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「五郎丸歩」がヤマハ発動機で体現した企業スポーツの意義

 「ヤマハ発動機の五郎丸です」。鍛え抜かれた大きな体をスーツに包み、名刺を差し出した初対面の広報マンに強い印象を受けた覚えがある。

 「来シーズンは正規社員チームで臨みます」―。同社がラグビー部にそう通達したのは2009年11月。リーマン・ショック後の景気後退で過去最悪の赤字を計上し、社員の希望退職を募る事態となっていた。

 プロ契約と社員選手が混在していたチームでは移籍を選んだ仲間もいた。しかし学生時代からスーパースターだった五郎丸歩さんは、引く手あまたにもかかわらず残留を決断。広報に配属された。主な仕事は試乗や撮影用バイクの手配で、電話も自分で受ける。

 元ラグビー部の同僚は「社員と接したことで応援されている実感がある。両立はきついが、精神面で良い影響もあったはず」と話す。同部は11年に清宮克幸監督を招き、今年2月の日本選手権で初優勝。ワールドカップでの活躍につながる。軌を一にして社の業績もV字回復した。

 社員をリストラする中でなぜラグビー部を残すのか。当時はそんな声も聞かれた。あきらめない心と、仲間との一体感。五郎丸選手のキックが描く美しい放物線に、企業スポーツの持つ意義を再発見した思いがする。
日刊工業新聞2015年10月16日「産業春秋」より
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
五郎丸選手は今回、脚光を浴びる形になったがこのような境遇の人は多い。企業とスポーツ選手の関係でもう少し柔軟な雇用関係があれば。

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