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MRJで変わる航空人材の育成

【連載】MRJ空へ(下)
MRJで変わる航空人材の育成

新人作業員を指導するベテラン整備士(左)=名古屋市南区

 着陸の瞬間、講演会場では割れんばかりの拍手が起こった。国産小型旅客機「MRJ」が初飛行した11日。東京大学大学院教授の鈴木真二は松山市内で講演していた。初飛行の中継映像を講演会場スクリーンに投影。11時02分、着陸の様子を聴講者300人とともに見守ったという。

航空の学科で「経営学」


 鈴木にとってもMRJの初飛行は感慨深いものだった。東大や同大学院で学んだ数多くの教え子がMRJを開発する三菱重工業グループで働く。「日本にも(航空)産業ができてきた。航空を学んだ人が航空分野で活躍するいい流れができてきた」(鈴木)。MRJ以外にも、日本企業は米ボーイング向けの機体や欧米大手向けのエンジン部品への参画を増やしており、人材の受け皿が広がりつつある。

 鈴木は2008年のMRJ事業化と前後し、東大の航空宇宙工学専攻のカリキュラムを変更した。今では流体力学、エネルギー工学といった理系分野に交じり、航空ファイナンス(金融)や経営学といった科目を学べる。「その技術が航空会社にどんなメリットをもたらすのか。総合的に考えるのが航空機の技術者」(鈴木)。技術の適用にどれほど開発費がかかり、機体全体のコストや会社経営にどう影響するか。全体を見極められる技術者を産業界に送り出す。

自動車から航空機へ転身


 MRJをきっかけに、航空機産業の人材育成を強化する取り組みは各地で進む。10月下旬、名古屋市南区のパーソナック航空機事業部では、製造現場の新人作業者向けに実技研修が開かれていた。

 愛知県が実施する事業で、20日間かけて航空機の胴体を接合するリベット(鋲)の打ち方、機体構造などを学ぶ。講師を務めるのは、一等航空整備士の国家資格を持つ航空会社OBだ。

 ある20代受講者は自動車のライン作業に従事していたが、航空機に携わりたくて”転身“した。「いつかMRJにも携わりたい」と意気込む。研修後は航空機の製造現場で働くことが決まっているという。

 MRJの量産化を控え、中部地域を中心とする機体の製造現場では作業者の不足感が強まる。構造組み立てに携わる協力企業はいずれも例年以上の採用を決めた。ボーイング機の増産も重なり、ここ数年でも増員してきたが、MRJ量産を機にさらに増やす。

 中部経済産業局は航空機の製造技能者として求められる基礎知識や技術をまとめた共通カリキュラムを作成した。三菱重工業、川崎重工業、富士重工業など各メーカーがノウハウを出し合ったもので、15年度から実証を開始。16年度の本格開始を目指す。

 鈴木は航空機産業の将来をこう展望する。「資源に乏しい日本を支えるために、製造業が重要だ。航空機は参入障壁が高い。自動車に続く基幹産業の柱の一つになるのでは」。MRJの初飛行は、日本の航空機産業そのものを一歩前に進める起爆剤となる。

(敬称略)
日刊工業新聞 2015年11月17日 機械・ロボット・航空機面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
MRJをきっかけの一つとして進められるプロジェクトには、今回の連載で取り上げきれなかったバイオ燃料開発や地方の航空ネットワーク、MRO(整備・修理)などもあります。やはり、国内に「完成品」を生み出すメーカーができることは、産業にとって大きなインパクトがあります。初号機が納入される予定の2017年までに各方面で新しい取り組みが加速していると思います。

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