グッドデザイン大賞受賞!パーソナルモビリティ「WHILL」―ネガティブを超越する
グッドデザイン賞受賞作1,337点の中から決定
日本デザイン振興会は、グッドデザイン賞の2015年度グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)にWHILLのパーソナルモビリティ「WHILL Model A」を選定した。デザインで社会問題を解決しようという志、小さいチームが独自の技術で量産に成功した経緯、などが評価された。
2015 年度のグッドデザイン賞受賞作1,337点の中から、大賞候補8点を選出。審査委員、グッドデザイン賞受賞者、受賞展「グッドデザインエキシビション 2015」来場者による投票を実施し、最多得票数を得た同作品が大賞を受賞した。
車いすのイメージ変える/移動を楽しくスマートに
足の不自由な人にとっては欠かせない移動手段である車いす。世界的に高齢化社会がキーワードとなり、利用者は増加傾向にある。車いすをもっと機能的でカッコよく、使うのにハードルを感じさせないものにできないか―。高齢化社会の先端を走る日本で生まれたWHILL(ウィル)は、そんなテーマに取り組んでいる。きちんと製品にして届けることにこだわるCEOの杉江理を突き動かすのは、実際のユーザーの存在と「ポジティブはネガティブを超越する」という独自理論だ。
**「100メートル先のコンビニに行くのもあきらめる」
もともと日産自動車のデザイナーだった杉江。エンジニア仲間と集まる中で、メンバーから途上国向け車いすのアイデアが出たのがプロジェクトの始まり。事業性を模索する過程で、よりビジネスとして成立する可能性の高い先進国を対象に切り替えた。ある車いすユーザーの「100メートル先のコンビニに行くのもあきらめる」というひと言が、開発コンセプトにつながったのは有名なエピソードだ。
**「そういうのは、もういいかなって」
WHILLの名が注目されたきっかけになったのが、2011年の東京モーターショー。革新的なモデルに対する大きな反響は、製品化を進める後押しとなった。その一方でモーターショーでは、「忘れられない」言葉も聞いた。
「『やめれば』と言う人もいた」。モノづくり系ベンチャーは製品化までの費用が膨大で、プロトタイプでプロジェクトが終わってしまうことも多い。大企業でも知財を確保しても、世に出ない製品が大多数だ。日産自動車のデザイナーとして3年間働いた経験から、その意見には納得もした。ただ、杉江は「そういうのは、もういいかなって」歩みは止めなかった。むしろ負けず嫌いの心に火がついた。
杉江には確信に近い仮説がある。「ポジティブはネガティブを超える」理論だ。「例えば僕らが小学生だったころは、メガネかけてる子はからかわれる対象だった。なぜかというと“メガネ=ダサい”というイメージだったから。でも今は伊達メガネってカッコいいし、ポジティブな存在になっている」。グーグルグラスのような「さらにポジティブを飛び越したプロダクト」も出てきた。
**10年後に実現
世の中のすべてのものに、この法則が当てはまるというのが杉江の持論だ。現在の車いすもネガティブなイメージを持たれることもある。WHILLは今、そのイメージを変える途上にある。健常者が1日中乗るものでなくても、遊園地のような場所にあれば乗ってみたくなる。そんな存在が目標だ。「これが超えるということ。僕はここまでやりたい」。10年、15年後にはインフラやソフトウエア環境が変わり、実現できると確信している。
杉江が大切にするのが思いを共有するメンバーだ。その一人で最初に車いすのアイデアを出し、開発を担当する内藤淳平は杉江を「直感力に優れる」と評価する。この直感を同じ理想を持つメンバーと共に形にする。最高の環境は整った。
9月3日。東京・日本橋の三越本店で、投資家らを集めて初の製品「WHILLモデルA」の発表会を開いた。日米で販売を始めたその製品に自ら乗り込み、身ぶり手ぶりで走破性の高さや操作のしやすさ、デザインの特徴を熱く語る。メーカーとしての第一歩を踏み出した。ただ「3年後くらいには『車いすの会社』とは言われなくなるんじゃないかな」。キーワードはモビリティー。“全ての人の移動を楽しくスマートに”という信念がある。杉江の目には“今を超えた”世界が見えている。(敬称略)
