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工事も月額費用も不要のホームセキュリティ

文=尼口友厚(ネットコンシェルジェ CEO)「Butterfleye」はコミュニケーションにも使えるIoT
 昔、自宅マンションの1階にあった雑貨屋が夜中空き巣被害に遭い、朝起きたら玄関に立入禁止のテープが貼られていて腰を抜かしたことがある。

 空き巣なんてめったに起こるもんじゃないと気にかけたこともなかったが、この一件で急に怖くなり、ホームセキュリティの導入を考えたことがあった。

 しかし実際に話を聞いてみると、工事が必要、毎月の費用も安くない。ということで導入は断念した。ホームセキュリティの「導入が大変」「価格が高い」という問題は、その時からほとんど変わっていないように思える。

 この問題を解決しようとしているスタートアップが「Butterfleye」だ。http://www.getbutterfleye.com/
ただ防犯用途のみでなく、コミュニケーションにも使えるIoTだ。

 同製品は顔や学習型のパターン認識機能を備えており、家族やペット、風に吹かれて動いたカーテンなど不審でないもの、特に異常でないものは映さないアルゴリズムを採用。異常のみを確認しやすく、むだな通知や録画を抑えることができる。また通信機能も備えていて、いたずらしている犬を注意したり、家族間でコミュニケーションを取ることにも使えるのが特長だ。

 同製品はクラウドファンディングのIndiegogoで目標金額の10万ドル(約1200万円)と設定したところ、開始半日たらずで30万ドル(約3600万円)を超えるほどの人気ぶりを得、現在は60万ドル(約7200万円)以上集めている。初版6000台はすでに売り切れ、現在は来年5月発売分のオーダーを受けつけているところだ。

誰かのためになるようなものをテクノロジーを使ってつくりたい


 創業者はイランの首都テヘラン出身のBen Nader(以下ネーダー)氏。小さなころからテクノロジー好きで、父親との思い出は「LEDライトをつないで遊べるキットを買ってもらったこと」。またおもちゃのモーターやライトなどをいじって遊んでいたという。

 そんなネーダー氏は早くに父親を亡くし、高校1年生のときに米国オレゴン州ポートランドに移住することになった。当時は英語もあまり話せなかったため、学校にあまりなじめなかったが、その分英語や数学、科学などの勉強に深く打ち込んだ。そのおかげで多くのことを学ぶことができ、「これで米国で夢を追うことができる」と思えるようになったそうだ。

 その後オレゴン州立大学に入学し、このときIntelでのインターンを1年経験。周りの友達はみな4年で卒業するところ、5年かかってしまうのは不安ではあったが、ただ理論を学ぶのでなく、実際にエンジニアや数学を応用する世界を知ることができた。卒業後は半導体メーカー大手のMaximやTexas Instrumentsのプロジェクトマネージャーとなり、世界中を渡り歩いた。

 こうして実践的な知識を深めていったネーダー氏だったが、とあるきっかけからホームセキュリティシステムに対する不満を持ち、自ら新しい製品をつくることになった。

 発端は30歳の時のこと、自宅に泥棒が入り、高価な自転車を盗まれるという事件があった。そこでホームセキュリティシステムを買ってセットすることにしたが、この作業が大変で、カメラやセンサーに詳しい同氏でさえ、セットアップに3日もの時間を要した。

 ドリルで穴を開けてワイヤーをつなげ、ルーターのセッティングに追われる作業にうんざりしたネーダー氏は、もっと簡単な手間でできる製品にすべきだと考えた。

 念のため、周りの人たちにも話を聞いていると、毎月お金を支払ってホームセキュリティサービスを利用している人はほとんどいなかったが、わずかに見つかった「自分は使っている」という友達も、アラームをセットするのが煩わしいんだ、と手間の煩雑さに対する不満を持っているようだった。

 これらのことから、ホームセキュリティに対して新しい商品を作る余地はある、と考えたネーダー氏は、試行錯誤のうえ、より簡単に扱えるホームセキュリティカメラ「Butterfleye」を開発することになったのである。

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
まずはハードの販売で売り上げを立てるのだろうが、いずれサービス化へマネタイズをふるのだろうか。日本の家電メーカーもこの手のスマートハウス機器は多くだしているが、いかんせんいろいろ家中とか「つなげよう」とし過ぎている。シンプルな発想が突破口になった一例。

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