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MRJ 開発の最前線は米国へ

【連載】MRJ 空へ(上)
MRJ 開発の最前線は米国へ

記者会見後、MRJの模型を手にする(左から)戸田和男テストパイロット(副操縦士)、安村チーフテストパイロット(機長)、森本社長、岸副社長(11月11日)

 三菱航空機(愛知県豊山町)の国産小型旅客機「MRJ」が開発着手から7年を経て初飛行した。4年弱に及んだ初飛行の延期。しかし慎重にプロジェクトを進めたことで、むしろ機体の完成度は高まったといえる。大空に飛び立った”メード・イン・ジャパン“の翼は、計画通りに当局の「型式証明」を取得し、無事に”着陸“できるのか。初飛行を機に、開発や生産、さらには人材育成といった取り組みが本格化する。

心配性


 「エンジニアは概して心配性」。歴史的初飛行の瞬間、技術トップの三菱航空機副社長、岸信夫は不測の事態に備えて乗員らに指示を出す部屋にいた。眼前には機体の状態を映し出すモニター。MRJに随伴する航空機からのビデオ映像もリアルタイムで送られる。異常値を示すデータは特に見当たらない。

 それでも岸は不安でたまらなかった。「飛行中に問題が起きたら、乗員を絶対に安全に帰すためにどんな対策を取れば良いか。それを考えると、実は心配で心配で…」。万が一の場合、長らく携わってきた戦闘機と異なり、MRJに操縦士脱出用の射出座席はない。

 そんな岸の不安をよそに、MRJは優美に舞い上がった。「これまで経験した機体の中でトップクラスの操縦安定性」(機長の安村佳之)を世界中に見せつけ、帰還した。その後の記者会見で社長の森本浩通は、「初飛行は成功。しかも大成功に近い」と宣言した。

 岸ら技術陣が慎重の上にも慎重を期して開発したMRJ。初飛行成功で「飛ばせる」ことは実証した。ただ、今後も日米欧の航空当局から「型式証明」を取るという高いハードルが待ち構える。2017年4―6月の初号機納入まで、あと約1年半だ。

米国での飛行試験がヤマ場


 最大のヤマ場は、米国で16年夏ごろから17年春にかけて計画する飛行試験だ。8月、三菱航空機はワシントン州シアトルにMRJの開発拠点を設けた。シアトルは航空機世界最大手ボーイングの本拠地。近郊モーゼスレイクにある空港は3000メートル以上の長距離滑走路を2本備え、晴天率も良いため、ボーイングをはじめ米空軍や航空会社の訓練施設が集中する。

 MRJも、米国の航空機開発インフラをフル活用する。三菱航空機はシアトル拠点に日本人50人、米国人100人を起用。初飛行の遅れを飛行試験の期間中に取り戻すため、一日3回程度のハイペースな飛行試験を全米で計画する。

 森本は「日程がタイトなことは否定できない。米国で頻度を上げて効率よく飛ばし、試験期間を短縮する」と意気込む。岸も「飛行前と飛行後で一日に計6回のブリーフィング(説明会)をこなし、試験とデータ解析を繰り返さないと(計画が)進まない」と先を急ぐ。

 ただ、試験では重要な改善点が見つかることもある。これまで慎重さを貫いてきた三菱航空機だが、今後は迅速な意思決定と素早い設計変更が一段と求められるようになる。MRJ開発の成否は、米国での飛行試験にかかっている。

(敬称略)
(【連載】MRJ 空へ(中)は18日配信予定です)
日刊工業新聞 2015年10月13日付2015年11月13日 機械・航空機面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 初飛行後の記者会見では岸副社長の「不安だった」という発言と、安村機長の「わくわくしていた」という表現が対照的でした。  今後、MRJ開発の現場はアメリカに移ります。

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