(文=政年佐貴恵)
2015 年度のグッドデザイン賞受賞作1,337点の中から、大賞候補8点を選出。審査委員、グッドデザイン賞受賞者、受賞展「グッドデザインエキシビション 2015」来場者による投票を実施し、最多得票数を得た同作品が大賞を受賞した。
次世代ビジネス【社会的課題解決】WHILL・杉江理CEO
車いすのイメージ変える/移動を楽しくスマートに
足の不自由な人にとっては欠かせない移動手段である車いす。世界的に高齢化社会がキーワードとなり、利用者は増加傾向にある。車いすをもっと機能的でカッコよく、使うのにハードルを感じさせないものにできないか―。高齢化社会の先端を走る日本で生まれたWHILL(ウィル)は、そんなテーマに取り組んでいる。きちんと製品にして届けることにこだわるCEOの杉江理を突き動かすのは、実際のユーザーの存在と「ポジティブはネガティブを超越する」という独自理論だ。
**「100メートル先のコンビニに行くのもあきらめる」
もともと日産自動車のデザイナーだった杉江。エンジニア仲間と集まる中で、メンバーから途上国向け車いすのアイデアが出たのがプロジェクトの始まり。事業性を模索する過程で、よりビジネスとして成立する可能性の高い先進国を対象に切り替えた。ある車いすユーザーの「100メートル先のコンビニに行くのもあきらめる」というひと言が、開発コンセプトにつながったのは有名なエピソードだ。
**「そういうのは、もういいかなって」
WHILLの名が注目されたきっかけになったのが、2011年の東京モーターショー。革新的なモデルに対する大きな反響は、製品化を進める後押しとなった。その一方でモーターショーでは、「忘れられない」言葉も聞いた。
「『やめれば』と言う人もいた」。モノづくり系ベンチャーは製品化までの費用が膨大で、プロトタイプでプロジェクトが終わってしまうことも多い。大企業でも知財を確保しても、世に出ない製品が大多数だ。日産自動車のデザイナーとして3年間働いた経験から、その意見には納得もした。ただ、杉江は「そういうのは、もういいかなって」歩みは止めなかった。むしろ負けず嫌いの心に火がついた。
杉江には確信に近い仮説がある。「ポジティブはネガティブを超える」理論だ。「例えば僕らが小学生だったころは、メガネかけてる子はからかわれる対象だった。なぜかというと“メガネ=ダサい”というイメージだったから。でも今は伊達メガネってカッコいいし、ポジティブな存在になっている」。グーグルグラスのような「さらにポジティブを飛び越したプロダクト」も出てきた。
**10年後に実現
世の中のすべてのものに、この法則が当てはまるというのが杉江の持論だ。現在の車いすもネガティブなイメージを持たれることもある。WHILLは今、そのイメージを変える途上にある。健常者が1日中乗るものでなくても、遊園地のような場所にあれば乗ってみたくなる。そんな存在が目標だ。「これが超えるということ。僕はここまでやりたい」。10年、15年後にはインフラやソフトウエア環境が変わり、実現できると確信している。
杉江が大切にするのが思いを共有するメンバーだ。その一人で最初に車いすのアイデアを出し、開発を担当する内藤淳平は杉江を「直感力に優れる」と評価する。この直感を同じ理想を持つメンバーと共に形にする。最高の環境は整った。
9月3日。東京・日本橋の三越本店で、投資家らを集めて初の製品「WHILLモデルA」の発表会を開いた。日米で販売を始めたその製品に自ら乗り込み、身ぶり手ぶりで走破性の高さや操作のしやすさ、デザインの特徴を熱く語る。メーカーとしての第一歩を踏み出した。ただ「3年後くらいには『車いすの会社』とは言われなくなるんじゃないかな」。キーワードはモビリティー。“全ての人の移動を楽しくスマートに”という信念がある。杉江の目には“今を超えた”世界が見えている。(敬称略)
(文=政年佐貴恵)
日刊工業新聞2014年09月15日 モノづくり面に冒頭加筆