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最高益トヨタ、“投資の行く先”産業界が注目

賃上げから人工知能まで
最高益トヨタ、“投資の行く先”産業界が注目

安倍政権からも頼りにされる豊田章男社長

 トヨタ自動車の好業績が続いている。2015年4−9月期は国内やアジアなどで販売を減らしたものの、得意とする原価低減努力もあって売上高と全利益段階で過去最高を記録。16年3月期も同様に過去最高の業績となる見通しだ。年間2兆2500億円もの純利益をあげる超・巨大企業では、「もうけすぎ」論議がいつ巻き起こってもおかしくない。稼いだカネをトヨタがどう使うかは、政治と経済に大きな影響を及ぼす。

 トヨタが好決算を発表した日、安倍晋三首相は産業界首脳と官民対話の会合を開き、来春闘での賃上げを依頼した。トヨタの豊田章男社長は「引き続き努力する」としつつも「取り組みは限界を迎えつつあり、中小企業のバックアップをお願いする」と答えたという。

 安倍政権が9月に発表した経済施策「新3本の矢」が迫力に欠ける中で、産業界を頼って賃金上昇と個人消費拡大を狙う方法が3年連続で通用するのか。アベノミクスの手詰まり感は強い。

 一方で、トヨタの努力は確かに感じられる。2年連続でベースアップに応じて賃上げ相場を形成。政権の期待に応えた。研究開発費、設備投資とも2年連続で1兆円を超えており、特に研究開発費は過去最高水準だ。

 成果も目に見えてきた。代表例が世界初の量産販売にこぎ着けた燃料電池自動車「ミライ」。今年の東京モーターショーでは、完成車メーカーよりも部品メーカーのブースが印象に残った。愛知県の部品大手を中心に、ミライや、ハイブリッド車(HV)「プリウス」の新型車に部品が採用されたとアピールする展示が目立った。

 部品メーカーを巻き込んで技術革新を積み重ね、その領域を広げていくことこそトヨタに求められる成長策の王道だろう。自動車産業を支える産業領域は、従来の機械や鉄鋼といった業界から電機・電子、ソフトウエアへと広がりつつある。トヨタが米シリコンバレーに人工知能の研究拠点をつくり、5年間で10億ドルを投資するのもその現れだ。トヨタの投資は、常に産業界が注目していることを忘れないでもらいたい。
日刊工業新聞2015年11月10日4面「社説」より
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
上場企業の手元資金が2014年度末に100兆円を超え、トップのトヨタは約5兆2000億円。賃上げも実施し増配と自社株買いで約1兆円を株主に還元した。自動車産業はこの100年間、単一製品(車種や最近は環境車のバリエーションはあるが)ということもあり、比較的わかりやすいビジネスモデルだった。技術では燃費開発競争、設備投資や工場新設は、為替や各国の経済発展をみながら新設し、部品の現地調達率を段階的に引きあげていく。モデルチェンジは4ー5年に1回。販売奨励金でディーラーとの関係を調整する、などなど。研究開発も基本的に自動車に関連するもの。ただしこれからは自動運転などの登場もあり、ビジネスモデルが大きく変わる。その意味で人工知能の新会社は大きなエポック。「お金の使い方」も従来の慣習の枠からはみ出し、多様性が出てくるだろう。

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