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「試作は日本・生産は中国」で起きやすいトラブルとは? 中国製部品を使う際の注意点

雑誌『機械設計』連載 第17回 現地調達部品にこだわらない
日本人設計者が中国メーカーに製造を依頼したときに発生しがちなトラブルの原因として、①中国人の国民性と,その国民性による仕事の仕方を理解していないこと、②本人の会話やメールなどでの情報の出し方が非常に曖昧であること、③設計者による中国の製造現場の確認が十分になされていないことの3つがあげられるという。本連載では,これら3つが原因となって発生したトラブルに関して,著者の経験に基づく実例をあげ,そこから得られた反省点とそれらの対策を紹介している。

中国で部品を作製する意図のほとんどは,コスト削減のためである。中国で製品の生産を行い,その製品に使用される部品を中国で現地調達するのが一般的であるが,日本で製品の生産を行い,部品は中国で生産し,中国から輸入するという場合もある。

特に前者の場合,サプライチェーンのなるべく多くを,日本や中国以外の国々に頼ることなく中国(現地)で行い,その製品の目標として現地調達率○○%として掲げる。それはもちろん大切な目標ではあるが,現地調達率を上げることにこだわるあまり,逆にコストアップになったり,予想外のトラブルに発展したりする可能性もあるということを,次の2つの事例で紹介する。

これらの内容は,中国で汎用部品を調達する場合に起きやすい。汎用部品は高額な部品が少ないためあまり気に留めることはないが,品質不良に発展した場合はその対処に膨大なコストが発生するので,ご注意いただきたい。

日本製でも貿易ルートが異なれば中国製

1 つ目は,線材のホルダや小型ヒートシンクのような汎用部品を中国で調達する場合である。製品を製造(組立て)する中国の工場(以下「組立工場」)がこれらのような汎用部品を調達する場合には,主に次の2つの方法がある。

1つは中国の組立工場が自社の貿易ルートを使って,日本にある汎用部品をそのオリジナルメーカーから調達する方法である。組立工場がほかにも多くの部品を日本から調達していれば,独自に貿易ルートをもっていることもある。

もう一つの方法は,汎用部品のオリジナルメーカーが中国に現地法人をもっている場合や,その汎用部品を取り扱う現地商社がある場合に,それらの企業から調達する場合である。ここでポイントとなることは,同じ部品でも前者は日本製となり後者は中国製となることだ(図1)。

図1 中国での日本の部品の2 つの調達方法

コストはオリジナルメーカーの現地法人から調達する方が安いと考えがちであるが,その汎用部品が中国ではほとんど販売されておらず,現地法人も中国に在庫をもっていない場合は,組立工場が独自の貿易ルートで日本にあるオリジナルメーカーから調達した方が安いこともある。貿易は物量によって輸送費が変わるため,どちらの価格が安いと決まらないことが多い。

よってこのような場合,筆者は営業とのコンタクトのしやすさなどから判断し,調達しやすい方から調達することにしている。一般的にはオリジナルメーカーの現地法人から中国製として調達することが多いが,本当にコストが安いかはわかってはいない場合が多い。

承認品の抜去力が劣っている

2 つ目は,汎用部品をオリジナルメーカーの部品を取り扱う現地商社から調達した場合のトラブルである。 この汎用部品とはプロジェクタの底面に溶着される埋め込みナットだ(図2)。プロジェクタは,逆さまにして天井に設置できる。そのための金具の取付けで使用する埋め込みナットである。

図2  プロジェクタの底面に溶着される埋め込みナット

このプロジェクタは,日本で設計し試作を行っていた。そのため試作時はオリジナルメーカーから埋め込みナットを購入して,設計者がそれを製品の構成部品である底カバーに溶着して荷重試験などを行っていた。この製品は中国の組立工場で生産するため,埋め込みナットを取り付ける底カバーももちろん中国で金型を作製して生産することにしていた。よって検討段階における最終の荷重試験は,サンプル部品を中国の成形メーカーから日本に送ってもらい,設計者が埋め込みナットを自身で溶着して行っていた。生産時には,底カバーの成形メーカーが埋め込みナットを専用の溶着機を使用して溶着することになっていた。

この製品の検討も進み,生産直前の承認部品を作製する段階になった。承認部品は成形メーカーから設計者に提出され,この部品を今後生産することを設計者が承認するものである。この承認作業は現地に駐在していた筆者が行うことになっていた。すべての承認部品を中国の数多くの部品メーカーから個々に日本の設計者に直送していたら,承認完了までに時間がかかるからである。日本の設計者は,日本に送られてくるサンプル部品を検討し修正を繰り返す。変更がなくなった段階の部品が最終のサンプル部品となる。そしてそれと同じ部品が承認部品として中国にいる筆者の元に送られてくるのであった。

底カバーの承認部品が筆者の元に届いた。筆者は底カバーの主な寸法を測定して問題ないことを確認した後に,埋め込みナットの抜去力を測定することにした。抜去力とは,埋め込みナットが底カバーからどのくらいの荷重で外れるかを示す数値である。プロジェクタが天井から落下しては危険なので,とても重要な数値である。もちろん日本の設計者は,日本に送られた底カバーの最終のサンプル部品に自身で埋め込みナットを溶着して,抜去力の確認は終えていた。

しかし重要な箇所であるため,筆者も確認することにしたのであった。抜去力を図面に表記されている数値と比較することも大切であるが,日本の設計者が確認した最終のサンプル部品より承認部品の抜去力の方が劣っていてはならない。理由は日本の設計者は最終のサンプル部品でプロジェクタを実際に天井から吊って,抜去力以外の荷重試験も行っていたからである。

