「小さく軽く精密に」。中小企業のオープンイノベーションが宇宙産業を加速させる

はやぶさ2にも生きる独自の技術力

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小惑星リュウグウから試料を持ち帰る「はやぶさ2」の技術には、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と企業とのオープンイノベーションが大きく寄与しており、独自の技術を生かした中小企業が参画し多大な貢献をしていた。中小企業にとってのオープンイノベーションのあり方について、JAXA宇宙科学研究所の久保田孝教授、明治大学法務研究科の高倉成男教授、東京都知的財産総合センターの織田好和所長に聞いた。

中小企業のオープンイノベーションの現状

織田:中小企業から東京都知的財産総合センターに寄せられる知的財産関連の相談は年間6000件超。最近は自社製品の開発を目指す中小企業からの、大企業や公的研究機関、大学との秘密保持契約や共同研究契約に関する相談も増えてきました。ただ大企業、公的研究機関とどのように付き合えばいいのか、理解は十分ではありません。今後、中小企業のオープンイノベーションが円滑に進んでいくように支援していかなければと考えています。

産学官連携によるウィン・ウィンの関係

久保田:宇宙の開発・探査では新しい技術が要求されます。企業等が持つ技術をいかに宇宙に活用するか、大学等の新しいアイデアなどをいかに取り入れるかが大きな課題です。JAXAでは新しい方式として、優れた技術を持つ企業や大学などの知見を生かした共同研究・開発のために、5年前、科学技術振興機構(JST)の支援で異分野の人材・知識を集める宇宙探査イノベーションハブをつくりました。さまざまな成果を挙げたので、JAXAの予算で引き続き進めています。優れた技術を持つ企業等を探すため、JAXAもこんな技術が欲しいという発信に努めています。企業は地上でビジネス展開し、JAXAはその技術を活用し宇宙で仕上げる。役割分担を明確にし、企業も入りやすくなってきました。そして、宇宙で使う技術を同時に地上にも展開して新しいビジネスをつくり出すウィン・ウィンの関係を目指しています。

JAXAと中小企業の連携・中小企業の宇宙事業への進出

久保田:情報提供をお願いして将来宇宙に使える技術を募集し、共同研究するやり方を行ったところ、数百社からの応募を得ることができ、少人数でも優れた技術を持つ中小企業にも参加いただきました。企業等から合計500以上の情報をもらい、5年間で大学・中小企業約100グループと共同研究して成果も出ています。今まで宇宙に関わってこなかった企業からのこんないい技術があるという情報提供は大変ありがたいことです。

宇宙探査では、新しい技術が必要になります。はやぶさ、はやぶさ2開発では試行錯誤してきました。例えば小惑星表面に穴を開けて内部の物質を取るためのインパクターをどうやって作るか。日本工機など何社かと一緒に研究しました。中小企業の良いところは、社長の一声で社内がまとまり、みんなが熱意を持ってやってくれるところです。はやぶさ2のチャレンジングなところには日本の中小企業の技術が生かされています。中小企業の技術力はすごいと実感しました。

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系教授 久保田 孝氏

宇宙では重量やコストが大きな課題です。そこで、小さくて細かいものに強いと言われる日本の技術が生かされます。探査ローバ「ミネルバⅡ」の開発でも中小企業が参加し、小さく、軽く、精密で高性能を実現することができました。例えば「ミネルバⅡ」にバッテリーを搭載することは重量制限のため難しかったのですが、電気二重層の技術を有する会社に助けられました。こうした技術は、将来の月、火星探査ロボットにも生きると思います。

大学・公的機関等のシーズの中小企業による活用

高倉:日本企業は古くから他国の技術などを取り入れ、良いものを安く作って世界で売るビジネスモデルを確立しています。その意味では、オープンイノベーションはずっと前からやっていました。この20年ぐらいで特に注目されるようになったのにはいくつかの背景があります。一つは技術革新、商品のライフサイクルが速くなり、それに追いつく研究開発が資金・人材的に大変で、単独で行うことが難しくなってきたこと。他社や大学、研究機関と協力することで新しい製品、技術を生み出すことができる状況になったということです。二つ目はJAXAのような国の研究機関でも、技術を外部に使ってもらったり、国の事業開発のために外部の技術を使ったり、積極的になってきています。三つ目は、それを仲介する方々やシステム、サービスが現れたこと。大学の技術を中小企業に、中小企業の技術をJAXAにつなぐ。私は東京都の知的財産総合センターもそういう役割を果たしていると思います。仲介役が現れ、オープンイノベーションが注目され、オープンイノベーションをしなければ新しいニーズに応えられない、という状況が出ています。新しい領域でライバル企業と競争するので、知的財産を取得するのは大切です。

織田:中小企業が公的研究機関や大学、大企業から技術シーズを提供してもらい、それを製品化するには壁があります。提供された技術だけで新しいものを作ることはできません。新たな開発や試作、研究などの要素が確実に入ってきます。契約なども含めた知財面でのサポートも必要です。これらの支援が十分でないため、製品化にたどり着けない中小企業が結構あるという気がします。中小企業がシーズを製品化できるまでを支援したいと考えています。

