シャープ救済、佳境へ。主力2行が債権放棄する案浮上
産業革新機構の支援と引き換えに
官民ファンドの産業革新機構が、シャープへの支援と引き換えに、みずほ銀行と三菱東京UFJ銀行の主力2行による債権放棄を求めていることが分かった。打診に対し銀行側は反発しいるという。
シャープの救済は不振の液晶事業を切り離し、ジャパンディスプレイと連携させる方向で固まりつつあるようだ。台湾・鴻海精密工業もシャープの液晶事業の買収に乗り出しているが、かなり早い段階で政府は「日の丸」の枠組みを想定していた。一方、革新機構がシャープ本体に出資し経営再建に乗り出す案も一部にある。
日本の中小型液晶パネルメーカー2社を巡る優勝劣敗が鮮明になってきた。ジャパンディスプレイ(JDI)は2015年4―9月期連結決算で営業黒字化した一方、シャープの液晶事業は営業赤字に転落した。JDIは、高付加価値技術を武器に中国スマートフォンメーカーへの販売拡大に成功。また、収益改善の取り組みも成果が出始めた。2社の競争力の差が広がる中、JDIによるシャープ救済という筋書きが現実化する可能性が高まっている。
両社の明暗を分けた要因は大きく二つある。一つは中国メーカーとの取引だ。中国スマホ市場は成長鈍化が鮮明になり価格下落が進む。一方、高機能モデルの比率は上がり、同分野のビジネスチャンスは広がっている。
この変化に対応したのがJDI。15年4―9月の中国メーカー向けの売上高は前年同期と比べ2倍ほど増え、本間充会長兼最高経営責任者(CEO)は「市場が落ち込んでいる感覚はない」と話す。一方のシャープは需要増を取り込めず、「販売減と競争激化による価格下落」(高橋興三社長)に見舞われた。
JDIの強さのカギは「インセルタッチ」と呼ぶ技術だ。液晶パネルにタッチパネル機能を組み込むもので、薄型化や製造コスト抑制につながる。この付加価値技術で「価格下落の影響から距離を置けた」(有賀修二JDI社長)と説明する。
シャープも同技術の展開を夏前に始めたが、関連部品の不良で出荷まで時間がかかったほか、「JDIの技術と比べ工程が一つ多く、コストで勝てなかった」(装置メーカー幹部)。
明暗を分けた二つ目の要因は米アップルとの取引だ。JDIは「iPhone(アイフォーン)」の受注を伸ばしたが、シャープは設備投資ができず、画面の大きいアイフォーン6プラスの受注を逃した。
1年前の14年4―9月期決算では立場が逆でシャープが「明」、JDIが「暗」だった。ただ、その理由はもともとシャープと取引関係が深かった中国新興メーカーのシャオミが急成長したためで、シャープの好調は「”勝ち馬“に乗ったラッキーな要素も多い」(調査会社アナリスト)という。
JDIは課題である収益力向上のため、本間会長の肝いりで経営改革を進めている。同社幹部が「相当プレッシャーをかけられている」と悲鳴を上げるほど徹底しており、15年7―9月期の限界利益率が前四半期に比べ3%改善するなど成果が表れてきた。危機が続くシャープを尻目に、JDIは技術、設備投資、収益力の地力を高めており液晶業界のリーダーとしての存在感を高めている。
「そんな資金はない」―。9日のJDIの決算会見。シャープとの連携に自ら動く考えがあるのかを問われ、本間会長はこう答えた。シャープの経営再建を巡り液晶事業を切り出し、他社からの出資を受け入れる案が浮上している。水面下ではJDIの大株主である政府系ファンドの産業革新機構が、提携候補にJDIを挙げて交渉を進めている。
本間会長は「そういう話があれば日本の液晶産業を守る観点から拒否はしない」と語る。シャープには台湾の鴻海精密工業も関心を示しており、「シャープの技術が第三国に流れると脅威になる」(本間会長)と防衛的な意味合いでも前向きな姿勢を示す。
ただJDIと連携する場合、「相当規模でシャープの在庫や設備を処分しないと無駄がでる」(業界関係者)との声も。またJDIの経営改革は緒に就いたばかり。シャープという”雑音“に邪魔されず、「今やるべきことに集中したい」(JDI中堅社員)といった本音も聞こえる。
本間会長は「産革機構に同調していく」と話す。お金の出し手はどう動くのか。産革機構の一挙手一投足に注目が集まる。
