著作権フリーの音源提供で動画制作を支える岡山発のベンチャー、コロナ禍で顧客広がる

  • 1
  • 10
自社には音楽の収録スタジオもある。ギターを持つ西尾社長

コロナ禍、ネット向け拡大

オーディオストック(岡山市北区、西尾周一郎社長)が音楽作品の新市場開拓を進めている。新型コロナウイルス感染症の影響で増えたネット動画の制作支援や、在宅勤務などで個人が仕事中に聞くBGMを提供する。動画制作では芸能人ら新しい作り手が増えた。そこで著作権フリーの音源提供で動画制作を支える。個人向けBGMでは観光地など地域の自然音を提供。利用者はゆかりのある土地の音を聞きながら働ける。音を収録する地域にとっても観光や物産品の購入につながる。

【音楽作品59万点】

「音楽制作は在宅が多い職種。当初はコロナ禍の影響は小さいと考えていたが、そんなことはなかった」と西尾社長は明かす。コロナ禍で結婚式ができなくなり、ブライダル向けの音楽利用が急減。株主総会や新製品発表などのイベントが中止になり、法人向け動画制作が減った。

オーディオストックはBGMや効果音、歌など音楽作品の買い切りや定額制使い放題で提供する。音楽作品は約59万点。著作権フリーで使用回数の制限がなく、追加の使用料も発生しない。動画共有アプリ「TikTok」やインフルエンサーマーケティングのファッションEC(電子商取引)、音響機器メーカーなどと提携して提供している。幅広いメディアの動画向けの音源になる。

著作権フリーの音源を国内外にネット販売する(英語版、オーディオストック提供)

【ユーチューブ】

コロナ禍でネット向け音源利用が増えたことで、新たに芸能事務所が顧客となった。タレントのテレビ番組やライブへの出演機会が減ったため、タレント自らが動画制作と配信に挑戦する機会が増えた。そこで制作環境を支えるため、芸能事務所が同社の著作権フリーのサービスに契約。これら芸能事務所の所属タレントは複数社合わせて約300人。「(動画投稿サイトの)ユーチューブに適合した音源を提供し、制作の煩わしさを減らした点が評価された」(西尾社長)という。

歌や楽器のレッスンや演奏で生計を立ててきた音楽家も新型コロナの影響を受けた。そのため同社サービスに登録し、作曲に挑戦する人も多い。新規登録者数は4月時点で約600人。1月と比べて倍増した。その後も月500―600人の登録が続く。「スタジオでなく自宅で収録する作曲家が増え、機材の選定などのサポートが増えている」(同)。トップの作曲家は同サービスで年間500万―600万円を稼いでいるという。これを「1000万―2000万円に引き上げたい。ストックミュージシャンを夢のある仕事にしたい」(同)と強調する。

【自然音を配信】

ほかにも官民連携事業研究所(大阪府四條畷市)と連携し、自然音のコンテンツ化に挑む。奈良の法隆寺がある斑鳩(いかるが)の里や岡山の岡山城を望む烏(う)城公園などの自然音を配信する。在宅勤務の増加で、働く個人がBGMを選ぶ機会も増えた。出身地や思い出の土地の音を聞きながら仕事をすると、観光で旅行先を選ぶきっかけにもなる。西尾社長は「観光地に還元するビジネスモデルを作りたい」と力を込める。(小寺貴之)

日刊工業新聞2020年8月28日

COMMENT

明豊
執行役員 DX担当
デジタルメディア局長

西尾さんは日刊工業新聞が主催する大学生ビジコンの受賞企業。8年前にある対談企画ではじめてお会いしてそれ以来のお付き合い。当時の対談インタビューではこんなことを言ってました。 「音楽クリエーターを支援するための『流通革命』をやりたいんです。音楽業界はレコード会社やプロダクションの力が強く、クリエーターの力は弱い。それでもCDが売れた時代は食べていけましたが、今はリスナーの価値観が多様化したことや、インターネットなど音楽の入手経路が増えたことから、CDが売れなくなった。結果、クリエーターにお金が入りにくくなっています。今は野菜も生産者から買う時代。クリエーターが作品をネット上で発表し、気に入った企業がそれを買うといった、新しい流通の仕組みをつくりたい。音楽業界の既得権益を崩すことにもなりかねないし、大変なことだという覚悟はあります。でも僕がやらなくても誰かがやること。なら僕がやりたい」

関連する記事はこちら

特集