どう動く郵政グループ金融2社。「地銀・生保再編」の引き金に!?
ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険 両社長インタビュー
「3年、長くても5年」。日本郵政の西室泰三社長は金融2社の持ち株比率を早期に5割まで減らす考えだ。社長就任から2年で異例の3社同時上場に踏み切ったのは、手足を縛られたままのゆうちょ銀行とかんぽ生命保険を早く自由にするためだ。
日本郵政の利益の大半を稼ぎ出す金融2社の上場が遅れれば、金融庁の規制を受けたまま。そればかりか2社の株式売却で得られる自社株買いの資金が調達できず、東日本大震災復興のための国庫収入も目減りしかねない。
ゆうちょ銀とかんぽ生命は運用資金の大半は日本国債。しかし、低金利下では国債の利回りが悪化し、逆に金利が上がると国債価格が下がり含み損が大量発生する。
西室社長は、ゆうちょ銀社長にシティバンク銀行会長だった長門正貢氏を起用。運用部門責任者に元ゴールドマン・サックス証券副会長の佐護勝紀氏をスカウトした。
地銀や信金などとの共同投資ファンド設立も視野に入れる。かんぽ生命も国債を減らし、国内株式の組み入れを増やしつつある。巨大な機関投資家の上場は市場活性化だけでなく、地銀、生保再編も加速させるだろう。
―上場への抱負は。
「8年前の民営化で港を出たが、まだ東京湾の中で航海していた。いよいよ太平洋の大海原に出ていく。大嵐の日もあるだろうが、強い船として航行を続けたい。金融市場の深掘りと、郵便局2万4000局のネットワークを使って貢献する二つを柱に展開する」
―収益力向上のため、200兆円規模ある資産運用の強化が求められています。
「以前は主に国債で運用していたが、金利低下でスプレッド(利ザヤ)が取れなくなってきた。今後は株式やクレジット商品なども取っていく。また、プライベート・エクイティ・ファンドなどオルタナティブ投資にも対象を広げていきたい。こうしたサテライト運用(積極運用)を3月末の48兆円から、中期経営計画で17年度末に60兆円にするとしている」
―上場後、郵便局ネットワークとの関係に変化はありますか。
「自前店舗を増やすことは考えていない。貯金の約9割を郵便局窓口で集めている。従来通り、現有の自前店舗と郵便局2万4000局を使い、有機的に連携するのが効率的な経営だ。この関係は揺るがない。ここでレゾンデートル(存在価値)を示さなければ、国家に貢献できないと考える」
―地域金融機関との協調が期待されます。
「これはすごく大事で、ぜひやりたい。例えば地銀と提携し、彼らの顧客に私たちの現金自動預払機(ATM)を利用してもらっている。さらに拡大できるのではないだろうか。地域金融機関と組んで、地方創生ファンド設立も模索したい」
(聞き手=湯原美登里)
―上場後の基本戦略をどう描きますか。
「簡易で小口な商品を、郵便局を通じて高齢者を中心に展開するモデルは変わらない。団塊の世代が高齢化に向かうため、国内で成長できる余地は十分ある。大手生保とレッドオーシャンで競合することは考えていない」
―上場後、日本郵政との関係は。
「日本郵便のユニバーサルサービスを果たすパートナーは、かんぽ生命保険しかいない。当社の売り上げの約90%が全国約2万4000局の郵便局チャネル。上場後もこの関係が基軸となる」
―商品戦略はどう展開していきますか。
「国の医療保障制度が課題を抱える中、当社の医療特約は成長市場として期待できる。非喫煙であれば保険料を割引くといったリスク細分型商品など、個人のスタイルにあった医療特約を開発する」
―保有契約の反転に向けた戦略は。
「約3350万件の保有契約のうち200万―350万件が毎年更改を迎えている。現在は約3分の1しか継続できていない。今年から契約者を全戸訪問し継続率を10%高めるだけで25万―30万件維持できる。まずはここをしっかりやりたい」
―加入限度額の引き上げについては。
「当社の平均保険金額は約300万円。高齢者が中心なので大型の死亡保障は必要とされていない。大型の保障商品には引き受け審査やシステムの問題も出てくる。ただ、将来的には自由度が広がるので環境的にはありがたい」
(聞き手=杉浦武士)
ニッセイ基礎研究所専務理事・櫨(はじ)浩一氏「金融機関との差別化カギ」
上場したことで今後は企業として成長性が問われる。政府の保有株式が残る中、暗黙の政府保証を活用することは望ましくない。既存の金融機関といかに差別化を図るかが成長戦略の肝となる。
日本郵政であれば、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の金融2社の株式売却を進めた場合、この2社で大半を稼いでいた利益を今後、いかに確保するのかが問われるだろう。
ユニバーサルサービスとのバランスも課題だ。地方で過疎化が進んできた場合、公共性をどこまで維持していくのか、整理が必要になるだろう。政府の保有株の売却もカギを握る。株の売却は急ぎすぎても遅すぎてもいけない。粛々と進めていくことが重要となる。
野村証券エクイティ・マーケット・ストラテジスト・伊藤高志氏「大型上場、相場の起爆剤」
日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の3社は上場に関し、「経営上の縛りが多い」「(資金使途などの)エクイティストーリーがない」とさんざん言われてきた。ただ売り出し価格が発表されると投資家の意識が一変。株価純資産倍率(PBR)が1を切るなど、類似業種と比べた割安感が評価されるようになった。上場後すぐに初値がついたのもそのためだ。
3社上場で市場には約1兆4000億円のニューマネーが入ったほか、郵政関連株を買った多くの個人投資家がキャピタルゲインを得、含み益を抱えた。87年のNTT上場もそうだが、大型民営化上場は相場の起爆剤となる。郵政上場で得た利益が市場に再投入されれば、一層の株価上昇につながるだろう。
