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IHIが海洋構造物事業からの撤退検討。国家戦略にも痛手

グループ挙げて再建、愛知工場の存続図るが・・分社や再編の可能性も
IHIが海洋構造物事業からの撤退検討。国家戦略にも痛手

通称“100万トンドック”を持つ愛知工場

 IHIの海洋構造物建造事業が岐路に立たされた。8月の第1四半期(4―6月)決算発表からわずか3カ月足らずで2度目の業績下方修正に追い込まれた“主犯”ともなれば、経営として見過ごせない。ただ、IHIは他の大手造船所が海洋構造物建造から手を引く中、“授業料”を払いながらも粘り強く海洋事業を継続した。撤退の選択はメタンハイドレートをはじめ、わが国近海に眠る海洋資源開発を自国技術で手がける国家戦略にも痛手となる。今後は造船大手のジャパンマリンユナイテッド(JMU)などグループ総力を挙げて再建を進めることが望まれる。

 【愛知工場軸に】
 IHIは造船事業をJFEホールディングスと統合する形で切り出したが、通称“100万トンドック”を持つ愛知工場(愛知県知多市)を軸に海洋事業を本体に残した。「日本の経済水域における資源開発は日本企業で手がけるべきだ」(斎藤保社長)。そんな思いがあったからだ。

 シンガポールや中国の造船所が手がけているのに、日本が及び腰になっていた海洋構造物。海底の石油掘削や貯蔵などを行う“プラント一体型洋上タンカー”と言えば分かりやすい。10年以上にわたり同一海域で運用し、修繕が難しいことから、耐久性に定評がある日本勢を評価する向きは多い。しかし、資源開発プロジェクトに紐(ひも)付き、短納期で仕様変更が多く、大量の資機材を擁することから工期管理が難しいのは言うまでもない。

 洋上浮体式石油生産貯蔵積出設備(FPSO)の船体建造に再参入した三井造船は、千葉事業所(千葉県市原市)の休眠ドックにクレーンを新設。一般商船の工事計画に影響を及ぼさない柔軟な建造体制を敷く。

 【負の連鎖】
 IHIは2012年にタイ湾沖に設置される浮体式原油貯蔵積出設備(FSO)を引き渡して以来の大型工事に挑んだが、残念ながらシンガポール向けドリルシップ、ノルウェー向けFPSOの船体建造で工程混乱による負の連鎖が収まらず、土俵際に追い込まれた。船体ブロック建造を韓国に委託するなど複数作業を同時並行で進める中、材料表が仕上がった段階で調達費用の大幅増加が発生するなど、見積もりの甘さも浮き彫りになった。

 社長特命事項として愛知工場の手持ち工事完遂を指揮する安部昭則取締役(前常務執行役員社会基盤・海洋事業領域担当海洋・鉄構セクター長)は、東京大学工学部卒でIHI本体に残る造船畑のエース。状況を良く理解しており手持ち工事完遂に全力を尽くす。

 【青写真は白紙】
 13年度十数億円にとどまっていた海洋事業を500億円規模に引き上げ、最新の門型クレーン導入などで製造効率を高める―。青写真は白紙に戻る。

 今後は液化天然ガス(LNG)運搬船などに使われる独自アルミ貯蔵タンク「IHI―SPB」を軸に、社内外合わせて約1200人が働く愛知工場の存続を図るが、海洋事業の分社、再編などさまざまな選択肢を持つ必要があるだろう。ただ、大手造船企業の持つ高度な技術力を眠らせることは国益に反するはずだ。一企業の問題ではなく、国家としての海洋支援策も充実させるべきだろう。
 (文=鈴木真央)
 
2015年10月23日 機械・航空機 面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
2016年3月期は中期経営計画の最終年度。各利益項目で過去最高益の更新を目指していたが、上期が黒字予想から赤字に転落した。前期もブラジルの造船・海洋合弁事業で特損を出しており、「海」は鬼門だ。斎藤社長は次期中計でビジネスモデルを変え、成長につなげる戦略でいた。現在、各事業の評価は営業利益を指標としているが、投下資本利益率や規模感を含め見直すという。

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