿易区はその典型だ。外資をうまく活用し、短期間で科学技術力を向上させようと躍起になっている。この分野で先行する日本だが、決して侮ることはできない」
日本百貨店協会が19日に発表した10月の全国百貨店売上高は4974億円で、既存店売上高は前年同月比4・2%増と7カ月連続でプラスだった。前年と比べて天候が穏やかで、土曜日が1日多い点も寄与した。中国の「国慶節」を中心とした訪日外国人(インバウンド)による免税売上高は同1・9倍の172億円と、33カ月連続で前年同月を超えた。
昨年10月に免税制度が消耗品にも拡大されて効果は一巡したが、訪日外国人の増加などで依然大きく伸びた。免税品のうち、化粧品や食料品などの消耗品の売上高は同3・5倍の38億円で、免税金額の2割を超えた。
地域別では主要10都市が同5・7%増だったのに対し、それ以外の地区は同1・2%増だった。井出陽一郎専務理事は「地方にお客さまを誘導し、良い商材やサービスを提供する努力が必要。街全体との連携も重要になる」と述べた。
商品別は化粧品が同22・5%増、美術・宝飾・貴金属が同16・2%増。衣料品や食料品などの主要5品目すべての売り上げが5カ月ぶりに前年を上回り、高額品以外についても消費が堅調だった。
“秋需”期待も空振り
日本鉄鋼連盟が19日に発表した10月の粗鋼生産量(速報)は、前年同月比3・8%減の900万2900トンと、14カ月連続で前年同月割れになったと発表した。国内の需要減に加え、中国の鋼材供給過剰を背景に市況も低迷。経済産業省は10―12月期の粗鋼生産計画が前年同期比3・4%減少すると公表しており、出足の実績としてそれを裏付ける数字となった。業界内でも年内は前年割れが続くとの見通しが大勢を占めている。
10月は自動車の新車効果や造船業界への供給増、”秋需“と呼ばれる建設向けの需要などが盛り上がり、粗鋼生産量もプラスに転じると見られていた。ところが、一部を除いてほとんどが空振りに。中国の鋼材輸出の増加の勢いが衰えず、国際的な鋼材市況は低迷。生産水準の回復にも力がなく、10月の1日当たり生産量は29万400トンと、9月比1・6%増にとどまった。
業界では下期からの反転攻勢を描いていただけに、その落差は数字以上に大きい。鉄鋼大手各社は少なくとも10―12月期での回復は織り込んでいない。プラスに転じるのは、早くても16年1月以降になりそうだ。
元中国大使が本当に伝えたいこと <宮本雄二氏インタビュー>
日刊工業新聞2015年7月2日付
―中国経済を明確にとらえるポイントは。
「重要なのが、中国共産党にとって経済はどのような意味があるかをしっかり押さえることだ。経済が順調に発展しないと、中国共産党の統治が難しくなる。分かりやすく説明すれば、『経済の成長』+『社会の安定』=『中国共産党の統治・維持』という方程式が成立している。経済政策の帰趨(きすう)が、政権の命脈を左右しかねない正念場に中国共産党は立たされていると言えるだろう」
「経済を発展させることで、課題を解決していくのが中国のやり方だ。大きな課題になっている社会保障や教育、環境問題などに対応するためには、経済が成長して歳入が確実に増えることで初めて担保される。中国共産党が経済を最優先せざるを得ない理由はここにあるし、必死だ」
―中国は「ニューノーマル」という中速成長を模索しています。
「これは『経済構造の転換』を意味する。これまで中国は安価な労働力を武器に高度成長を実現した経済モデルから、労働生産性を高め、消費中心の内需型モデルへの移行を模索している。これを実現しないと中国の成長は難しい」
「『ルイスの転換点』という法則があるが、まさに中国は構造転換を進めないと、先進国入りする前に成長が停滞する『中進国の罠(わな)』にはまり込んでしまう。中国はそれを十分自覚しており、意図的に経済成長率を下げて、経済に対する負担を軽減している。これが『新常態』と言われる経済政策が意味するところであり、今後も段階的に成長率を引き下げていく可能性が高い」
―中国は今後、どのような産業構造転換を図っていきますか。
「既存の産業の労働生産性を高める、または生産性が高い新たな産業を育成することになるが、すべての根幹は科学技術力だ。科学技術力を高め、産業水準の引き上げに必死になっているが、ハードルはかつてに比べ高くなっている」
「留意しなければならないのは、中国は科学技術の高度化を『外資』を使って実現しようとしている点だ。海外の技術や人材を積極的に受け入れている。上海の自由貿易区はその典型だ。外資をうまく活用し、短期間で科学技術力を向上させようと躍起になっている。この分野で先行する日本だが、決して侮ることはできない」
日刊工業新聞社2015年11月20日4面