日本の医療ロボットは世界の覇権を握れるのか
治療や診断、介護の質向上と業務効率化に道
医療機器分野でロボット技術の導入が活発化してきた。ロボットの精緻な動きが難しい手術をサポートするだけではない。超高齢社会に突入する日本では医療を受ける人が全国各地で増え続ける。一方で医療従事者も高齢化し、医療の人材不足や地域偏在が大きな課題として日本にのしかかる。従来の治療や診断、介護の質を維持向上し病院業務を効率化するには、医療従事者を支援するロボットの活用が欠かせない。
【注射薬自動セット】
病院内で検体検査部門や薬剤部門はオートメーション化が進んでいる。パナソニックヘルスケア(東京都港区)は注射薬の払い出し、錠剤の包装、一包化薬の鑑査といった業務に対応したロボットシステムを一括提供し、薬剤部門をまるごとロボット化する提案を強化している。
注射薬払出ロボは空のトレーに患者ごとに使用する注射薬を自動でセット。錠剤包装ロボは患者が服用する1回量の薬を自動包装し、一包化薬鑑査ロボが一包内の薬の計数鑑査を行う。いずれも薬剤師の業務負担を軽減し、ヒューマンエラーも減らせる。
自動錠剤包装ロボはこのほど新製品が完成した。新型ロボはプラスチックとアルミ箔(はく)で薬を一錠づつ包装したPTPシートを自動で除包する機能を搭載した。これまで担当者がPTPシートから薬を手で取ってセットしていた作業を、ロボットが代行する。これも作業時間の短縮や調剤過誤の軽減につながる。10月内に全国販売を始める計画だ。
薬剤部門ロボはこれまで大規模施設での利用が多かったが、「今後は中堅規模の施設にも販売を強化する。海外では中国などへの参入も検討している」(纐纈正雄パナソニックヘルスケアバイオメディカ事業部薬局システム営業所長)という。
【低侵襲治療】
オリンパスは消化器内視鏡治療支援ロボの試作機を完成させ、世界初の実用化に大きく近づいた。笹宏行オリンパス社長は「(患者負担を軽減させる)低侵襲治療を推進していくにはロボットの活用が不可欠だ」と強調する。
内視鏡は開腹せずに体内を観察でき、処置具を使った低侵襲な内視鏡治療が世界で広まりつつある。内視鏡と多関節処置具を組み合わせたロボットシステムは、がんなどの病変部を切除する治療をさらに効率化できる。
スコープと多関節処置具の通路を設けたチューブを体内に挿入し、医師はモニターを見ながらスティック操作で2本の多関節処置具を自在に動かせる。現在の治療は内視鏡スコープ先端の鉗子口から複数の処置具を1本ずつ出し入れして病変部を切除するため、手術時間の短縮にもつながる。
【「ダヴィンチ」普及】
これまで手術・治療ロボは米国企業に先行を許してきた。米インテュイティブサージカルの腹腔鏡手術支援ロボ「ダヴィンチ」は日本だけで200台以上が稼働。がん細胞に放射線をピンポイント照射する米アキュレイの治療ロボ「サイバーナイフ」を導入する国内施設も増えている。ただ、医療機器は対象となる疾患や治療方法などによって細分化されている。
ロボット化はまだ一部の先行事例に過ぎない。オリンパスは消化器内視鏡の世界シェア7割を握っており、ロボット化も独壇場で進められる。同様に国内企業が優位性を保てる分野はまだ多く残されている。
(文=宮川康祐)
【注射薬自動セット】
病院内で検体検査部門や薬剤部門はオートメーション化が進んでいる。パナソニックヘルスケア(東京都港区)は注射薬の払い出し、錠剤の包装、一包化薬の鑑査といった業務に対応したロボットシステムを一括提供し、薬剤部門をまるごとロボット化する提案を強化している。
注射薬払出ロボは空のトレーに患者ごとに使用する注射薬を自動でセット。錠剤包装ロボは患者が服用する1回量の薬を自動包装し、一包化薬鑑査ロボが一包内の薬の計数鑑査を行う。いずれも薬剤師の業務負担を軽減し、ヒューマンエラーも減らせる。
自動錠剤包装ロボはこのほど新製品が完成した。新型ロボはプラスチックとアルミ箔(はく)で薬を一錠づつ包装したPTPシートを自動で除包する機能を搭載した。これまで担当者がPTPシートから薬を手で取ってセットしていた作業を、ロボットが代行する。これも作業時間の短縮や調剤過誤の軽減につながる。10月内に全国販売を始める計画だ。
薬剤部門ロボはこれまで大規模施設での利用が多かったが、「今後は中堅規模の施設にも販売を強化する。海外では中国などへの参入も検討している」(纐纈正雄パナソニックヘルスケアバイオメディカ事業部薬局システム営業所長)という。
【低侵襲治療】
オリンパスは消化器内視鏡治療支援ロボの試作機を完成させ、世界初の実用化に大きく近づいた。笹宏行オリンパス社長は「(患者負担を軽減させる)低侵襲治療を推進していくにはロボットの活用が不可欠だ」と強調する。
内視鏡は開腹せずに体内を観察でき、処置具を使った低侵襲な内視鏡治療が世界で広まりつつある。内視鏡と多関節処置具を組み合わせたロボットシステムは、がんなどの病変部を切除する治療をさらに効率化できる。
スコープと多関節処置具の通路を設けたチューブを体内に挿入し、医師はモニターを見ながらスティック操作で2本の多関節処置具を自在に動かせる。現在の治療は内視鏡スコープ先端の鉗子口から複数の処置具を1本ずつ出し入れして病変部を切除するため、手術時間の短縮にもつながる。
【「ダヴィンチ」普及】
これまで手術・治療ロボは米国企業に先行を許してきた。米インテュイティブサージカルの腹腔鏡手術支援ロボ「ダヴィンチ」は日本だけで200台以上が稼働。がん細胞に放射線をピンポイント照射する米アキュレイの治療ロボ「サイバーナイフ」を導入する国内施設も増えている。ただ、医療機器は対象となる疾患や治療方法などによって細分化されている。
ロボット化はまだ一部の先行事例に過ぎない。オリンパスは消化器内視鏡の世界シェア7割を握っており、ロボット化も独壇場で進められる。同様に国内企業が優位性を保てる分野はまだ多く残されている。
(文=宮川康祐)
日刊工業新聞2015年10月16日 ロボット面