銀座の高級子ども服の企業がコメを売る理由

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顧客の子どもたちが小滝集落で田植え体験

【日本の原風景】

子ども服ブランドを展開するギンザのサヱグサ(東京都中央区)はコシヒカリも売っている。「銀座の高級子ども服の企業がコメを売る」というと話題性がある。しかし三枝亮社長は「初めからコメを売るつもりではなかった」と明かす。長野県栄村の小滝集落との出会い、さらに元をたどれば、子どもの成長に貢献したいという思いがコメの販売に至った経緯だ。

コメ販売のきっかけとなった小滝集落は長野県の最北端に位置する。三枝社長によれば13世帯、35人ほどが暮らす。2014年に初めて訪れた時「ほれ込んだ」という。昔ながらの風景を残す里山であり、家族三世代の暮らしと自然を生かした生活の知恵があった。額縁に入れた絵画のような「日本の原風景」に心が奪われた。

三枝社長は都会の子どもが自然体験ができる場を求めて15カ所を訪ね歩き、小滝と出会った。その小さな集落は、11年3月12日に発生した長野県北部地震で被災した。「何十回も通い、集落の人から話を聞いた。震災の傷跡が深く、たいへんな思いをしながらもコメ作りを再開した。それだけ農業を続けたい意思が強かった」(三枝社長)という。住民はコメの味にも自信を持っている。だが、適切に評価されて売れないと農業を続けられず、住民は集落を離れることになる。

【小滝米を販売】

そこで高級ブランドを手がけるサヱグサの出番だ。「私たちのデザインの経験を生かせば、ふさわしい価値のある商品にできる」と思い、小滝米を「コタキホワイト」と名付け、真っ白いパッケージに入れて売り出した。販売は好調だが「コメを売ることが目的ではなく、小滝の経済を回して里山を残すことが目的」と強調する。

顧客の親子と小滝の住民が作物を収穫

もう一つ、子どもの自然体験の場としても集落の継続は大事だ。14年夏から子ども服の顧客である親子に呼びかけ、小滝へのツアーを実施している。参加者はコメ作りや地元の人とのバーベキューを楽しんでいる。「自然体験は子どもの健全な成長に貢献できる。それは、服を売ることと同じ。サヱグサは子どもに体験を提供する会社。お客さまを里山にお連れすることも私たちの本業」と熱く語る。

【集落に活力】

コメの販売やツアーは小滝集落に活力をもたらす。しかし「支援という言葉を使ったことはない。小滝とサヱグサはパートナー」と言い切る。いくら老舗企業でも「里山」は作れない。都市の企業も地方から恩恵を受ける対等な間柄だから関係が長続きする。

日刊工業新聞2020年10月16日

COMMENT

松木喬
編集局第二産業部
編集委員

「コメの販売で地方貢献」と単純に考えていました。実際に取材をすると「都会の子どもに自然体験をしてほしい」という動機が先でした。洋服の販売も自然体験も、子どもの成長への貢献は一緒。都市の企業が地方の森林保全に協力したり、地方の産品を購入したりすることがあります。どの活動も長続きしてほしいです。  紙面・ニュースイッチで取り上げてほしいSDGsテーマを教えて下さい。連絡はニュースイッチの問い合わせまで

キーワード
SDGs 子供服

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