中国が世界を席巻する顔認証技術「日本企業は太刀打ちできない」
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、企業の出社時や商業施設の入館時に検温を兼ねた顔認証を求められる機会が増えている。想像していたよりも時間もかからず、円滑な運用に驚いた人も少なくないはずだ。顔認証技術はスマートフォンのロック解除や写真の加工アプリ、国際空港の入出国や銀行のATMの本人確認など日常にも深く入り込んでいる。ただ、技術の高度化はプライバシーの問題と表裏一体でもあり利用拡大を懸念する声も少なくない。
マスクをつけたまま立ち止まることなく顔をカメラに向けると、個人を認証し、体表温度を約0・5秒で計測し、セキュリティーゲートが開く。
ソフトバンク傘下の日本コンピュータビジョン(JCV)の顔認証と検温を同時に実施する「SenseThunder(センス・サンダー)」は4月の発売以降、企業や大手ショッピングモール、スタジアム、映画館など数千カ所に導入されている。同社担当者は「発売前の想定を大幅に上回る勢い」と語る。
人工知能(AI)による顔認識技術と赤外線カメラを搭載。対象者が機器から最大1・5メートル離れた場所からでも利用できるため、設置場所によっては、わざわざ端末の前で停止する必要も無い。
例えば、企業の建物の入館口に設置すれば、入退管理と検温を一元管理できる。社員でなかったり、発熱していたりすれば、入館できない。顔の特徴を多数のポイントで捉えて瞬時に特定するので、メガネやマスクをつけたままや髪形が変わっても個人を判別できる。
コロナ禍では、同製品のように、検温と顔認証を組み合わせた製品が相次いで市場投入されているが、技術の核になるのは顔認証だ。そして、この分野で、今、世界を席巻しているのが中国。顔認証技術は日本メーカーも手がけているが、業界関係者の間からは「正直、中国が大人ならば日本は子ども。一概にはいえないが、認証にも数倍の時間がかかる。まともに太刀打ちできない」との声もあがる。JCVも開発は香港に拠点を置くセンスタイムが手がけている。同社は中国の画像認識技術でも先頭を走る企業だ。
顔認証技術は人が人の顔を見て、脳が認識し、その情報をもとにどう対応するか決める仕組みをコンピュータで再現している。人間の反応をカメラと人工知能のアルゴリズムで高度に実行する。
そのためには、大量の顔の画像データとカメラで捉えた顔をマッチングさせる必要がある。顔を認識したり比較したりするには大量のデータがあればあるほど精度は高まる。
このデータの量がケタ違いなのが中国だ。「インターネット上の顔写真やパスポート、免許証はもちろん、街中の監視カメラの画像も政府と組むことで活用されている」(日本のメーカー関係者)。
特に監視カメラは、中国には2019年時点で約2億台あるというが2022年までに6億2600万台まで増設する計画だ。これは人口約2人に1台の割合でカメラが設置されることになる。先進国では「プライバシー無視」と呼ばれかねない行為を国主導で実行することで、技術がますます高度化するわけだから他国が追いつけるわけがない。実際、世界の多くの国や企業に中国が開発した顔認証技術のアルゴリズムが供与されている。
中国のこうした取り組みにはプライバシーの観点から批判も多い。ただ、高度な顔認証技術を手に入れた世界が逆戻りできないのも現実だろう。犯罪捜査や治安などの分野だけでなく、冒頭に述べたように顔認証技術は私たちの生活の一部になりつつある。
米国の小売業の中では、店舗の入り口に顔認証技術を導入し、購買履歴とひもづける試みも始まっている。過去の購買履歴から顧客が好みそうな商品が提示され、店員がさりげなく商品を提案できる。「気味が悪い」と思う人もいるかもしれないが、数年経てば気にならなくなるはずだ。インターネットを利用していて、検索履歴に応じた広告がタイミング良くででてきても、不気味だと嘆く人は年々減少している。
顔認証技術の高度化は、多くの人にとってはリスクよりもメリットを享受する機会が多い。使い道を間違わなければ、メリットは今後ますます大きくなる。