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ビッグデータ活用で「フライト燃料費1億ドル削減」を狙え

サウスウェスト航空が導入したGEのインダストリアル・インターネット技術の中身とは
 凍えるようなシカゴを脱出して暖かいメキシコ・カンクンへのバケーションに出かける人、急遽ロサンゼルスからニューヨークへ大陸横断出張へと出かける人…。サウスウェスト航空の年間100万便を数えるフライトを利用する人々のニーズは様々。しかも、それを担う航空機が置かれる環境は、大気中の湿度から必要となる燃料の量まで千差万別だ。

 その個々すべてに綿密なフライトプランを立て、最終利益へのインパクトを正確に算出することなど とんでもない、と考えられてきた。それを今、ジェット・エンジンなどのマシンをデジタル・ネットワークでソフトウェアやデータ・クラウドに接続するインダストリアル・インターネットが変えようとしている。

 サウスウェスト航空は、米国の国内定期便航空会社として初めて、米ゼネラル・エレクトリック(GE)のフライト・エフィシェンシー・サービシズ(FES)ユニットが開発したビッグデータのシステムを導入。個々のフライト中に発生するあらゆる事象について新たなインサイトを蓄積している。

 このシステムは、セキュアなインダストリアル・インターネットの環境下で稼動し、クラウド・コンピューティングと最新悦のソフトウェア及び分析技術を活用している。サウスウェスト航空は自社が700機近く保有するボーイング737型機の各々の航空機とフライト情報を分析し、収益性の因果関係を探り出す。

 サウスウェスト航空では、何年も前から、1機の航空機がある地点から別の地点に飛行する間に生み出されるデータを収集し、安全性を分析するコンセプトを考えていた。この飛行解析システムはエバー航空、エアアジア、スイス国際航空、浙江長龍航空、スパイスジェットといった航空会社もすでに導入し活用しているという。

 GEの産業向けクラウド・ベース・ソフトウェア・プラットフォームであるPredixのツールとして新たにリリースされた新しいシステムでは、その適用範囲が広がり、すべての航空機を取り巻く、風速、気温、機体の重量、最大推進力といった幅広い航空機データを収集し、GE独自の技術や蓄積してきた知見と照らし合わせて分析できる。

 この分析結果をじっくりと研究することで、これまでは発見できなかった傾向、各フライトに対する実行可能なインサイトを見い出し、運航業務を最適化できる。

乗客や貨物の搭載を増やし収益拡大の可能性も


 また「単にコストを削減するだけでなく、収益の拡大につながる可能性もある」(GEアビエーション・デジタルソリューション部門エグゼクティブ・エンゲージメント・リーダーのジョン・ゴフ氏)という。

 例えば、特定路線のフライトで常に過剰な燃料を搭載していることが分かれば、燃料の搭載量を減らすだけでなく、より多くの乗客を搭乗させ、貨物を増やすことも可能だ。「航空会社もフライトに様々なコストの増減要因があることを理解している。しかし実際には、離陸滑走から離陸、上昇、巡航、下降、アプローチ、着陸を経てまた滑走しゲートに戻る、というすべての局面において、インサイトを見いだすことはこれまでは不可能だった」(同)

 理由は、予測不能な風の状況による飛行高度調整から外気圧やスピード、天候など、フライトには多くの変動要素が関係するため。同じ型式の航空機であってもメンテナンス状況の違いによって、機体重量に2,000ポンド(約907 kg)もの差が生じることがある。

 それを、数百機の航空機からのリアルタイムのデータを受け取り、天候からナビゲーションまですべてのデータと組み合わせることで、より正確なプラン構築に結びつけることができるようになる。

 特にシステムの導入によって、大きな期待が寄せられるのが燃料コストの改善。燃料効率は、航空会社の利益率を営業費用のわずか2%にまで圧縮する大きな要素である。車や船など一般的な交通手段とは違い、航空機は天然ガスや電気といった代替エネルギー源を利用することができない。

 そのため、平均的な航空会社でも、燃料費が営業費用に占める割合は20%以上になっている。さらに、その燃料費はここ15年で130%と急上昇し、航空会社のコストの中で最も伸び率の高い費用となっている。

 GEの試算では、航空燃料消費を1%改善すれば、世界の民間航空業界全体は15年間に300億ドルの節約が可能。燃料管理にFESを利用すれば、年間の燃料コストを最大で2%下げることができ、2014年に52.7億ドルの燃料を購入していたサウスウェスト航空ならば、毎年1億500万ドルの燃料経費削減の可能性があるということになる。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
やはりGEの航空機分野のIoT活用は強いし進んでいるが、GEはコスト削減分のどの程度のマージンをとれるのかも気になる。

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