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アベノミクスよりも強力な中国“10本の矢”

文=大井幸子(国際金融アナリスト兼SAIL社長)鉱工業生産の底を見極めよ
アベノミクスよりも強力な中国“10本の矢”

安倍首相(左)と習主席

 以前この連載で「中国製造2025」を取り上げた。国務院の行政トップからの指導で、中国は10大重点産業を発展させるべくロードマップを明らかにし、実行に移している。中国経済は2ケタの高度成長から5%台の低成長への移行過程にある。
 
 産業構造も「世界の工場」へと導いた製造業から「個人消費」を中心に据えたサービス産業へと移行する時である。中国は、安倍晋三政権の経済政策であるアベノミクスの「3本の矢」よりも強力な「10本の矢」で、本気で構造改革に取り組もうとしている。
 
 中国が国内総生産(GDP)の6、7割を個人消費が占める米国や日本のような経済構造にシフトし、その成果が実感できるまでには数年はかかるだろう。
 
 このタイミングで、今、中国の鉱工業生産が本当に底をついたかどうかの見極めがポイントである。中国経済が今後も安定成長を持続できる体制となれば、原油・コモディティー関連価格は、長期需要を見込んで安定的に上昇していくだろう。この時に、先進国ではインフレ懸念が本格化すると筆者は予想している。
 

AIIB加盟国は投資リターンを享受


 中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)で主導権を取り、広大な国土のインフラ整備を進めるとともに、全国津々浦々の内需を掘り起こし、13億8000万人の国民に安定的な成長の果実を提供しなければならない。AIIBはそのための資金調達機関として大きな役割を担うはずだ。
 
 中国はAIIBのAAA格付けを前提に資本調達コストを下げ、大幅なインフラ投資を実施する。この時に当然ながら、AIIB加盟国は投資案件へのアクセスと投資リターンを享受することになる。
 
 同時に、中国は人民元の国際化を狙う。ただし、金融の根幹を成す信用創造と決済システムにおいて、中国が主導権を取れるかどうかの見極めがポイントである。
 

「中央銀行相場」の終焉


 21世紀の金融システムはサイバー上に構築され、グローバルに展開する。30年前にはレーガン大統領が本気でスターウォーズ計画をたてたが、今は「サイバーウォーズ」が日常となっている。

 つい先日、米国の2000万人に及ぶ公務員の情報がハッキングされ、深刻な問題となった。米国のエネルギー、航空機産業など主要な企業への被害も相次ぎ、FBIはハッキングの8割は中国によるものと報じている。

 このように、米中関係は、その外交の裏側で、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ(インフレ対策)とサイバーウォーズの熱い戦いが繰り広げられている。リーマン・ショック後続いてきた「中央銀行相場」は終焉することになるだろう。

※日刊工業新聞では毎週金曜日に「国際金融市場を読む」を連載中
日刊工業新聞2015年10月16日 金融面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
中国の構造改革の行方についての見方は大きく分かれる。「『中進国の罠(わな)』を十分自覚し、意図的に経済成長率を下げている」という宮本元中国大使の見方は示唆に富む。

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