中国経済減速は軽微?
日銀の景気判断に強気バイアス
中国の7月-9月のGDPの伸び率が6年半ぶりの低い水準にとどまった19日、日銀は支店長会議を開いた。地域経済報告(さくらリポート)では全国9地域全ての景気判断を前回の7月報告から据え置いた。新興国経済の不透明感が増し、生産輸出への影響が避けられない中、違和感がある結果になったが、各地の支店長からは中国経済の減速に対して悲観的な意見は皆無に近かった。
関東甲信越、東海、近畿は新興国経済の減速の影響を文言に新たに盛り込んだが、景気判断を据え置いた。宮野谷篤大阪支店長は、スマートフォン関連の輸出など「関西経済の中国依存度は高まっている」としながらも、「高品質の電子部品が強い国際競争力を発揮している」と指摘。一台あたりの部品点数の増加も下支えしているという。
生産の判断は引き下げたものの、「関西の輸出や生産のテンポは鈍っているが、7ー9月期も前四半期に比べて微増する」と語った。中国経済の先行きについては「(日米欧に比べて)金融政策を発動する余地はある」とし、「最近は不動産価格も下落率が縮まっている傾向が見える」と述べた。
梅森徹名古屋支店長は「中国経済減速の影響は、(競争力の高さから)比較的マイルドにとどまっている」と説明。主力の米国向け輸出が好調なこともあり、地域経済への影響は想定内との見方を示した。
杉本芳浩札幌支店長は北海道が内需型産業が中心であることもあり、「全体に大きな影響は見られていない」と中国経済のマイナス影響を否定した。
中国経済の減速で設備投資を控える動きも出てきそうだが、秋山修福岡支店長は「今後も設備投資を先送りするのでなく、積極化して新製品を投入していくスタンス」と地域の企業動向を説明した。九州・沖縄地域は今回の報告で設備投資の判断を引き上げている。
とはいえ、地域経済報告の景気判断は鵜呑みにできない背景もある。地域経済報告は日銀のホームページによると「日頃、日本銀行本支店が行っている企業ヒアリングで得られた情報を基に、地域経済に関する各種データを活用しながら取りまとめたもの」とある。つまり主観が混じる余地が大きい。
アナリストの多くも、「バイアスが相当かかっており、割り引いてみる必要がある」と指摘する。果たして、中国の経済影響は軽微なのか。しばらくは目が離せそうにない。
「単純な進出相談は減った。撤退の相談も出てきている」。みずほ銀行中国営業推進部の武澤弘貴次長は日系企業の変化を語る。
中国が日本企業にとって安い人件費を前提とした生産基地の位置づけでなくなって久しい。人件費の高騰もあり、業種を問わず、事業費の圧縮や商品、サービスの高付加価値化は避けて通れない。撤退を余儀なくされなくても、「事業ごとに進出して現地法人を立ち上げた企業が多い。効率化のための再編相談は多い」(同)。
とはいえ、日本企業の資金需要は底堅い。製造業では自動化やロボット需要が継続的に見込める。最近、引き合いが強いのが膨大な内需を狙った産業。小売り、医療、介護の動きが目立つ。
「販路開拓で中国企業との協業を模索する企業が増えている」。三井住友銀行のホールセール統括部の柳茂雄副部長は語る。同行では今春に日本企業と中国企業を橋渡しする専門部署を設置。出資先の東亜銀行の顧客網を活用して、日系、非日系を仲介することで貸し出し全体を底上げする。
「後発なので不安だったが、想定以上」。東京スター銀行の企業戦略開発グループの渡邊豪グループリーダーは手応えを示す。同行は台湾の中国信託商業銀行が2014年6月に親会社になった経緯もあり、昨秋から中堅中小企業の海外進出支援を開始。中堅中小にとって現地情報の収集やパートナー企業探しは自力では難しい。中国信託のネットワークへの期待から相談が増え、貸し出し増につなげている。
中国の消費者を対象にする場合、日本企業単独での進出は障壁が高い。台湾企業と提携することで即席麺のサンヨー食品や米菓子の岩塚製菓は成功を収めた。中台関係の改善を追い風に、台湾の存在感は増す。
三菱東京UFJ銀行は台湾の高雄市に出張所を設ける。日系との取引拡大も狙うが、「現地企業の新規客を増やす」(東アジア企画部の谷徹雄副部長)。台湾の融資残高で8割を占める非日系を深耕する。福建省の福州市にもほぼ同時に支店を開き、中台の両岸貿易の要所を押さえることで、顧客を囲い込む。
日本企業の資金需要が緩やかになる中、銀行は収益の多様化が必須。実際、3メガは中国向け貸出残高で非日系の比率が高まる。三井住友銀は11年3月末に3割だったが15年3月末に5割に増えた。
