20年に世界で最もDLされたアプリは「TikTok」!中国企業の海外展開、課題は政治対立と信頼獲得
政治対立・信頼獲得の壁
振り返ってみると、2000年代に入ってから中国政府は「走出去(国外進出)」戦略を掲げ、中国企業の国外進出を呼びかけた。目的は国外の市場や資源、人材を活用して経済成長のエンジンとすると同時に、国際競争力の高いグローバル企業を育てることだった。
10年以降、国外進出の新たな担い手として注目を集めているのが、情報通信分野の大手プラットフォーマーやテック企業だ。
通信機器大手のファーウェイは1990年代後半から国外市場に進出し、すでに多国籍企業にまで成長している。電子商取引(EC)最大手のアリババやSNS最大手のテンセントは中国市場で揺るぎない地位を確立する一方で、国外市場への参入や現地プレーヤーへの投資を通じ、国外での勢力拡大を図っている。
20年に世界で最もダウンロードされたアプリはショート動画配信の「ティックトック(中国国内版=抖音)」だ。世界でのダウンロード数が累計で20億を突破し、中国発のアプリが世界を席巻した好例となっている。ティックトックを運営するバイトダンスは未上場で21年1月時点の評価額が1400億ドルと、世界最大級のユニコーン企業と呼ばれている。
スマホメーカーのシャオミは現在、インドのスマホ市場のトップブランドになっている。先月にスマホ新工場の建設と部品の現地調達の拡大を発表し、中印対立の逆風が強まる中、スマホ製品の「メイク・イン・インディア」を貫く姿勢を強調している。
中国企業と国外企業との連携も頻繁にみられる。オンライン診療のプラットフォーマー「平安好医生」は、シンガポールに本社を構えるライドシェア大手グラブと連携し、東南アジア地域を中心にオンラインヘルスケアサービス「グラブヘルス」を提供している。両社の強みを生かし、オンライン上の健康相談や薬の配達をビジネスにしている。
アフリカへの進出も活発だ。インフラが整備されていないため、大きなビジネスになるポテンシャルがある。中国テック企業の中でアフリカ進出の先陣を切ったのは、携帯電話機メーカーの「伝音」だ。深圳に本社を構える同社は中国国内では製品を販売しておらず、ここ数年アフリカ一筋で事業を拡大してきた。
テック企業の国外進出は、中国企業のブランド力の向上と、中国発のビジネスモデル創出につながると期待されているが、政治対立や現地市場の信頼獲得などの壁が立ちはだかる。中国企業がそれを乗り越えて真のグローバル企業に成長できるか、世界のビジネス競争環境により大きな影響を与えるか。今後も注目したい。
◇伊藤忠総研産業調査センター主任研究員 趙瑋琳