Go Toトラベル「東京追加」で国内旅行市場はどこまで回復する?
官民一体型の旅行需要喚起策「GoToトラベル」で“東京発着”旅行が追加されたことにより、国内旅行市場が急回復している。大手旅行会社3社の取扱額は足元の週で前年比2―3倍超で推移するなど盛況。10―12月の予約状況は前年比5―7割まで戻り、さらに上積みが見込める状況だ。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言下における需要喪失から一転し、厳しい経営環境に立たされていた観光産業に光が見え始めた。(小林広幸)
マインド変化
JR東日本の深沢祐二社長は「週末の人出が増えてきた」と手応えを明かす。3―4日の新幹線利用は前年比45%。9月まで3割台で推移したのに比べると明らかに伸びた。東京発の旅行客が増えた一方で「東京に来る旅行客は増えていない」(深沢社長)と話す。
日本航空(JAL)の赤坂祐二社長は国内線について「10月は対前年比50%ぐらい」との見通しを示す。全日本空輸(ANA)も国内線は前年比5割を見込む。両社とも9月は同3割台だった。ANAセールスの高橋誠一社長は「マインドの変化が現れたのではないか」と分析する。
抑制してきた旅行意欲が解放された心理的な効果は大きい。GoToトラベルの旅行代金値引きや地域共通クーポンの配布による、お値打ち感が後押しした。潮目が変わったのは東京追加が決まった9月18日。割引開始日の10月1日、さらにギアが一段上がった。
旅行各社の国内旅行取扱額を週単位で前年実績と比べると、JTBは東京在住に限って9月18日以降が2倍、10月が2・5―3倍。KNT―CTホールディングス(HD)は9月最終週が2倍。日本旅行は9月最終週が1・8倍、10月最初の週が3・1倍と伸びた。
利便性向上
GoToトラベルで主力となるのが、宿泊と移動をセットにした募集型企画旅行(パッケージ)商品だ。宿泊だけでなく、商品に含まれるJRや航空機も割引対象となる。1日からはJRグループの制度変更で、大手旅行会社の商品でも、シートマップによる座席位置指定や、駅指定席券売機でのJR券受け取りが可能となるなど利便性が高まった。
各社がウェブ販売に力を入れる一方、複雑なGoTo利用ルールの解説や安全・安心な旅行の相談などを求めて店舗を訪れる顧客も多い。混雑回避のために来店予約制を採用しているが、全体的に従来よりも接客時間がかかっているという。6月の営業再開時には閑古鳥か鳴いていた店舗も一変、うれしい悲鳴が上がる。普段は海外旅行を担当する社員や管理職なども総出で対応している状況だ。
感染防止を徹底
需要回復を一過性で終わらせず国内観光産業を回復基調に乗せるには、感染拡大防止策の徹底が必須だ。旅行会社、運輸事業者、宿泊施設、観光施設などが連携して、コロナ禍でも安心・安全に旅行できる体制構築を目指している。さらに晩秋から冬にかけては多くの観光地が閑散期にも入る。失われた繁忙期の売り上げを取り戻すためにも、新たな需要創出や需要平準化に取り組む必要がある。