【革新!温暖化対策#03】木材の主成分「リグニン」でプラスチック

農村部が資源供給基地に

 木材の主成分「リグニン」からプラスチックのような成形品を作る研究が進んでいる。最新の研究成果で、石油由来のプラスチック原材料と同じように溶かして自在に形を変えられるようになった。妖精のような響きのある「リグニン」は、どんのような可能性を秘めているのか、研究が行われている茨城県つくば市の森林総合研究所を訪ねた。

 道路からだと建物に気づかないほどの樹木に囲まれた敷地に森林総研がある。木々の間を抜けてたどり着いた建物はまさに"森の中の研究所"。そこでリグニンのマテリアル(原材料)利用を研究する木材化学研究室の山田竜彦室長、研究員の高田依里さんに話を聞いた。

 開口一番、山田室長は「リグニンは黒いダイヤモンドなんです」と紹介。黒いダイヤモンドといえば石炭のこと。炭鉱の町に富をもたらしたので石炭はダイヤモンドに例えられる。木材を石油代替のプラスチック材料にできるなら、リグニンもダイヤモンドのような価値を持つ。「森林がある農山村に新しい産業を興すのでリグニンも黒ダイヤ」(山田室長)。この力説を聞き、リグニンへの期待が高まってきた。

 セルロースに次いで多い木材の主成分でるリグニンは、芳香核(ベンゼン環)を持つ化合物が結合してできた高分子だ。木が堅いのはリグニンのおかげ。用紙はリグニンを抜いたセルロースだけでできているので柔らかい。その堅いリグニンだけを抽出すると石油由来原材料のように成形品にできる。

 他にも植物由来プラスチックがあるが、木材は農作物ではないので人の食糧と競合しない。しかも地域に偏りなく豊富にあるので将来、有望な原材料になると見込まれる。

 早速、みせてもらったリグニンは色、形ともクッキーのよう。手にとるとあっさりと崩れ落ちた。指先に残ったリグニンは感触がないほどサラサラする。

 これで成形できるかと疑問に思っていると、リグニンを原材料とする活性炭繊維で作ったフィルターをみせてくれた。活性炭繊維は細い糸の表面にあいた小さな穴に物質を吸着する素材で、空気や水の浄化フィルターに使われる。

 リグニンを活性炭繊維にする方法は合成繊維と同じ。熱で溶かしたリグニンを小さな穴から吹き飛ばして糸状にして冷やして固める。「溶かして狙った形に整えて固める」-。つまり射出成形が可能という証拠だ。

 木材から抽出する時、ポリエチレンゴリコール(PEG)を混ぜてリグニンを改質し、熱での溶け具合(熱可塑性)を調整できるようにしたのが山田室長らのブレークスルーだ。高田さんは「PEGは化粧品に使われる安全な材料。しかも常圧で処理するのも画期的」と解説してくれた。

 山田室長は試作プラントを「鍋」と表現する。加熱はするものの、圧力を加える工程がないからだ。「鍋なので安全。農山村に導入すやすい」と胸を張る。日本には豊富な森林資源がある。森林にプラントが次々に設置されると、農山村が原材料の供給基地になる。まさにリグニンが"黒ダイヤ"となって地域を活性化する。
 
 リグニンの原材料利用の研究を加速させている。森林総研、北海道大学、企業との研究コンソーシアムが農林水産省の委託事業で、リグニン由来のコンクリート化学混和剤も開発済み。活性炭繊維はキャパシタへの採用も狙う。リグニン由来の活性炭繊維は従来品よりも表面の穴が多く、一瞬にして大量の電気をためられるので、高機能なキャパシタを開発できそうだ。

 内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム」の研究課題に選ばれており、多くの大学、機関、企業が参加して用途開発から地域活性化までも含めた研究プロジェクトが始動している。研究代表でもある山田室長は「5年後には何か製品が市場に出ていると思う。私はリグニンを主産物にできると考えている」と自信たっぷりに話す。

 研究所の敷地にいっぱいに生息する樹木のリグニンも石油代替の原材料にできる。帰り道、樹木を眺めているとダイヤのように輝いている姿が思い浮かんできた。

 生物資源(バイオマス)を燃料とした発電はCO2を排出しない「カーボンニュートラル」。リグニンも天然資源なので原材料利用についてはCO2ゼロとカウントでき、温暖化抑制に貢献できる。

日刊工業新聞2015年11月13日「創刊100周年特別号」より

松木 喬

松木 喬
11月21日
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温室効果ガスの発生がゼロのエネルギーであったり、CO2を吸収して化学材料を作るような研究ではありませんが、身近にある木材からプラスチックができるというのも「夢のある技術」と思いました。大々的に石油由来のプラスチックに代替しなくても、森林のある農村部に新産業を起こしてほしいです。

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