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ドラマ好調!池井戸潤氏が『下町ロケット』に込めた想いとは

「町工場にはホワイトカラーの仕事にない面白さがある」
 ―第145回直木賞を受賞した『下町ロケット』は東京都大田区にあるという設定の架空の町工場「佃製作所」が舞台です。
 「モノづくりにかける職人のプライドを描きたかった。銀行員時代に、中小企業が集まる大田区の支店で融資を担当していた。その縁で、レンズメーカーの日邦工業(東京都大田区)の取締役を作家活動と並行しながら今も続けている。その中で感じた町工場の雰囲気やメンタリティーが作品の土壌となった」

 ―町工場のどういった点に魅力を感じますか。
 「アットホームで、人間くさいところだ。銀行員とコンサルタントの時代を合わせて、200社近い会社を見てきたが、町工場にはホワイトカラーの仕事にない面白さがある。読者にも町工場の話は喜ばれる、という手応えを感じる」

 ―舞台を大田区にしたのはなぜでしょうか。
 「航空宇宙分野をはじめとして、大田区の高い技術力が日本経済を支えている。当初は、大田区の町工場がロケットを作る話を考えていたが、実際数社に取材してみると『そんなの無理無理』と言われた。そこで、ロケットエンジンのバルブシステムを作る話に練り直した」

 ―作品中で「佃製作所」はバルブシステムの特許をめぐって大企業とわたりあいます。
 「町工場も大企業も、会社の規模にかかわらず、自分の仕事に必死に取り組んでいる。大企業には大企業の論理があり、一概に悪者にしたかったわけではない。それよりも、仕事に臨む人間の姿を問いたかった。最近、日本人のプライドや誠実さ、ひたむきさが失われつつあるように思えてならない」

 「銀行の独身寮に住んでいた頃、朝早く出社する私に、食堂のおじさんは毎日弁当を作ってくれた。自分の仕事でないにもかかわらずだ。損得を考えない仕事ぶりに頭が下がると同時に、『少しでもいい仕事をしよう』という不屈のメンタリティーを感じた。何も滅私奉公をやれというわけではないが、経済情勢が大変厳しい中でも失ってはいけないものがある。読者にはそれを思い出してほしい」

 ―続編も大田区が舞台になるとか。
 「人工心臓をテーマに考えている。町工場は面白い。これからも、オリジナリティーのある豊かな物語を書きたい」
 (南東京・谷森太輔)
 【プロフィル】88年(昭63)慶大文卒、同年三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。コンサルタント業などを経て98年に作家デビュー。岐阜県出身。
日刊工業新聞2011年10月03日 books面
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
ドラマ化されたことで、町工場の面白さや苦労とともに、普段は見えない部品やシステムの凄さも、よりたくさんの人に知ってもらえる機会になると思います。半沢直樹は越えられるのでしょうか?

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