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創業時から“ゆかり”のあるGEとアルストムが目指す発電の「再定義」

買収手続き完了。「エネルギー業界最高水準の包括的なテクノロジーとサービスを提供する」(イメルトGE会長)
創業時から“ゆかり”のあるGEとアルストムが目指す発電の「再定義」

アルストム製タービン「Haliade(アリアッド)」(画像:GEパワー&ウォーター)

 米ゼネラル・エレクトリック(GE)は11月2日、フランス企業 アルストム(Alstom)の発電・送配電事業の買収を完了した。インダストリアル事業としてはGE史上最大となったこの買収は、実は深世紀を越えたい”ゆかり”のある2つの企業の結婚でもある。

 アルストム(Alstomという綴りは、当初はAlsthomだった)という社名が、2社の結びつきをはっきりと示している。アルストムは、Société Alsacienne de Constructions Mécaniquesの「Als」と、GEの前身のひとつでもあるトムソン・ヒューストン・エレクトリック・カンパニーの当時の愛称「thom」を組み合わせたものなのだ。

 Société Alsacienne de Constructions Mécaniqueとトムソン・ヒューストン・エレクトリック・カンパニーは1928年に合併した。そして、その親会社でもあったトムソン・ヒューストン・カンパニーは1892年にエジソン・ゼネラル・エレクトリック・カンパニーと合併し、それがGE誕生になった。

 アルストムとGEは今なお多くの絆で結ばれている。フランスのベルフォール市では、アルストムパワーとGEの工場が隣り合って並んでおり、カフェテリアを共有しているほどだ。

発電機器資産でビッグデータ解析がさらに進化


 GEは世界最大のデジタル・インダストリアル・カンパニーへと進化しようとしている。アルストムのグローバルな発電・送配電事業実績と併せることで、より大規模なインストール・ベース(すでに設置された発電機器資産)に基づくビッグデータ解析ができるようになり、予期せぬダウンタイムを減らしたり、タービンや発電所、風力発電施設、送配電のパフォーマンスを向上させることができる。

 GEのジェフ・イメルト会長兼最高経営責任差(CEO)は「アルストムの発電・送配電事業の買収完了は、GEが進化するうえで大変重要なステップ。補完技術、グローバルな対応力、インストール・ベース、そしてアルストムの発電・水事業に携わる人材が、当社のコア事業であるインダストリアル事業の成長を加速させる。新体制での事業を始動し、お客さまのためにエネルギー業界最高水準の包括的なテクノロジーとサービスを提供する準備が整った」と話す。

非OECD諸国に強力なプレゼンスを持つ


 いま、安定した電力を利用できていない人は、世界で約13億人にのぼる。国際エネルギー機関(IEA)の「2014World Energy Outlook」では、新たな電力ニーズへの対応や古い発電設備の刷新のために、世界は2040年までに約7,200ギガワット(GW)増加する必要があると試算している。こうした電力需要の3分の2は中国をはじめとする非OECD諸国によるものだが、アルストムはこれらの国で強力なプレゼンスを築いてきた。

 今回の買収を通じて、GEのインストール・ベースの発電能力は約1,800 GWに拡大した。これは全米の供給量を十二分に賄える規模だ。

 この買収により、GEは発電所の設計をより良いものにしたり、送配電事業を飛躍的に拡大させることも可能になる。アルストムを迎え、GEはいま世界中の送配電事業拠点と、グローバルな競争を可能にするスケールを得た。

 例えば、アルストムはブラジルにある世界最長の送電システム「Linhão do Madeira」に設備供給してきた。その送電距離はアマゾニア地域に位置するロンドーニア州から南東部のサンパウロ州まで、2,380 kmにわたり、5千本の鉄塔に張り巡らされた架空送電ケーブルは2万kmにもおよぶ。

洋上風力でシーメンスの真のライバル誕生


 この買収は、広範で専門的な再生可能エネルギーの製品ポートフォリオ獲得でもある。GEは陸上風力発電のリーダーだが、それを洋上へと拡げることも可能になる。今回、巨大な風力タービン「アリアッド」事業を買収したが、このタービンは洋上風力発電としては米国初となるロードアイランド州のブロック島沖の洋上発電所を支えることになる。

 洋上風力発電を支援している米プライベートエクイティ企業、D.E.ショウ・アンド・カンパニーの代表であるBryan Martin氏は「アルストムの風力タービンとGEの発電技術が一体化すれば、風力発電の勢力図は一変する」として、「GEとアルストムの提携によって、欧州の洋上風力発電市場を独占してきたシーメンスにとっての初の"真のライバル"が誕生した」と語る。

 また、GEストア(事業間を跨いだ専門知識や技術の共有を通じて、知識や発明がGEのさまざまな産業分野のイノベーションや応用力を推進するというコンセプト)もこの事業統合のメリットを享受できるだろう。GEは買収による相乗効果として、今後5年間で30億ドルのコスト削減を見込んでいる。

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
こういう物語を聞くと、アルストム買収で日本勢の勝ち目が最初からなかった感じもするし、グローバルM&Aで欧米勢がいろいろ企業ルーツにつながりのあるのに比べ、日本はかなり不利である。

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