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MRJ、三菱重工副社長が語る将来像は

「(17年春の納入開始後は)軽量化した会社になるだろう」(鯨井副社長)
MRJ、三菱重工副社長が語る将来像は

地上走行試験を繰り返すMRJ(2015年10月23日、県営名古屋空港で撮影)

 国産小型ジェット旅客機「MRJ」の初飛行が迫ってきた。開発元の三菱航空機(愛知県豊山町)は23日、5回目となる初飛行延期を発表したが、約50年ぶりの国産旅客機が初飛行すれば日本は米欧やカナダ、ブラジルなどに続く旅客機製造国に一歩近づく。三菱重工業でMRJを含む民間航空機事業を統括する鯨井洋一副社長交通・輸送ドメイン長に、今後の戦略などを聞いた。
 
 ―MRJの初飛行が近づいています。
 「開発は子会社の三菱航空機(愛知県豊山町)で進めている。今後は顧客サポート(CS)や機体量産の基盤を固めるフェーズ(段階)になるが、(2017年春の納入に向けた)スケジュールに基づき、人材採用やシステム整備など着実に進めている」

 ―試験飛行は日本ではなく、米国を中心に進める計画です。
 「拠点とするワシントン州モーゼスレイクの空港は4000メートル級の滑走路を持ち、飛行機を24時間飛ばせる。フレキシブルな運用が可能で必然的に米国の(航空機開発の)基盤を活用することになる」

 ―17年春の納入開始後は旅客機事業のあり方をどう考えますか。
 「三菱航空機は開発作業が減り、営業や顧客サポートの人員は増える。(現在の約1500人体制と比べて)軽量化した会社になるだろう。航空機の開発者を遊ばせるわけにはいかない。次世代機などいろいろなことを検討している。一方で、次世代機のあり方は簡単ではない。10年、20年後の市場動向などを考慮しながら、機体にどんな技術を織り込めるか、開発の(人的、資金的な)リソースをどう持つかなど、継続して検討していく必要がある」

 ―MRJなど航空機部品の量産を見据え、三重県の工場で中小サプライヤーの共同工場を整備しています。
 「世界で通用するサプライヤーになってほしい。航空機産業の中小企業は、品質や納期の面では国際的にも優れている。この力を生かし切るためには、産業クラスター(共同工場)によって生産の基盤を共有したり、物流効率を向上したりしてコスト競争力を上げることが必要だ。国際的に競争力のある製品を供給できれば我々のメリットにもなる」
 
【記者の目/納期順守へ総力が必要】
 愛知県営名古屋空港(豊山町)では連日のようにMRJの地上走行試験が実施されており、50年ぶりの快挙への期待が高まる。一方で初号機の納期まで既に2年を切る中、型式証明の取得に加え、世界のサプライヤーを含めた量産体制や顧客サポート体制の整備など課題も山積する。納期順守には、三菱重工業の総力が必要だ。

(聞き手=名古屋・杉本要)
日刊工業新聞2015年10月23日 機械・航空機面の記事に加筆
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 MRJの初飛行延期発表よりも前となりますが、三菱重工・鯨井洋一副社長へのインタビューを本紙にて掲載しました。鯨井さんは「(MRJ事業で獲得した)航空機のリソース、インフラというものを活用することで、初めて、完成機ビジネスが成立する」とも話しました。  MRJは三菱重工にとって、トータルでウン千億円の投資が必要な社運をかけた事業です。しかし、それでもなおビジネス的には「旅客機市場に参入できた」というレベル。MRJのインフラをフル活用して挑む20年後の次世代機でやっと、巨大重工の屋台骨となりうるのです。  まだ飛んでいないMRJですが、水面下では次世代機の構想も始まっています。

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