埋め込みナットが溶着された最終のサンプル部品は,日本の設計者から筆者の元に送られてきていた。筆者は早速,承認部品と最終のサンプル部品の埋め込みナットの抜去力を測定し比較した。すると驚いたことに,承認部品の抜去力の方が明らかに小さな数値を示したのであった。

埋め込みナットが別部品

底カバーと埋め込みナットは,日本のサンプル部品と承認部品はまったく同じであるため,抜去力が違うことはあり得ない。最終のサンプル部品は日本の設計者が埋め込みナットを自身で溶着し,承認部品は成形メーカーが溶着機で溶着したものである。よって,その違いはあるかもしれない(図3)。

図3 2 つの底カバーのつくり方

筆者の手元にある承認部品はすでに埋め込みナットが溶着されているので,埋め込みナットの溶着されていない底カバーを成形メーカーから至急入手して,日本から送られていた埋め込みナットを筆者が自身で溶着してみた。すると抜去力は最終のサンプル部品と同じ数値を示したのであった(図4)。

図4  日本から送られてきた埋め込みナットを筆者自身で溶着すると,同じ抜去力になる

底カバーにある埋め込みナットを溶着する穴寸法はいっさい変更していない。すると最終のサンプル部品の埋め込みナットと承認部品のそれが異なるということになる。

溶着機の溶着温度や埋め込みナットの挿入速度にも問題がある可能性があるので,筆者の手作業ではあるが,これらの値を変化させて実験を行ってみた。結果は,抜去力に大きな違いは見られなかった。

埋め込みナットが別部品

筆者は承認部品の底カバーから埋め込みナットをほじくり出した。そして日本から送られた埋め込みナットと形状を比較したが,見た目は何も変わらない。そこで顕微鏡を用いて,これらの2 つの形状を比較することにした。すると微妙ではあるが,これらの形状が異なるのであった(図5)。

図5  形状の違う2 つの埋め込みナット。左が最終のサンプル部品,右が承認部品に溶着されていたもの

日本のオリジナルメーカーから調達した埋め込みナットは,樹脂への引っ掛かり部分の形状がドーム状になっていた。しかし承認部品に取り付いていた埋め込みナットは台形になっていたのであった。この微妙な形状の違いが,抜去力の差となって現れていたのだ。

この現地商社はオリジナルメーカーの埋め込みナットの中国での販売権をもっており,簡易的な図面も入手していた。受け入れ検査で使用するものであろう。しかしその図面には,樹脂への引っ掛かり部分の詳細寸法までは記載されていない。この現地商社の営業担当者が言うには,この簡易図面を使って中国で模倣品を生産しているとのことであった。そしてなんと,その模倣品を同じメーカー名と型番で販売していたのだ。つまり「日本製の○○社製 型番T 123」と「中国製の○○社製 型番T 123」としか区別ができなかったのだ。

ちなみに底カバーの図面には「○○社製 型番T 123 相当品」と表記されている。「相当品」の記載があれば,確かに中国製でも問題はないかもしれない。ここにも今回のトラブルの原因があった。しかし形状の違う埋め込みナットを,同じメーカー名と型番で販売していたのは驚きであった。

この問題で行った対策

最終的には「日本製の○○社製 型番T 123」を現地商社に購入してもらい,このトラブルは解決することになった。そして図面には今後,「相当品」の表記はしないことにした。そして模倣品を使用する場合は日本のメーカー名は表記せず,その模倣品を生産している中国のメーカー名を表記することにし,現地商社にもその旨を徹底するよう伝えた。

中国に模倣品は多く出回っている。汎用部品には,日本と同じ形状の部品が多く出回っているものがある。これらを使用すること自体は問題ではない。今回トラブルになった原因は,日本の試作時でのサンプル部品と,承認部品に溶着された埋め込みナットが異なっていたことであった。日本で試作,中国で生産を行う場合には起こりかねないことである。中国製を使用するときは,試作においても中国から汎用部品を入手して検討を行い,日本製を使用するときは「相当品」の表記は避けメーカー名と型名を図面に明確に表記したうえで,その購入ルートを確認しておくことが大切である。

<著者>
ロジ 小田 淳(おだ あつし)
中国モノづくりの進め方コンサルタント。ソニーに29 年間在籍し,プロジェクターなど合計15 モデルを製品化。駐在を含む7 年間,中国でモノづくりを行う。中国での不良品や業務上のトラブルの発生原因が日本人にもあることに気付き,それらの具体的な対処方法を研修やコンサルで伝える。

<販売サイト>
Amazon
Rakutenブックス
Yahoo!ショッピング
日刊工業新聞ブックストア

<雑誌紹介>
【特集】空気圧機器・システムの製品・技術動向

空気圧機器・システムは、自動車や半導体、食品などの工場において、組立てや搬送などの自動化装置に数多く使われているのは周知のとおりです。自動機などの開発・設計者にとって、空圧設計は欠かせないスキルと言えます。一方で、さまざまな仕事が求められるようになってきた自動化装置では、空気圧機器・システムの製品および技術動向を知り、いかに開発・設計に活かすかが重要です。
 そこで本特集では、各種機器の製品・技術動向から、省エネルギー、IoTに至る応用事例のほか、技術トピックスとして空気圧制御の技術動向を紹介します。

雑誌名:機械設計2020年11月号
判型:B5判
税込み価格:1,540円

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