現地企業とパイプが太くなれば、日本企業との業務提携の橋渡しも円滑になる。中国市場の景色が変わる中、黒子役の金融機関の役割も多彩になる。
関東甲信越、東海、近畿は新興国経済の減速の影響を文言に新たに盛り込んだが、景気判断を据え置いた。宮野谷篤大阪支店長は、スマートフォン関連の輸出など「関西経済の中国依存度は高まっている」としながらも、「高品質の電子部品が強い国際競争力を発揮している」と指摘。一台あたりの部品点数の増加も下支えしているという。
生産の判断は引き下げたものの、「関西の輸出や生産のテンポは鈍っているが、7ー9月期も前四半期に比べて微増する」と語った。中国経済の先行きについては「(日米欧に比べて)金融政策を発動する余地はある」とし、「最近は不動産価格も下落率が縮まっている傾向が見える」と述べた。
梅森徹名古屋支店長は「中国経済減速の影響は、(競争力の高さから)比較的マイルドにとどまっている」と説明。主力の米国向け輸出が好調なこともあり、地域経済への影響は想定内との見方を示した。
杉本芳浩札幌支店長は北海道が内需型産業が中心であることもあり、「全体に大きな影響は見られていない」と中国経済のマイナス影響を否定した。
中国経済の減速で設備投資を控える動きも出てきそうだが、秋山修福岡支店長は「今後も設備投資を先送りするのでなく、積極化して新製品を投入していくスタンス」と地域の企業動向を説明した。九州・沖縄地域は今回の報告で設備投資の判断を引き上げている。
とはいえ、地域経済報告の景気判断は鵜呑みにできない背景もある。地域経済報告は日銀のホームページによると「日頃、日本銀行本支店が行っている企業ヒアリングで得られた情報を基に、地域経済に関する各種データを活用しながら取りまとめたもの」とある。つまり主観が混じる余地が大きい。
アナリストの多くも、「バイアスが相当かかっており、割り引いてみる必要がある」と指摘する。果たして、中国の経済影響は軽微なのか。しばらくは目が離せそうにない。
邦銀には撤退・拠点の効率化相談も
日刊工業新聞2015年8月25日付
「単純な進出相談は減った。撤退の相談も出てきている」。みずほ銀行中国営業推進部の武澤弘貴次長は日系企業の変化を語る。
中国が日本企業にとって安い人件費を前提とした生産基地の位置づけでなくなって久しい。人件費の高騰もあり、業種を問わず、事業費の圧縮や商品、サービスの高付加価値化は避けて通れない。撤退を余儀なくされなくても、「事業ごとに進出して現地法人を立ち上げた企業が多い。効率化のための再編相談は多い」(同)。
とはいえ、日本企業の資金需要は底堅い。製造業では自動化やロボット需要が継続的に見込める。最近、引き合いが強いのが膨大な内需を狙った産業。小売り、医療、介護の動きが目立つ。
「販路開拓で中国企業との協業を模索する企業が増えている」。三井住友銀行のホールセール統括部の柳茂雄副部長は語る。同行では今春に日本企業と中国企業を橋渡しする専門部署を設置。出資先の東亜銀行の顧客網を活用して、日系、非日系を仲介することで貸し出し全体を底上げする。
「後発なので不安だったが、想定以上」。東京スター銀行の企業戦略開発グループの渡邊豪グループリーダーは手応えを示す。同行は台湾の中国信託商業銀行が2014年6月に親会社になった経緯もあり、昨秋から中堅中小企業の海外進出支援を開始。中堅中小にとって現地情報の収集やパートナー企業探しは自力では難しい。中国信託のネットワークへの期待から相談が増え、貸し出し増につなげている。
中国の消費者を対象にする場合、日本企業単独での進出は障壁が高い。台湾企業と提携することで即席麺のサンヨー食品や米菓子の岩塚製菓は成功を収めた。中台関係の改善を追い風に、台湾の存在感は増す。
三菱東京UFJ銀行は台湾の高雄市に出張所を設ける。日系との取引拡大も狙うが、「現地企業の新規客を増やす」(東アジア企画部の谷徹雄副部長)。台湾の融資残高で8割を占める非日系を深耕する。福建省の福州市にもほぼ同時に支店を開き、中台の両岸貿易の要所を押さえることで、顧客を囲い込む。
日本企業の資金需要が緩やかになる中、銀行は収益の多様化が必須。実際、3メガは中国向け貸出残高で非日系の比率が高まる。三井住友銀は11年3月末に3割だったが15年3月末に5割に増えた。
現地企業とパイプが太くなれば、日本企業との業務提携の橋渡しも円滑になる。中国市場の景色が変わる中、黒子役の金融機関の役割も多彩になる。
日刊工業新聞2015年10月20日2面大幅加筆