(文=後藤信之)
シャープの救済は不振の液晶事業を切り離し、ジャパンディスプレイと連携させる方向で固まりつつあるようだ。台湾・鴻海精密工業もシャープの液晶事業の買収に乗り出しているが、かなり早い段階で政府は「日の丸」の枠組みを想定していた。一方、革新機構がシャープ本体に出資し経営再建に乗り出す案も一部にある。
JDI、シャープ業績明暗くっきり
日本の中小型液晶パネルメーカー2社を巡る優勝劣敗が鮮明になってきた。ジャパンディスプレイ(JDI)は2015年4―9月期連結決算で営業黒字化した一方、シャープの液晶事業は営業赤字に転落した。JDIは、高付加価値技術を武器に中国スマートフォンメーカーへの販売拡大に成功。また、収益改善の取り組みも成果が出始めた。2社の競争力の差が広がる中、JDIによるシャープ救済という筋書きが現実化する可能性が高まっている。
中国スマホメーカーとの取り引きでシャープ苦しむ
両社の明暗を分けた要因は大きく二つある。一つは中国メーカーとの取引だ。中国スマホ市場は成長鈍化が鮮明になり価格下落が進む。一方、高機能モデルの比率は上がり、同分野のビジネスチャンスは広がっている。
この変化に対応したのがJDI。15年4―9月の中国メーカー向けの売上高は前年同期と比べ2倍ほど増え、本間充会長兼最高経営責任者(CEO)は「市場が落ち込んでいる感覚はない」と話す。一方のシャープは需要増を取り込めず、「販売減と競争激化による価格下落」(高橋興三社長)に見舞われた。
JDIの強さのカギは「インセルタッチ」と呼ぶ技術だ。液晶パネルにタッチパネル機能を組み込むもので、薄型化や製造コスト抑制につながる。この付加価値技術で「価格下落の影響から距離を置けた」(有賀修二JDI社長)と説明する。
シャープも同技術の展開を夏前に始めたが、関連部品の不良で出荷まで時間がかかったほか、「JDIの技術と比べ工程が一つ多く、コストで勝てなかった」(装置メーカー幹部)。
明暗を分けた二つ目の要因は米アップルとの取引だ。JDIは「iPhone(アイフォーン)」の受注を伸ばしたが、シャープは設備投資ができず、画面の大きいアイフォーン6プラスの受注を逃した。
1年前の14年4―9月期決算では立場が逆でシャープが「明」、JDIが「暗」だった。ただ、その理由はもともとシャープと取引関係が深かった中国新興メーカーのシャオミが急成長したためで、シャープの好調は「”勝ち馬“に乗ったラッキーな要素も多い」(調査会社アナリスト)という。
JDIは課題である収益力向上のため、本間会長の肝いりで経営改革を進めている。同社幹部が「相当プレッシャーをかけられている」と悲鳴を上げるほど徹底しており、15年7―9月期の限界利益率が前四半期に比べ3%改善するなど成果が表れてきた。危機が続くシャープを尻目に、JDIは技術、設備投資、収益力の地力を高めており液晶業界のリーダーとしての存在感を高めている。
産業革新機構の判断は?
「そんな資金はない」―。9日のJDIの決算会見。シャープとの連携に自ら動く考えがあるのかを問われ、本間会長はこう答えた。シャープの経営再建を巡り液晶事業を切り出し、他社からの出資を受け入れる案が浮上している。水面下ではJDIの大株主である政府系ファンドの産業革新機構が、提携候補にJDIを挙げて交渉を進めている。
本間会長は「そういう話があれば日本の液晶産業を守る観点から拒否はしない」と語る。シャープには台湾の鴻海精密工業も関心を示しており、「シャープの技術が第三国に流れると脅威になる」(本間会長)と防衛的な意味合いでも前向きな姿勢を示す。
ただJDIと連携する場合、「相当規模でシャープの在庫や設備を処分しないと無駄がでる」(業界関係者)との声も。またJDIの経営改革は緒に就いたばかり。シャープという”雑音“に邪魔されず、「今やるべきことに集中したい」(JDI中堅社員)といった本音も聞こえる。
本間会長は「産革機構に同調していく」と話す。お金の出し手はどう動くのか。産革機構の一挙手一投足に注目が集まる。
(文=後藤信之)
日刊工業新聞2015年11月11日付の記事に加筆