久保田:JAXAは共同研究に国の予算を使っているので、以前は成果の帰属をJAXAにする場合がほとんどでした。宇宙探査イノベーションハブを企業と始める際に、知財が中小企業に帰属しないことがビジネス上、ネックになることも分かってきました。そこで、発明したのが中小企業の方なら、特許は中小企業に帰属させることにしたところ、多くの方が参加してくださるようになりました。企業が積極的にアイデアを出してくれるようになったのは、知財の取扱いを変更したことが大きいと思います。JAXAは成果を使いたいだけで、商売するわけではありません。知財は中小企業が持ち、JAXAが必要な時に使わせてもらうやり方に大きく改革した点が、中小企業を巻き込めた理由だと思っています。

オープンイノベーションを生かした取り組みの実例

久保田:新しいビジネスの動きは速く、常に競争しています。企業とJAXAが共同開発をした時、技術を宇宙で使うことと、地上で使うことを同時に進める。さらに企業がビジネスを起こし、その製品の販売を加速させると、工場のラインもその技術も残ります。例えば、光電製作所のマリンレーダーは宇宙にはあまり関係ないと思っていました。同社とはJAXAが持つ半導体技術を取り入れて高精度かつ寿命を長くする開発を共同で行いました。はやぶさ2の回収カプセル探索には同社のマリンレーダーを用いることで、ビーコンが出なくてもカプセルを回収できるようになりました。共同開発の成果を地上でビジネス展開できるメリットは非常に多く、双方にメリットがあります。うまく仕掛けると日本のよい技術が宇宙分野だけでなく、医療などの様々な分野で生かされると思います。ぜひ中小企業に自社技術を有効活用して頂きたいと思います。

高倉:オープンイノベーションをやっていない企業を探すほうが難しいし、事例そのものはたくさんあります。ただ、多様なだけに、一般的な注意点とか成功例はなくて、何が問題か分からない状況で問題を見いだし、解決手段をその場でつくり出していく必要があります。私はオープンイノベーションの最大の効果は人材育成と思っています。その人たちが高い関心を持って、他社の方とコミュニケーションしながら、問題解決のために学習する。自分が新しく学びながら解決することの繰り返しだと思います。それで人材育成がなされている点は非常に大きいのです。

       明治大学法務研究科 教授 高倉 成男氏

織田:JAXAと共同開発をした社長さんが「宇宙ビジネス自体で利益が出なくても、そこで得た技術力は最新の技術でハイスペックになる。次の事業に必ず発展していく」と話していました。JAXAさんとの共同研究実績は、企業価値の向上や今後の事業展開に向けた新たな技術を得られるメリットも大きいかと思います。

東京都知的財産総合センター 所長 織田 好和氏

オープンイノベーションを活用する上での留意点

高倉:オープンイノベーションには大きく二つあります。一つは外の技術を自社に取り入れるアウトサイドイン、二つ目は自分が持つ技術、ノウハウ、製品を委託主に提供して一緒にいいものを作るインサイドアウト。アウトサイドイン、特に大学や国研などと共同研究しながら商業化する際、中小企業が気をつけた方がよいのは、共同研究はできれば上流から参加した方がいいということです。大学や国の研究所から生まれた技術は既に特許になっています。一番川下で連携するだけでは、うまくいかない場合がある。なるべく上流から共同研究に参加して、人間関係を深めておくことも必要でしょう。

人材の流出も無視できません。中小企業にとって貴重な人材がいなくなるのは損失です。自社のために活躍してもらう、新分野への進出に取り組んでもらうような魅力ある会社でないと、有能な人材を抱えておけなくなります。利益配分はビジネスライクにやった方がよいです。相手方とトラブルが生じないよう、さらに発展していける契約関係を結ぶことが重要になります。

知財センターの支援とシンポジウム

織田:大企業、大学、公的機関のシーズを活用して中小企業が新事業を起こすことをサポートするため、東京都知的財産総合センターでは数年前からマッチング支援に取り組んでいます。ただ、マッチングをしても、製品化までには追加の開発などに資金が必要になります。そこで2年ほど前から試作、ライセンス、資金面で必要な支援を行う新しい事業を進めています。マッチングだけではなく、最終的な製品化、事業化まで中小企業と寄り添っていける事業として、ぜひ成功させたいと考えています。2月16日開催のシンポジウムは現在の中小企業だけではなく、これから起業を目指す方々や学生の方にも非常に良いトリガーになります。ウェブでの参加が可能なので、幅広い方に参加していただきたいと思います。

シンポジウム詳細
東京都中小企業知的財産シンポジウム2020
オープンイノベーションを加速する知的財産
~宇宙産業のテクノロジーを支える中小企業~

日 時:2021年 2月 16日(火) 13:00~16:00
開催方法:オンライン配信視聴

お申込み、シンポジウム詳細はこちらから

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