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「心を尽くすことだけは忘れない」JAL接客トップの心得とは

「心を尽くすことだけは忘れない」JAL接客トップの心得とは

JALの第4回空港サービスのプロフェッショナルコンテストで優勝した福岡空港の田島由佳里さん

 「特別な能力も才能もありませんが、心を尽くすことだけは忘れないようにとがんばってきました」。国内外合わせて約4500人の空港旅客係員(グランドスタッフ)が運航を支える日本航空(JAL)は11月12日、都内で接客スキルを競う「空港サービスのプロフェッショナルコンテスト」の第4回目を東京・羽田の施設で開いた。

 列に並ぶ人にも気遣い

 優勝した福岡空港の田島由佳里さん(09年入社)は、受賞後のあいさつで、涙を浮かべながら冒頭の言葉を語った。入社から1年も経たない2010年1月、JALは経営破綻する。破綻によりJALから利用者が離れた時でも、乗り続けてくれた乗客のことを思い出しながらの言葉だった。

 コンテスト本選では、イレギュラー状況を想定したアナウンスと、カウンターチェックイン実技で、接客スキルを審査。カウンター審査では、危険物と知らずナイフを機内に持ち込むカバンに入れていたため、保安検査場からカウンターに誘導されたビジネスマンや、上司との出張で席の指定を任されて困惑する部下、近年増加する外国人客、列で待たされる乗客など、教官らが異なるタイプの利用者を演じ、どのように対処するかを審査した。

 審査員の一人でもあるJALの植木義晴社長は、「すごく自然体だった。待っている人にも“もう少々お待ちください”と声を掛けるなど、ほかの出場者が気づいていないことも、彼女だけ気づくことがいっぱいあった」と評価。記者が見ていても、自分が応対している乗客役以外に対する気配りは目を引いた。

 田島さんは、「緊張しないことと、いつもの自分でいることが目標でした」と審査に向かった際の心境を振り返る。普段のカウンターとは異なり、審査員やほかの出場者、応援団といった観客がいる点が「非日常だなと思いました」と話す田島さんだが、「自分の実力以上は出ない」と考え、普段通りの接客に徹した。

 審査の中では、出場者が乗客役を応対している横で、教官の係員が別の乗客役の対応を進めるものもあった。緊張を強いられる審査の中で、自分が接した利用者以外にも気を配ることの難しさは想像に難くない。しかし、田島さんは自然な振る舞いで、教官が応対した乗客役にも言葉を掛けていた。

 もう一つ大きな山場があった。増加する外国人客への応対の審査で、外国人2人と日本人1人の教官がグループで出張客として登場し、英語で適切な応対が出来るかが評価された。しかし、外国人客の後ろにも別の乗客役として教官が並んだ。

 植木社長が田島さんを評価した点のひとつが、この時の対応だった。外国人客2人の応対には、ある程度時間がかかる。そこで田島さんは応対を始めてしばらくすると、「もう少々お待ちいただけますか」と、後ろに並ぶ乗客に声を掛けた。一瞬のことだったが、こうした配慮が高い評価につながったようだ。

 同じく福岡空港の空港係員で、第2回の優勝者である片山佳恵さんは、カウンターなどの業務をこなしながら、新人が入社した時は教官も務める立場になった。今回は教官としてコンテストの運営に関わった片山さんは、「近い年代の田島さんが優勝してくれてうれしい」と、共に働く仲間の優勝を大いに喜んでいた。

 人として成長できる

 田島さんは空港係員を目指した理由を、「空港で一番最初に足を運んでいただける場所。そこで役に立てる仕事がしたかったです」と話す。空港で仕事をこなす魅力的な係員を見かけたことも、空港係員を目指すきっかけになった。

 最後にこの仕事に向いている人のタイプを田島さんに尋ねた。「誰かのために、何かをしたい人でしょうか。でも、いろいろな役割があるので、どんな人にとっても良い仕事だと思います」と話してくれた。「人として成長できる仕事です」と仕事の魅力を笑顔で話す田島さんは、どんな後輩を育てていくのだろうか。
吉川忠行
吉川忠行 Yoshikawa Tadayuki Aviation Wire 編集長
JALの「空港サービスのプロフェッショナルコンテスト」優勝者である福岡空港の田島さん。自分が接客する利用者役の教官だけではなく、隣にならぶ人にも気を配るなど緊張を強いられるコンテストの中、平常心を心掛けていたようです。

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