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5年間の取引額1兆円。“ユニクロ・東レ連合”が目指す先

東レの作る力とユニクロのマーケティング力「直結させイノベーションを起こす」(柳井氏)
5年間の取引額1兆円。“ユニクロ・東レ連合”が目指す先

会見後に握手する柳井ユニクロ会長兼社長、日覺東レ社長

 ユニクロと東レは17日、2016年から20年までの取引累積額1兆円を目指すことなどを柱とした5カ年計画を共同で進めると発表した。ユニクロの国際化の進展を背景にユニクロのビッグデータを活用した商品開発体制や東レの生産拠点を一段と活用。各国に短納期で供給できる体制を整備、衣料品の開発から販売までのサプライチェーンを改革、海外売上高の拡大に備える計画だ。

 両社が共同で進める「戦略的パートナーシップ第III期5カ年計画」は、2020年に国内外の売上高5兆円を目指す計画に向けた体制整備だ。ユニクロの海外売上高が15年8月期で前期比45・9%増の6036億円と急ピッチで拡大し、国内売上高の7800億円に迫っている。

 ユニクロの販売動向などビッグデータを活用、世界のトレンドを商品開発に織り込むほか、東レの生産拠点を一段と活用。同一アイテムを複数の国で生産し、供給先に短時間で届け欠品を削減する。また、環太平洋連携協定(TPP)など関税のかからない素材や製品の調達、供給の仕組みを構築し、製品価に反映する。

 会見したユニクロの柳井正会長兼社長は「東レの生産やユニクロのマーケティング力などを直結させ、イノベーションを起こす」と語った。また、日覺昭廣東レ社長は「技術、開発力を総動員しグローバルで効率のよい生産供給体制を作る」と話した。

 ユニクロと東レはこれまで東レの新素材を活用した新機能肌着の「ヒートテック」などを共同開発するなどしてきた。

ファシリテーター・峯岸研一氏の見方


 合繊メーカー、テキスタイルオペレーション機能を活かす動きに注目

 東レとユニクロは、2016年から20年に至る第3期「戦略的パートナーシップ」で、取引規模を第2期(2011年から14年)に比べて1.5倍の1兆円まで拡大する目標を掲げました。両社はこれまで、東レの原糸・原綿からテキスタイル、縫製に至るグローバルな一貫生産供給体制と、ユニクロのサプライチェーンが結び付くことで取引規模を拡大してきました。その上で今回、販売情報や生産情報の共有化をこれまで以上に推進するとともに、東レは中国を含めてグローバルに生産拠点を多極化して拡充する方針を示しました。

 目標実現には消費者ニーズを的確に把握するのは勿論ですが、そうした情報を反映した製品を如何にして、大量に提供できるかも重要になります。その際に忘れてならないのは、強みの一つとして原糸メーカーが原糸・原綿だけでなくテキスタイルまでオペレーションするのは世界で日本だけだ、ということです。

 東レグループの生産体制は日本を中心に多岐に亘ります。ナイロンは日本、中国、タイ、インドネシア。ポリエステルが日本、韓国、中国、タイ、マレーシア、インドネシア。アクリルが日本のような原糸・原綿をベースに、化繊や天然繊維を含めた多様な紡績、織布・編み立て、染色拠点とともに、縫製拠点は中国からベトナム、バングラデシュ、インドネシアへ拡大しています。
 
 ただし、東レの一貫生産体制は一朝一夕に構築されたわけではありません。日本の合繊メーカーの多くは原糸生産の削減や撤退、テキスタイルオペレーションを分社化しました。その中で東レは厳しい状況下でも「トータルで繊維産業は成長産業」と位置付けて、一貫生産体制の強化に注力しました。そうした努力がユニクロとの提携のよって結実しているわけです。

 両社の取り組みは繊維産業における「ビジネスモデル」になりました。しかし、少くとも原糸・原綿からのテキスタイルオペレーションに関して、縫製プロジェクトを除けば日本の合繊メーカーが従来から取り組んで来たものです。東レ以外の合繊メーカーの大部分は、原糸・原綿やテキスタイル事業を分社化しましたが、その上で培ってきたテキスタイルオペレーション機能を活かそうと努力しています。東レとユニクロの動向だけでなく、そうした合繊メーカーのこれからの動きも注視したいですね。 

日刊工業新聞2015年11月18日3面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
「ユニクロ」と「東レ」といえばイノベーションを起こした「ヒートテック」でおなじみの関係。さらに会見で提携強化を打ち出したことは、単に海外展開強化の中で取引額を増やすということよりも、素材―製造小売りという「縦の関係」をより密接にすることで、PDCAのサイクルをより早くして、新しい価値をどんどん出していこうという決意の表れような気がする。他の取引先があっても特定の相手と強いコミットメントを打ち出す。メーカー、小売りもともに強いパートナーを選ぶ時代になったのかもしれない。

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