日本郵政の利益の大半を稼ぎ出す金融2社の上場が遅れれば、金融庁の規制を受けたまま。そればかりか2社の株式売却で得られる自社株買いの資金が調達できず、東日本大震災復興のための国庫収入も目減りしかねない。
ゆうちょ銀とかんぽ生命は運用資金の大半は日本国債。しかし、低金利下では国債の利回りが悪化し、逆に金利が上がると国債価格が下がり含み損が大量発生する。
西室社長は、ゆうちょ銀社長にシティバンク銀行会長だった長門正貢氏を起用。運用部門責任者に元ゴールドマン・サックス証券副会長の佐護勝紀氏をスカウトした。
地銀や信金などとの共同投資ファンド設立も視野に入れる。かんぽ生命も国債を減らし、国内株式の組み入れを増やしつつある。巨大な機関投資家の上場は市場活性化だけでなく、地銀、生保再編も加速させるだろう。
ゆうちょ銀行 長門正貢社長「ファンドなど運用多様化」
―上場への抱負は。
「8年前の民営化で港を出たが、まだ東京湾の中で航海していた。いよいよ太平洋の大海原に出ていく。大嵐の日もあるだろうが、強い船として航行を続けたい。金融市場の深掘りと、郵便局2万4000局のネットワークを使って貢献する二つを柱に展開する」
―収益力向上のため、200兆円規模ある資産運用の強化が求められています。
「以前は主に国債で運用していたが、金利低下でスプレッド(利ザヤ)が取れなくなってきた。今後は株式やクレジット商品なども取っていく。また、プライベート・エクイティ・ファンドなどオルタナティブ投資にも対象を広げていきたい。こうしたサテライト運用(積極運用)を3月末の48兆円から、中期経営計画で17年度末に60兆円にするとしている」
―上場後、郵便局ネットワークとの関係に変化はありますか。
「自前店舗を増やすことは考えていない。貯金の約9割を郵便局窓口で集めている。従来通り、現有の自前店舗と郵便局2万4000局を使い、有機的に連携するのが効率的な経営だ。この関係は揺るがない。ここでレゾンデートル(存在価値)を示さなければ、国家に貢献できないと考える」
―地域金融機関との協調が期待されます。
「これはすごく大事で、ぜひやりたい。例えば地銀と提携し、彼らの顧客に私たちの現金自動預払機(ATM)を利用してもらっている。さらに拡大できるのではないだろうか。地域金融機関と組んで、地方創生ファンド設立も模索したい」
(聞き手=湯原美登里)
かんぽ生命保険 石井雅実社長「高齢者中心、変わらず」
―上場後の基本戦略をどう描きますか。
「簡易で小口な商品を、郵便局を通じて高齢者を中心に展開するモデルは変わらない。団塊の世代が高齢化に向かうため、国内で成長できる余地は十分ある。大手生保とレッドオーシャンで競合することは考えていない」
―上場後、日本郵政との関係は。
「日本郵便のユニバーサルサービスを果たすパートナーは、かんぽ生命保険しかいない。当社の売り上げの約90%が全国約2万4000局の郵便局チャネル。上場後もこの関係が基軸となる」
―商品戦略はどう展開していきますか。
「国の医療保障制度が課題を抱える中、当社の医療特約は成長市場として期待できる。非喫煙であれば保険料を割引くといったリスク細分型商品など、個人のスタイルにあった医療特約を開発する」
―保有契約の反転に向けた戦略は。
「約3350万件の保有契約のうち200万―350万件が毎年更改を迎えている。現在は約3分の1しか継続できていない。今年から契約者を全戸訪問し継続率を10%高めるだけで25万―30万件維持できる。まずはここをしっかりやりたい」
―加入限度額の引き上げについては。
「当社の平均保険金額は約300万円。高齢者が中心なので大型の死亡保障は必要とされていない。大型の保障商品には引き受け審査やシステムの問題も出てくる。ただ、将来的には自由度が広がるので環境的にはありがたい」
(聞き手=杉浦武士)
《専門家の見方》
ニッセイ基礎研究所専務理事・櫨(はじ)浩一氏「金融機関との差別化カギ」
上場したことで今後は企業として成長性が問われる。政府の保有株式が残る中、暗黙の政府保証を活用することは望ましくない。既存の金融機関といかに差別化を図るかが成長戦略の肝となる。
日本郵政であれば、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の金融2社の株式売却を進めた場合、この2社で大半を稼いでいた利益を今後、いかに確保するのかが問われるだろう。
ユニバーサルサービスとのバランスも課題だ。地方で過疎化が進んできた場合、公共性をどこまで維持していくのか、整理が必要になるだろう。政府の保有株の売却もカギを握る。株の売却は急ぎすぎても遅すぎてもいけない。粛々と進めていくことが重要となる。
野村証券エクイティ・マーケット・ストラテジスト・伊藤高志氏「大型上場、相場の起爆剤」
日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の3社は上場に関し、「経営上の縛りが多い」「(資金使途などの)エクイティストーリーがない」とさんざん言われてきた。ただ売り出し価格が発表されると投資家の意識が一変。株価純資産倍率(PBR)が1を切るなど、類似業種と比べた割安感が評価されるようになった。上場後すぐに初値がついたのもそのためだ。
3社上場で市場には約1兆4000億円のニューマネーが入ったほか、郵政関連株を買った多くの個人投資家がキャピタルゲインを得、含み益を抱えた。87年のNTT上場もそうだが、大型民営化上場は相場の起爆剤となる。郵政上場で得た利益が市場に再投入されれば、一層の株価上昇につながるだろう。
日刊工業新聞2015年11月05日2面/「深層断面」から一部抜粋